男の僕がイケメンに声をかけられた件

たこす

文字の大きさ
1 / 1

男の僕がイケメンに声をかけられた件

しおりを挟む
「ねえ君、今からどう?」

 街中で声をかけられて、僕は固まった。
 今からどう、とは?

 頭の中が「?」で埋まる。

「あ、あの……」

 焦る。
 正直、人見知りが激しい僕にはどう応えていいかわからない。

 混雑した人通りを避け、裏道を通ったのが仇となった。
 いきなり、知らない男に声をかけられたのだ。

「かわいいね、君。何歳(いくつ)?」

 そう言いながら、声をかけてきた男が僕を壁に追いやる。

 ヤバい……。
 これは本格的に、ヤバい……。

「ぼ、僕、男ですよ……?」
「わかってるよ、そんなの」

 わかってるんかい!!

 目の前に迫る男。黒いYシャツに白い胸元をさらけだし、妙な色気を漂わせている。
 僕は震えながら、男の目を見つめた。
 細く、透き通った眼をしていた。顎はシャープで、ニヤリと笑う口元からは白い歯が見える。美男(イケメン)、というのはこういう人のことを言うのだろうか。

 少しタバコのにおいのするところが、ちょっとワイルドっぽさを感じさせる。

「あの、えと、ほんと困ります……」
「なにが?」

 そう言って、僕の首筋に手を添えた。

「ふあっ!?」

 思わずため息を漏らす。
 冷たい指先の感触が、僕の背中をゾクゾクとさせた。

「思った通り。君、こっちのケがあるだろう?」

 こっちのケってなんだ、こっちのケって。
 どっちのケもないよ。ていうか、なんか卑猥だよ。

「け、警察呼びますよ?」
「呼びなよ。呼べるもんならね」
「あ」

 気づけば、僕は両腕を押さえつけられていた。
 ものすごい力で、身動きすらとれない。
 絶体絶命のピンチ。
 いや、ピンチを通り越して、為すすべがない。

 男の顔が、ゆっくりと迫ってくる。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい……!!

 僕は、それ以上直視できずに目をつぶった。
 男の息遣いが顔にかかった直後、「こらあっ!!」という声が横から聞こえてきた。

 その声に反応して、僕の両腕をつかんでいた手がビクッと震える。
 その一瞬のスキをついて、僕は男の手を振りほどき、思いきり突き飛ばした。

「だはぁっ!!」

 男は声を上げ、数歩下がると尻餅をつく。と、同時にその頭を駆けつけた女の人がパコンッと叩いた。

「痛っ」
「なにしてんのよ、あんたは!!」

 男が美男とするならば、女の人は美女とでもいおうか。
 絹の白いドレスに、赤いヒール、ストレートの長い髪が印象的だ。

「いや、この子があまりにも可愛くて……」

 男の言葉に、再度女の人がパコンッと叩く。

「あんたバカなの!? アホなの!? 可愛いからって、いきなり襲うの!?」

 ごもっとも。
 もっと言ってあげてください。

「襲ってないよ、ちょっとにおいを嗅ごうとしただけだよ」
「それを襲うっつうんだよ!!」

 女の人の渾身のゲンコツが、男の頭上に落下した。

「ぐえっ」

 男はうめき声を上げながら、白目を向いた。

「………」

 あまりの展開に、僕はただただ呆然と立ち尽くす。

「ごめんね、君。変なヤツに絡まれちゃって」
「い、いえ……」
「こいつ、可愛い男を見ると見境がなくなるの」
「はあ……」

 二人の関係がよくわからない。
 男のほうは要するに、アレなのだろう。見た目からではまったくわからないが。
 なら、この女の人は男にとってなんなのだ?

 不思議そうな顔で見つめていると、彼女はそれに気づいて言った。

「ああ、私たち別に恋人同士じゃないわよ」
「はあ……」
「なんていうか、似た者同士なの」
「はあ……」

 さっきから「はあ」しか言ってない。

「私、こう見えて男なの」
「はあ…………うええぇっ!?」
「んで、こっちは女」
「う、うえええぇぇぇっ!!??」

 待て待て待て待て、どういうことだ。
 いったい、どういうことなんだ?

 僕を襲おうとしたこの男が女で、目の前の女が男で……。

 なにがどうなってんの?

 くるくる目をまわす僕を見て、彼女……いや、彼が言った。

「ふふ、ほんと、あなたって可愛いわね」
「あ、いや、えーと……」
「私が襲っちゃおうかしら」

 その言葉を聞いて、僕はその場から全速力で逃げ出した。
 幸いにも、追ってはこられなかった。
 走りながら大通りへ出ると、立ち止まって大きく息を吸う。
 そしてため息とともに平常心を取り戻した僕は心から思った。

 美しすぎる男の姿をした女性。
 美しすぎる女の姿をした男性。

 世の中には、いろんな人がいるものだ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

カクヨムでアカウント抹消されました。

たかつき
エッセイ・ノンフィクション
カクヨムでアカウント抹消された話。

兄になった姉

廣瀬純七
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...