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どちらかといえば猫派です
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「柴田君てさあ、犬派? 猫派?」
近所の三宅(みやけ)さんからそんなことを聞かれて、僕は一瞬かたまった。
いきなり何を言い出すんだ、彼女は。
「それは犬の方が好きか猫の方が好きかってこと?」
尋ねる僕に、三宅さんはうふふと笑う。
「それ以外、どんな意味があるというの?」
大人っぽい、色つやのある声に僕の心はぞくりと震えた。
「どちらか片方なんて選べないよ。犬猫派っていうんじゃ、ダメ?」
「ダメ。どっちか選んで」
「じゃあ逆に聞くけど三宅さんはどっち派なの?」
「柴田君が答えてくれたら言うわ」
こんにゃろう。
と心の中でつぶやく。でも言えない。
三宅さんは僕よりも1歳年上で、すでにだいぶ大人だ。
処世術にも長けている。
他人の顔色伺いばかりしている僕とは大違いだ。
おそらくウソを言っても通用しないだろう。
「どちらかといったら、猫……かな」
「どうして?」
「自由奔放なところとか、ツンデレなところとか、何よりも可愛い」
「あら、犬だって可愛いじゃない」
「そうだけど……。犬の可愛さと猫の可愛さってちょっと違うかなって。犬は一緒にいて楽しい可愛さだけど、猫は……見ているだけで可愛い」
そう言う僕に、三宅さんは目を細めて笑った。
「柴田くんて、面白いね」
「そ、そうかな。そんなこと、初めて言われた。それよりも、三宅さんはどっち派なの? 僕も答えたんだから教えてよ」
「え~。どうしよっかな~」
いたずらっぽく笑う三宅さんに僕はプンスカしながらつかみかかる。
「教えてよ! 僕だけに言わせるなんてズルい!」
怒ってる僕の顔がよほど面白いのか、三宅さんは「あははは」と笑いながら僕の手をひらひらとかわしていった。
「わかったわかった、言うわよ。私は、犬の方が好き」
三宅さんの言葉に、僕はようやく彼女を追いまわすのをやめた。
「三宅さん、犬派なの?」
「変?」
「変ていうか。てっきり猫派かと……」
「だって犬ってすっごく純粋で甘えん坊でかまってちゃんで、なんだか放っておけない存在じゃない」
「いや、犬にもいろいろいるけど……」
「そうね、わかってるわ」
そう言いながら、三宅さんはフッと笑った。大人の笑みだ。
「まあ、一番の理由は柴田君が“犬”だから……かな」
その一言が、僕の胸を貫いた。
「な、な、な……」
突然の告白に、僕の頭が真っ白になる。
「あははは。かーわいい! やっぱり柴田君て面白いね」
「もう、三宅さん! 猫だからって僕をからかうのはやめてよ!」
またもやつっかかろうとすると、三宅さんはそのきれいな足で塀の上に飛び乗り、見上げる僕に向かって言った。
「ほらほら柴田君、ここまでおいでー」
「ずるいよ! 柴犬の僕じゃそこまで跳べないのに」
笑いながら去っていく三宅さん。
三毛で野良猫の彼女は、いつもこうやって僕をからかいに来る。
でも、そんな彼女が僕は大好きだ。
「また来てね」
三宅さんが消えた塀の向こう側に向かって、僕は言った。
近所の三宅(みやけ)さんからそんなことを聞かれて、僕は一瞬かたまった。
いきなり何を言い出すんだ、彼女は。
「それは犬の方が好きか猫の方が好きかってこと?」
尋ねる僕に、三宅さんはうふふと笑う。
「それ以外、どんな意味があるというの?」
大人っぽい、色つやのある声に僕の心はぞくりと震えた。
「どちらか片方なんて選べないよ。犬猫派っていうんじゃ、ダメ?」
「ダメ。どっちか選んで」
「じゃあ逆に聞くけど三宅さんはどっち派なの?」
「柴田君が答えてくれたら言うわ」
こんにゃろう。
と心の中でつぶやく。でも言えない。
三宅さんは僕よりも1歳年上で、すでにだいぶ大人だ。
処世術にも長けている。
他人の顔色伺いばかりしている僕とは大違いだ。
おそらくウソを言っても通用しないだろう。
「どちらかといったら、猫……かな」
「どうして?」
「自由奔放なところとか、ツンデレなところとか、何よりも可愛い」
「あら、犬だって可愛いじゃない」
「そうだけど……。犬の可愛さと猫の可愛さってちょっと違うかなって。犬は一緒にいて楽しい可愛さだけど、猫は……見ているだけで可愛い」
そう言う僕に、三宅さんは目を細めて笑った。
「柴田くんて、面白いね」
「そ、そうかな。そんなこと、初めて言われた。それよりも、三宅さんはどっち派なの? 僕も答えたんだから教えてよ」
「え~。どうしよっかな~」
いたずらっぽく笑う三宅さんに僕はプンスカしながらつかみかかる。
「教えてよ! 僕だけに言わせるなんてズルい!」
怒ってる僕の顔がよほど面白いのか、三宅さんは「あははは」と笑いながら僕の手をひらひらとかわしていった。
「わかったわかった、言うわよ。私は、犬の方が好き」
三宅さんの言葉に、僕はようやく彼女を追いまわすのをやめた。
「三宅さん、犬派なの?」
「変?」
「変ていうか。てっきり猫派かと……」
「だって犬ってすっごく純粋で甘えん坊でかまってちゃんで、なんだか放っておけない存在じゃない」
「いや、犬にもいろいろいるけど……」
「そうね、わかってるわ」
そう言いながら、三宅さんはフッと笑った。大人の笑みだ。
「まあ、一番の理由は柴田君が“犬”だから……かな」
その一言が、僕の胸を貫いた。
「な、な、な……」
突然の告白に、僕の頭が真っ白になる。
「あははは。かーわいい! やっぱり柴田君て面白いね」
「もう、三宅さん! 猫だからって僕をからかうのはやめてよ!」
またもやつっかかろうとすると、三宅さんはそのきれいな足で塀の上に飛び乗り、見上げる僕に向かって言った。
「ほらほら柴田君、ここまでおいでー」
「ずるいよ! 柴犬の僕じゃそこまで跳べないのに」
笑いながら去っていく三宅さん。
三毛で野良猫の彼女は、いつもこうやって僕をからかいに来る。
でも、そんな彼女が僕は大好きだ。
「また来てね」
三宅さんが消えた塀の向こう側に向かって、僕は言った。
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