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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その12 占い

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「ねぇ、すっごく面白い話していいかなー?」

 唐突にそう切り出す望子先輩。僕とちぃは相変わらず本を読みながら、路世先輩はいつものようにパソコンの画面とにらめっこしていた。

「なんですかー?」
「さっきね、ガム開けたら当たったの!」

 と、先輩は誇らしげに十円ガムの当たりを僕に見せてくる。その容姿がまるで、子どもみたいで僕はついつい先輩の頭を撫でそうになっていた。

「すごいですねー。で、何が面白いんですか?」

 伸びた手を引っ込めながら、僕はそう返す。先輩が面白い話をするといいながら、たかがガムの当たりだけで笑いが取れるとは思ってないだろう。

「なにが面白いって、今日のテレビの占いで私一位だったんだよー。これって占いのせいかなーって思ってさ」

 と、先輩はにこり、と満足そうな笑顔を見せた。つまり、先輩はこのガムの当たりは、今日の自分の運勢のおかげと言いたいのだろう。
 正直、僕は占いなんてそんなに興味はないし、たかだか十円ガムの当たりで喜べるような人間ではない。そのため、こんな小さなことでも喜べる先輩がとても子どもっぽくていいな、と少しばかり思ってしまった。

「そうですね。先輩は今日はきっとツイてるんですよー」

 なんて言いながら、僕は先輩の満足そうな笑顔に対抗するかのように笑顔を見せる。

「だよねー。今日なんて、食堂のおばちゃんから、コロッケ一つおまけしてもらったり、自動販売機で当たりが出て、もう一本ジュースが買えたりしたから」
「凄いじゃないですか。今日、何気に運いいですねー」

 確かに。食堂のおばちゃんがおまけしてくれることなんて滅多にないし、学校の自動販売機で当たりが出るなんて三年に一度くらいだと噂されるほどの確率を、先輩は今日、どちらも起こしているのだ。それは運がいいとしか言い様がない状態だった。

「それは凄いですね……。今日の望子さんはラッキーマン改め、ラッキーウーマンといったところでしょうか」
「でしょでしょー。もっと褒めてもいいんだよー」

 と、自分の今日の運勢を自慢するかのように胸を張る先輩に、僕とちぃは驚きを隠しきれなかった。こんな幸運な人が今、身近にいるという現実を受け入れきれないことと、先輩の強運の凄まじさで僕とちぃはただただ、言葉を失っていた。

「ケン後輩、ちょっと」

 と、ここで初めて路世先輩が口を開く。何やら僕に話があるようで、僕は先輩の近くまで寄ると、路世先輩は小言でこう言い出した。

「望子は昨日だって、食堂のおばちゃんにおまけしてもらってたし、自販機のジュースの当たりだって、それ俺がお釣り取り出すの忘れたからなんだぜ?」

 なるほど。幸せとは、時に残酷なんだなとしみじみ思う僕なのだった。
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