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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その42 チーム名

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 練習試合を控えた前日。練習を適度に済ませ、休憩していたある時だった。
 ジュースを飲みながら、ふと、先輩はこんなことを言い始めたのだ。

「そういえば……まだ、チーム名考えてなかったね」
「え?」

 僕とちぃ、路世先輩は声を揃えて疑問の声をあげた。チーム名とは、一体何の話だろうか?
 ワケが分からないので、代表して僕が聞いて見ることにした。

「先輩、チーム名ってどういうことですか? 大体、僕たちにチーム名なんて必要なんですか?」

 そもそも、この練習試合にチーム名なんてあって意味があるのだろうか? 僕らは海老津学園太鼓部として、春日学園と試合をするのだ。
 それに僕らのチーム名なんて必要なのか、僕らにはイマイチ理解できなかった。
 それでも望子先輩は、さも当然のように言い始めたのだ。

「そりゃあね! チームの名前がなきゃ、これからのモチベーションも上がらないし、何よりやる気が起きないよ!」
「…………」

 どうやら、望子先輩の考えていることは常人であるであろう僕にはまったくと言っていいほど理解できなかったようだ。勿論、ちぃも路世先輩も同意見のようで、ため息を吐いたり、肩をすくめたりしていた。
 僕もなんだか偏頭痛が起きたかのように頭を抱えるのだった。

「それで……チーム名は決まったんですか?」

 頭を抱えながらも先輩に尋ねてみる。きっと先輩のことだし、今の思いつきで言っただけなのだろうと思った。
 しかし、今回の先輩は一味違っていたのだ。

「うん。この募集箱に入ってたの!」
「えぇ!?」

 意外にも先輩が言うよりも先に行動していたことと、誰かが先輩の考えに乗ってくれたという絶妙なダブルパンチで、僕は素っ頓狂な声をあげてしまった。
 まさか、先輩の考えに乗ってくれていた人がいるとは、誰も予想できなかっただろう。

「で、何枚入ってたんだ?」
「んーと……一枚!」

 一枚だけとはいえ、望子先輩の考えに乗った人って誰なんだろうと思いながら、先輩はその紙を取り出し、めくる。
 そこには小さく「b’s」と書かれていたのだ。

「えーと……B’z?」
「先輩、それは別のバンドの名前です。b’sって書いてますね」

 先輩のボケに突っ込みを入れながら、僕はその名前を口にした。
 一体、誰がどういう意味で入れたのかはわからないが……その名前はなんだか、僕らに一番似合っているような、そんな感じがした。

「よく分からないけど、かっこよくない?」
「そうだな。意味は分からんが、クールっぽくて俺は好きだぞ」
「はい。チーム名が必要かどうかは知りませんが、太鼓部というよりそっちの方がいいと思います」

 なんと満場一致だった。チーム名の必要性は分からないが、それでもその名前は非常に良く、僕らに一番いい響きだと感じる。

「よーし、それじゃ今から私たちは『b’s』ってチームとして、明日の練習試合に備えるよー!」

 こうして、新たなチーム名を胸に掲げ、僕ら太鼓部……いいや、『b’s』は再スタートを切るのだった。
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