どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
21 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その21 親友

しおりを挟む

「んふー……」

 午前中の授業も終わり、僕はぐんと伸びをした。やはり座学ばかりは退屈で、身体の節々が鈍りに鈍っていた。

「お疲れ様、ケンくん」
 と、一夜は僕に声をかけてくる。

「あぁ、お疲れ、一夜。今日も生徒会室でお昼かい?」
「えぇ。まだやるべき仕事は残ってるし、紗琉ちゃんもきっとお昼を食べながら仕事しているハズだわ。少しでも紗琉ちゃんの荷を軽くさせるのが私の役目だから」

 と、一夜は窓の外を眺めながら、そう独り言のように呟く。

「忙しそうだもんな、生徒会」
「えぇ。紗琉ちゃんってば、他の委員会をまったく信用していない訳でもないのに、自分で仕事を抱え込むから……」

 確かに、紗琉は何かと生徒会の仕事を一人で捌こうと必死すぎる。ただでさえ、自分が生徒に支持されているとはいえ、生徒会の仕事は多い。
 それを紗琉は自分だけでどうにかしようとばかり考えているのだ。それをサポートするためにも、一夜は生徒会副会長として、紗琉の親友としてその役目を担っているのだ。

「でもさ、紗琉も流石にキツい時は自分から助けを求めるんじゃないの?」
「いいえ。紗琉ちゃんはどんな仕事でも、自分だけでどうにかしようと背負い込むのよ。生徒会長だからこれくらい出来て当然!と思ってるんでしょうね」

 紗琉の考えている事はどうやら、一夜にはすべてお見通しのようだ。確かに紗琉は、問題を一人で抱え込むことが多い。生徒会の仕事も、クラスの仕事も、すべて一人で捌こうと必死だ。
 勿論、紗琉が弱音を吐いた事はない。自分が弱音を吐けば、生徒たちが不安になるとでも思っているからだろうか? 紗琉はいつも、強がりな部分だけを周りに見せ、自分の本当の気持ちを表に出すことはなかった。

「そうだよな。紗琉ってあんまり自分から助けを必要とするような感じじゃないし」
「えぇ。だからこそ、紗琉ちゃんが参る前に私がサポートに回るの」
「……そういえば、一夜は紗琉と幼馴染だったっけ?」
「そうよ。だから私は、紗琉ちゃんの考えている事はすべてお見通しなの」

 と、さも当然のように言う一夜。紗琉の事を考えている一夜は、流石幼馴染といったところだろうか。相手の考えている事さえも読めるようだ。

「それじゃケンくん、また後で」
「うん。一夜もムリしないで」

 そう言い返すと、一夜は教室を出て、生徒会室へと向かっていった。それを見送ると、僕は深いため息を吐いた。

「いいな、紗琉は。こんなに自分の事を思ってくれる親友がいてくれてさ」

 僕に親友と呼べるような人間はいない。だからこそ、こうして自然に出てきてしまった言葉だった。人畜無害の僕はそもそも、人と関わる事が少なく、友達も指で数え切れるほどだ。その中で、僕の事を思ってくれる人間がいるのかさえも分からない。
 だからこそ、こうして自分の事を大事にしてくれている一夜みたいな親友を持てて、羨ましかったのだ。

「あら、私はケンくんの事も思ってるのよ?」
「うわぁっ!? 一夜!? もう終わったの?」
「いいえ、忘れ物をしたから取りに来たの。それで、ケンくんは自分の事を心配してくれる親友がほしいのかしら?」
「べ、別にそんなことは言ってないよ!! ほら早く! 紗琉が待ってるよ!」
「ふふ。私は紗琉ちゃんもだけど、ケンくんの事も大事な親友として見てるのよ」

 くすり、と笑いながら、今度こそ本当に一夜は教室を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...