流れ星に願う

るいさいと

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岬緋奈の決断

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「それで?岬さんはどうしたい?」
嗚咽が響く部屋で、義央は問いかけた。
「うっ…………うぅ………。私は……祐樹くんと一緒に…………いたいっ…………」
鼻を啜る音が、響く。
対して、斎藤が。
「────────嫌だよ」
「………えっ?」
「もうウンザリだッ!!顔も名前も知らねえ女に付き纏われて!挙句体も乗っ取られるなんてッ!!良い加減にしてくれ!とっとと成仏しろよ!!!」
叫ぶ斎藤。黙る岬。見守ることしかできない義央と浩輔。
「お前みたいな幽霊とずっと一緒に生きて行くくらいなら、いっそ殺された方がマシだよ…ッ!」
その言葉を受け、岬の瞳に大粒の涙が浮かぶ。
「どうしてそんなこと言うの………?アタシだって……ユウキくんに迷惑かけたくなくて………だから1人で死んだのに……………ッ!それでも神様が、やっと、やっとユウキくんを守るための力をくれたから………だからユウキくんを守り抜くって決めたのに…………ッ!!なんでッ!!!!なんでそんなこと言うのよ………。」
お互いの悲痛な心の声が、響き渡った。
その瞳から流れ落ちる涙は、頬から離れてすぐに消えてしまった。
風通しの悪いこの部屋では、ただただ澱んだ空気が満ちるばかりである。
「もう一度だけ聞くぞ。“お前たち”はどうしたい?公共の福祉に反さない範囲でなら自由にしてやる。」
今度は浩輔が、同じ問いを2人に投げかけた。
泣きながら、また岬が答えた。
「…………………………私たちを……………はなばなれにして…………」
命を投げ打ってでも守り抜くと決めた人間が、自分自身を忘れ、剰え自信の存在に怒りをあらわにした。胸中で、不愉快にも悲哀と憤慨と淅瀝とが、薄気味悪く混じり合っていた。
沈黙を決め込む斎藤も、そこに異論はないようだった。
だが。
「…………それはできない」
『……………………えっ?』
浩輔の出した返答は、2人を困惑させるに足るものだった。
『ど…………………どうして………………?』
「さあな。俺も聞きたい。だがどう言うわけだか、霊能力者と憑依する霊は、一度決定したら切り替えられない。霊能力者が死なない限りな。」
つまるところ、憑依する幽霊は、最初に一度だけ憑依先を選定することができ、以後憑依先の切り替えは不可能になる。憑依先が死亡した際に自身も晴れて自由になれるが、同時に自身の存在も消滅する。これが、霊能力者と憑依する幽霊との間にあるルールの一つ。
「じ、じゃあ……。俺は一生このままなのか…………??」
泣きそうな顔で、縋るように斎藤が問いかける。
「その通りだ。恨むんなら自分の過去を恨むんだな。」
「そ、そんな………………」
「まあハッキリ言って、俺たちからしたら甚だどうでも良い話だ。外で二度と悪さをしないと誓うのなら何だって良い。あとは2人で解決しろ。」
浩輔が冷淡に言い放つ。対して義央が食いつく。
「ちょ、ちょっと浩輔くん……!」
「どうした?」
「そんな言い方ないんじゃ……」
義央の指摘に、はぁ。と、ため息を一つ吐いて答える。
「………いいか?俺たちは慈善団体じゃないんだ。ただ危険な霊能力者を撃退、更生させるのが目的なんだ。コイツらの不幸より、街のみんなの安心の方が大切なんだ。分かるだろう?」
「そう思うのは自由だけど、そんな言い方は……」
「コイツらだって散々人に危害を加えてきたんだ。今更言葉のナイフごときで被害者ヅラさせねえよ」
「そんな………」
暴論だった。だがそれは同時に、言葉で人を傷つけた分、自身も傷つく覚悟があると言う決意の表れでもあった。
あまりにも鋭くなった思考が、他者をこんなにも傷つけてしまうものだと学ぶのに、義央はそう苦労はしなかった。
と。そこへ、岬が声を上げた。
「分かった………。もう人に……危害は加えないわ…。コイツを守りたいだなんて…………思わないもの。」
悲しい声で、岬がそう呟いた。
斎藤は、静かに天井を眺めていた。
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