追放された貧乏令嬢ですが、特技を生かして幸せになります。〜前世のスキル《ピアノ》は冷酷将軍様の心にも響くようです〜

湊一桜

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第二章

50. アンドレ様の溺愛が、エスカレートしています

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 いつものように目を覚まし、身支度をして一階へ降りると、アンドレ様が食卓に座っていた。

「おはようございます、アンドレ様」

 満面の笑みで挨拶をすると、

「おはよう、リア」

いつものように笑顔で返してくれる。この穏やかな笑顔が大好きだ。アンドレ様が大好きだ。
 いつもと同じアンドレ様だが、心なしか顔色が悪く目元が腫れている。

 (少し目元が腫れていても、それが逆に色っぽいです)

 邪な思いが頭に思い浮かび、慌ててそれを打ち払った。

「アンドレ様、具合が悪いのですか? 」

 そう聞くと、彼は悩ましげに答えた。

「昨夜はあまり眠れなかった。……君のことを考えていたんだ」

 ドキッ……
 胸に甘い矢が刺さる思いだ。こんなヤンデレチックなアンドレ様もたまらない……が、ふと思う。いくら前世とはいえ、アンドレ様に慎司の話をしてはいけなかったのだ。前世の恋人の話とはいえ、アンドレ様にとって楽しくなかっただろう。
 だが、アンドレ様も同じ時代に生まれていたと知ると、驚きを隠せない。こうやって、少しずつアンドレ様を知れて嬉しい。

 ウハウハな私とは反対に、アンドレ様は神妙な顔をしている。そしてそのまま、私に告げた。

「もし良かったら、隣に来てくれないか? 」

 (と……隣……ですか? )

 だが、断れない私はふらふらと彼に歩み寄り、通常よりもずっと彼の近くに置かれていた椅子に座る。その間にもずっと彼の甘い視線を感じて落ち着かない。

「いただきます。
 ……わぁ、今日はフレンチトーストですね!! 」

「あぁ。君が喜んでくれると思っていた」

 甘くて柔らかそうなフレンチトーストを見て、ふと思い出した。私は前世、慎司が作るフレンチトーストが大好きだった。見た目とは相反して、慎司は料理が上手だった。

 (あっ、でもそれは過去の記憶でした。
 今はアンドレ様に集中です)

 フレンチトーストを食べる間も、アンドレ様の熱い視線を感じる。やがて我慢出来なくなったのか、アンドレ様はフォークにフレンチトーストを突き刺し、私の口元へ持ってくる。

「わっ!! 自分で食べられます!」

 慌てるが、アンドレ様が容赦してくれるはずもない。諦めた私は真っ赤な顔で、差し出されたフレンチトーストをぱくっと食べた。

「美味しいか? 」

 フレンチトーストよりも甘い声で囁かれ、こくりと頷く私。それにしても、アンドレ様はどうしてしまったのだろうか。少しずつ愛情表現をしてくださるようにはなっていたが、いきなりここまでぶっ飛んでしまうだなんて。

 (急にこんなに甘くなるなんて、落ち着きません。何かあったのでしょうか……)

 アンドレ様は愛しそうにフレンチトーストを食べる私を見つめている。そして新たなフレンチトーストをフォークに刺し、また私の口元へ運ぶ。

「そ、そんなにたくさん食べられません」

 慌てる私をアンドレ様はなおも愛しそうに見つめている。

 (本当に、どうしちゃったのですか!? )

 やがて、私の観察に飽きたのか、アンドレ様はようやく私から目を逸らし、私に聞く。

「建国記念日の舞踏会で、ピアノを弾かないか? 」

「えっ!? 」

 突然の提案に戸惑う私。舞踏会でのピアノ演奏だなんて、私としたことが厚かましい。一大行事の舞踏会には多くの貴族が集まるだろうし、下手したらリサイタルみたいな規模になってしまうだろう。それを、ただの貧乏男爵令嬢だった私が……!? 

「君のピアノは素敵だと、みんなが言っている」

 甘ったるいその声で、彼は少し言いにくそうに告げた。

「君は前世ピアニストを目指していた。……と、君の恋人から聞いた」

 (慎司、何言ってるの!?  
 アンドレ様にそんなことを言ってしまうだなんて……)

 真っ赤になって口を塞ぐ私。だが、この甘い言葉に惑わされてはいけない。私は笑顔で、だがきっぱりと告げた。

「前世ではそうでした。でも、今世は違います。
 今の私の夢は、アンドレ様と幸せに暮らすことです」

「……っ」

 アンドレ様は真っ赤になって目を押さえる。だから、言ってはいけないことだったとようやく思い知る。

 (アンドレ様が優しいからって、私、なんてことを言っているのでしょう)

 あたふたする私を、目から手を離したアンドレ様が見る。その顔はやはり真っ赤で、アンドレ様らしくない情けない顔だ。こんな顔にもきゅんきゅんする。

「俺が聴きたいんだ」

 アンドレ様はすがるように告げた。

「君のピアノを、俺が聴きたいんだ」


 アンドレ様はずるい。そんな言い方をされると断れないことくらい、分かっているだろうに。


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