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第二章
53. 騙されたのかもしれない
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とうとう建国記念日がやってきた。街は朝から大賑わいだった。露店の数は通りを埋め尽くすほどになっており、人々がいそいそと街を行き交っている。そして、宮廷もそれに負けないほどの賑わいだった。
私はアンドレ様の妻として、アンドレ様の隣の席に座っている。アンドレ様がこの日のために買ってくださった、煌びやかなドレスを纏って。それにしても、このドレスを着るのも恥ずかしい。アンドレ様の髪のようなキラキラ輝く銀色で、ところどころアンドレ様の瞳の菫色のレースがあしらわれている。
(これじゃあ、俺の女だと見せびらかしているようなものです)
だが、使用人たちの手により、私も五割り増しほどになっていた。髪を束ねて編み込み、綺麗に化粧をしていただくと、まあ見られるかな、ほどの女にはなっていた。
(それよりも、アンドレ様のかっこよさのほうが反則なんですがーッ!! )
というのも、今日のアンドレ様は正装姿だ。特別な式典の時のみ着るという、白色で豪華な飾りのついた騎士服を着ている。その白色と銀髪が、近寄れないほどの輝きを放っている。
アンドレ様に見惚れていると、ふとこちらを見るアンドレ様。視線がぶつかり真っ赤になり、慌てて目を逸らした。
こんなアンドレ様はやはり将軍なだけあり、たくさんの来賓が挨拶に来る。来賓の多くは遠くの領地から来ていて、いかにこの式典が盛大なものかを思い知った。そして、挨拶するアンドレ様は平常運転の無表情。この安定の無表情が怖かったが、今はとても安心するのであった。
盛大なファンファーレが鳴り響き、軍事パレードが始まった。国の騎士たちが並び、きびきびと通り過ぎていく。その騎士たちに、アンドレ様と並んで拍手を送った。
終盤には、宮廷騎士団の隊列が続く。近衛騎士団の先頭には、白い馬に跨って旗を掲げたフレデリク様の姿があった。いつもはにこにこチャラチャラしているフレデリク様だが、今日はきゅっと口元を結んでいてとてもかっこいい。
フレデリク様に見入っていると、アンドレ様に手をぎゅっと握られた。思わずアンドレ様を見るが、その顔は真っ直ぐと正面を向いている。こうやって机の下で繋がれている手が、二人だけの秘密のようで痺れるのであった。
盛大なパレードのあとは、いよいよ式典だ。陛下の挨拶の後に、なんと軍事総司令官の演説だ。私はこんな演説があることなんてもちろん知らない。先ほどまで私の手を握っていたアンドレ様はさっと立ち上がり、いつものキリッとした顔で壇上に上り、話し始める。私の隣にいる時は優しいアンドレ様なのに、壇上で演説する彼はまさしく大国の軍事総司令官だった。安定の無表情だが、その姿には威厳が感じられる。
「ねえねえ」
近くで女性の声がした。
「あのかたが、例の冷酷将軍なのよね。
姿はとてもかっこいいけど、とても怖そうだわ」
「しーっ!! 」
それを聞いて、もはや落ち込むことはなかった。むしろ、優しいアンドレ様を知っているのは私だけだと優越感に浸る。
(……私だけ?
マリアンネ殿下は? )
そして、その存在を思い出して胸が痛む。マリアンネ殿下が気になって仕方がない私は、王族の席を見ていた。そこにはやはり美しいマリアンネ殿下がいて、微笑みを浮かべてアンドレ様を見ている。マリアンネ殿下を見れば見るほど、自分に自信がなくなってくる。私がマリアンネ殿下だったら、アンドレ様はもっと惚れてくれたのだろうか。
そんななか、
「ルピシエンス夫人」
小声で呼ばれて振り返る。すると、そこにはスーツを着た男性が立っている。年齢は私と同じくらいだろうか。
彼は丁寧に頭を下げ、私に告げた。
「私は軍のものです。
アンドレ将軍が夫人にお見せしたいものがあるとのことです」
「アンドレ様が……? 」
私は驚いたが、彼はしーっと私を制す。
「ただいま式典中のため、お静かに願います」
「す、すみません」
私は小声で囁き立ち上がり、彼の後を追った。彼はどんどん会場を進み……振り返った私の耳には微かに拍手が聞こえてくる。アンドレ様の演説が終わったのだろうか。
「さあ、早く」
こうして促された先には、小さな馬車が止まっている。
(どうして馬車なのでしょう)
微かな疑問を感じるとともに、馬車に乗り込んだ。
(一体、アンドレ様は何を見せないのでしょうか)
馬車は結構な勢いで街を進んでいく。宮廷の馬車ですら、こんな勢いで街を走ることはなかった。その速さに恐怖すら覚える。そして、街の外れにたどり着くやいなや、扉が開かれた。
一筋の明るい光が馬車へ差し込み、
「さあ、夫人。こちらへ」
外へ出る。そして、促されるまま小さな古びた小屋へ入った。
明るい屋外とは違い、その小屋はじめじめとして暗かった。何やらかび臭い匂いまでする。ここへきて、ようやく何かがおかしいことに気付き始める。
(本当にアンドレ様が呼んだのでしょうか……)
疑問に思った私の前に、水色の宝石が輝くブローチが出される。きらきら輝いて綺麗だが……何だろう。
「アンドレ様が、これをあなたにと」
「……え!? 」
思わず身を引く。
アンドレ様が私にブローチをくださる? いつも私にものをくださるときは、アンドレ様本人が手渡ししてくださった。それなのに、プレゼントをわざわざ人に預けるのはなぜだろう。
不思議に思う私の首元に、ずっと縄がかけられる。
(えっ!? )
縄の硬い感触を感じながら、背筋を寒気が走った。
(状況が読めません。どういうことなんでしょう!? )
私はアンドレ様の妻として、アンドレ様の隣の席に座っている。アンドレ様がこの日のために買ってくださった、煌びやかなドレスを纏って。それにしても、このドレスを着るのも恥ずかしい。アンドレ様の髪のようなキラキラ輝く銀色で、ところどころアンドレ様の瞳の菫色のレースがあしらわれている。
(これじゃあ、俺の女だと見せびらかしているようなものです)
だが、使用人たちの手により、私も五割り増しほどになっていた。髪を束ねて編み込み、綺麗に化粧をしていただくと、まあ見られるかな、ほどの女にはなっていた。
(それよりも、アンドレ様のかっこよさのほうが反則なんですがーッ!! )
というのも、今日のアンドレ様は正装姿だ。特別な式典の時のみ着るという、白色で豪華な飾りのついた騎士服を着ている。その白色と銀髪が、近寄れないほどの輝きを放っている。
アンドレ様に見惚れていると、ふとこちらを見るアンドレ様。視線がぶつかり真っ赤になり、慌てて目を逸らした。
こんなアンドレ様はやはり将軍なだけあり、たくさんの来賓が挨拶に来る。来賓の多くは遠くの領地から来ていて、いかにこの式典が盛大なものかを思い知った。そして、挨拶するアンドレ様は平常運転の無表情。この安定の無表情が怖かったが、今はとても安心するのであった。
盛大なファンファーレが鳴り響き、軍事パレードが始まった。国の騎士たちが並び、きびきびと通り過ぎていく。その騎士たちに、アンドレ様と並んで拍手を送った。
終盤には、宮廷騎士団の隊列が続く。近衛騎士団の先頭には、白い馬に跨って旗を掲げたフレデリク様の姿があった。いつもはにこにこチャラチャラしているフレデリク様だが、今日はきゅっと口元を結んでいてとてもかっこいい。
フレデリク様に見入っていると、アンドレ様に手をぎゅっと握られた。思わずアンドレ様を見るが、その顔は真っ直ぐと正面を向いている。こうやって机の下で繋がれている手が、二人だけの秘密のようで痺れるのであった。
盛大なパレードのあとは、いよいよ式典だ。陛下の挨拶の後に、なんと軍事総司令官の演説だ。私はこんな演説があることなんてもちろん知らない。先ほどまで私の手を握っていたアンドレ様はさっと立ち上がり、いつものキリッとした顔で壇上に上り、話し始める。私の隣にいる時は優しいアンドレ様なのに、壇上で演説する彼はまさしく大国の軍事総司令官だった。安定の無表情だが、その姿には威厳が感じられる。
「ねえねえ」
近くで女性の声がした。
「あのかたが、例の冷酷将軍なのよね。
姿はとてもかっこいいけど、とても怖そうだわ」
「しーっ!! 」
それを聞いて、もはや落ち込むことはなかった。むしろ、優しいアンドレ様を知っているのは私だけだと優越感に浸る。
(……私だけ?
マリアンネ殿下は? )
そして、その存在を思い出して胸が痛む。マリアンネ殿下が気になって仕方がない私は、王族の席を見ていた。そこにはやはり美しいマリアンネ殿下がいて、微笑みを浮かべてアンドレ様を見ている。マリアンネ殿下を見れば見るほど、自分に自信がなくなってくる。私がマリアンネ殿下だったら、アンドレ様はもっと惚れてくれたのだろうか。
そんななか、
「ルピシエンス夫人」
小声で呼ばれて振り返る。すると、そこにはスーツを着た男性が立っている。年齢は私と同じくらいだろうか。
彼は丁寧に頭を下げ、私に告げた。
「私は軍のものです。
アンドレ将軍が夫人にお見せしたいものがあるとのことです」
「アンドレ様が……? 」
私は驚いたが、彼はしーっと私を制す。
「ただいま式典中のため、お静かに願います」
「す、すみません」
私は小声で囁き立ち上がり、彼の後を追った。彼はどんどん会場を進み……振り返った私の耳には微かに拍手が聞こえてくる。アンドレ様の演説が終わったのだろうか。
「さあ、早く」
こうして促された先には、小さな馬車が止まっている。
(どうして馬車なのでしょう)
微かな疑問を感じるとともに、馬車に乗り込んだ。
(一体、アンドレ様は何を見せないのでしょうか)
馬車は結構な勢いで街を進んでいく。宮廷の馬車ですら、こんな勢いで街を走ることはなかった。その速さに恐怖すら覚える。そして、街の外れにたどり着くやいなや、扉が開かれた。
一筋の明るい光が馬車へ差し込み、
「さあ、夫人。こちらへ」
外へ出る。そして、促されるまま小さな古びた小屋へ入った。
明るい屋外とは違い、その小屋はじめじめとして暗かった。何やらかび臭い匂いまでする。ここへきて、ようやく何かがおかしいことに気付き始める。
(本当にアンドレ様が呼んだのでしょうか……)
疑問に思った私の前に、水色の宝石が輝くブローチが出される。きらきら輝いて綺麗だが……何だろう。
「アンドレ様が、これをあなたにと」
「……え!? 」
思わず身を引く。
アンドレ様が私にブローチをくださる? いつも私にものをくださるときは、アンドレ様本人が手渡ししてくださった。それなのに、プレゼントをわざわざ人に預けるのはなぜだろう。
不思議に思う私の首元に、ずっと縄がかけられる。
(えっ!? )
縄の硬い感触を感じながら、背筋を寒気が走った。
(状況が読めません。どういうことなんでしょう!? )
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