曼珠沙華 -御伽噺は永遠に-

乙人

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「はぁ。」
「どうか、なさいました?」
 溜め息をついた叔父君を、叔母君は心配そうにした。
「厳しいのだよ………ほら、大君が贅沢しすぎて。」
(まぁ。お金のこと?)
 実は叔父君は、政敵に敗れ、失脚してしまっていた。そして、月の終わりに、左遷されることが決まっていたのだ。
「兄さんが生きていてくださったら。あの方の財力と言ったら、私は叶わないものだから。」
「二条のお邸(姫君の住んでいた邸)を、売り払ってはどうですか、中の君には、此方に移って貰いましょう。元々、彼女には此方に戻って来て欲しかったから……………」
 叔父君ははぁ、と溜め息をつきながら、首を横に振った。
「そのことだが…………中の君には、本当に申し訳無いのだが、此処から出て頂こうと思っている。大君も中の君を嫌がっていたし…………………」
「何故、どうして……………」
「あの娘は、元々出家したがっていた。これで、良いのでないか?」
「そう…………」
「まずは、女房を辞めさせよう。」

(え、私、辞めなくてはならないの?)
 珠寿は、自分の未来より、姫君のことを案じていた。
「すまないねぇ。其方達を雇う程、財力が無くなったのだよ。私は左遷されてしまうからね。」
 同じ理由で、珠寿の他の女房達も辞めさせられた。残ったのは、古参の、給料を要らないと言った数人の女房だけだ。

『中の君。すまないとは、本当に思っています。貴女には、邸を出て頂きます。二条邸は、売り払います。左遷され、更に大君の贅沢で、財産が無いのだよ。許して下さい。尚、珠寿達女房は、上記の理由で、辞めて貰いました。こんな叔父を、お許し下さい。』
 姫君はそんな文を叔父君から貰っていた。
(珠寿が、辞めたですって……)
 文を握っていたてが、ブルブルと震え、止まってはくれない。
(では、私には、何が残っているの?)
 それから幾日か。姫君は寝込んでしまった。

-まぁ、美しい曼珠沙華。今は、秋ではありませんのよ。何故、咲いているの。
『姫様。』
-誰?久光なの?
『そうですよ、久光です。』
-逢えた…………やっと、逢えた。
 現実現し世黄泉か、姫君には分からない。分かりたくは、無い。
-やっと、逢えた……………!
 姫君が久光に向かって手を伸ばした、その瞬間だった。
 -彼女は、息を、引き取った。

 いつだったか、彼女が愛でた曼珠沙華は、枯れていた。

-瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
 割れても末に あはむとぞ思ふ-
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