悪魔のいけにえ

眠兎

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夜のドライブ

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 川野樽男はリムジンの後部座席でほくそ笑んでいた。前厚生労働大臣だった彼は、国民の声を汲み取る気配さえ見せずに、次の質問を、と仰々しい面持ちで仕切るのが、この頃では快感でさえあった。父親の代から世襲した、有力な与党の立ち位置は、彼をして、この世界の椅子取りゲームに勝利した、世界でも1%に数える、支配者側の人間なのだと自覚していた。
そうして隣の席に座っている、絶世の美人秘書の内腿を撫でさすり、彼女の嫌悪感を感じ取ると、殊更、勝利者の美酒に浮かれる思いを強くしていた。
車外の暗闇のせいで、リムジンの車窓に自身の顔が鮮明に浮かび上がったが、精神が腐敗しているので、悪鬼のように刻印された顔面にも、むしろ身惚れているような有様だった。
その時赤信号で車が停車し、次の支援金教団に向かう予定を確認しようと、憎たらしい表情でローレックスを覗き込んだとき、太腿に痛みが走った。それほどの激痛ではなかったが、患部を見やると、1本の注射器が突き立っていた。それを握っていた美人秘書の指は、中の薬剤を迅速に注入した。驚きのあまり秘書の顔を凝視しようとしたが、強烈な眠気が襲ってきた。樽男は秘書のシートの方に崩れかかったが、次々に両太腿に注射器を突き立てられているのが分かった。シートに転がった7本ほどのアンプルの容器には見覚えがあった。かつて自分が、全国民に接種を推進して、華麗にその責任から逃亡した、あの薬剤だった。薄れゆく意識の外で、秘書の冷酷なせせら笑いが聞こえた。「クワチンの世界へようこそ」もちろん樽男は、そんな得体の知れない薬剤など打ったこともない。唇が震え出し、全身から汗が吹き出した。
そして視界が暗黒に引きずり込まれた。
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