恋愛短編。

雪咲響鬼

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秘密

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キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音。
ガラガラッ
ダダダダダダダン
ドアの開く音にたくさんの足音。
そして通り過ぎていく笑い声。

今日も昼休みになった。
みんなは元気に走り回るけどそこには誰も来ない。
僕だけが行く。
僕だけの秘密の場所。
それは旧図書室。
今はただの本の倉庫。
秘密、なんていい響きだろう。

(まぁ、みんな新校舎の新しい図書室に行くから誰も来ないだけなんだけどね。
普段鍵かかってるしなぁ。
本の整理の為って無理言って鍵を先生から借りてるから僕だけの秘密の場所なんて言っている。
図書委員バンザイ!!)

そんなことを考えながら今日も秘密の場所に行く。

そして、今日も日課を行う。




「僕と、付き合ってください。」
「嫌です。」





「また振られた……
ぐすん。
しかも即答。
ぐすん。」


「だって、いつも同じ言い回しで同じことを言ってくるんだもの。
もう飽きたわ。」

「飽きた!?
酷いや!!」

僕の日課、それは彼女に告白をすること。



この場所に訪れる唯一の人物。
先生も知らない。僕だけが知ってる。
僕が来るようになった時よりも前から通っている人物。

そしていつも先にいる。

鍵は僕が持ってるのに、先に入っていつもの場所、
ちょうど陽の当たる窓際の本棚に寄りかかって彼女は座っている。

その彼女の前に腰を下ろす。
これがここに来るようになってからの僕達の定位置。

向かい合って座りながら他愛もない話をしたり、本を読んだりをする。

そんな何でもない休み時間が僕は大好きだ。

「今日も先をこされちゃったな。」

「ふふふ。
君が来るのが遅いんだよ。
先に来たいならもっと頑張るんだね」

「むぅ。。
頑張る。
それより、何を読んでるの?」
(今日はチャイムと同時だったから、先だと思ったんだけどなぁ……)

「ん?これ?
[秒速五センチメートル]だよ。
新海 誠さんの本。」


(さくらの絵が綺麗だな……)
「そうなんだ。
じゃあ。こないだあなたが言ってた
西 加奈子さんの[さくら]を読もうかな。」


今日はお話じゃなく本の日のようだ。

ペラッペラッ。


ペラッペラッ。


ページの音だけが静かな部屋に響く。

キーンコーンカーンコーン。
パタン。
「今日はもう終わりだね。
じゃあ。また明日。
告白。楽しみにしてるよ。」
そう言って本を閉じる。
部屋を出る。
「うん。また明日。」
鍵をかけてから教室に戻る。
何でもない日常へ帰っていく。






ザァーーザァーーーー。
今日は雨である。
いつもの場所に座る彼女はちょっと不機嫌だ。

「雨は嫌だね。
本が読みにくい。」

「そうだね。
あなたの綺麗な黒髪が濡れてしまうし、結んでしまうのももったいないしね。」

彼女はとても長いストレートの黒髪を雨の日にはポニーテールやツインテール。
お団子と結び方を変えて結んでいる。
次はどんな髪型にするのか楽しみではあるけど、ちょっと勿体ない気もする。

「クスッ。
褒め方が上手になったんじゃないのかい?
照れてるのも可愛いが、照れずに言えれば完璧だと思うよ。
相変わらず告白の言葉は変わらないのが少し残念だけどね。」
彼女はそう言っていつも通りにからかってくる。

「そういえば、明日は集会ですね。
また参加しないんですか?」

恥ずかしいので話を変える。
「そうだね。
あまり面白くもなさそうなんでね。
君が誘ってくれて隣で話し相手になってくれるなら行ってもいいかもしれないが、どうだろうか?」

「集会中ずっと喋っているのは先生に目をつけられそうなので遠慮します。」


「そうか。残念だね。」

彼女を全校集会で見かけることがなかったので聞いてみたら
「つまらなそうだから行かないんだ。怒られるわけでもないしね。」こんな答えが返って来たので、それ以来思い出したら誘うようにしている。

「おや。そろそろ今日も終わりだね。
また明日。集会のお話楽しみにしているよ。」

「あぁ。わかった。寝ないように気をつけるよ。」

これは集会のお誘いをした後の別れる時の言葉だ。







そばに置いていたお茶を飲む。
(日が当たった為か少し温くなってしまっていたが無いよりはマシかな。)
この部屋にはクーラーが無いので今日みたいに風がある日には、
開けている窓から風が入って来るから嬉しいな。


「君は暑そうだね。
すごい汗じゃないか。
本に垂らさないでくれよ?」


今日は本を読む日だと思っていたが、読んでいた本を閉じて汗ひとつかいていない涼し気な表情で彼女が話しかけてくる。
本に目を向ける。
[蛇行する川のほとり]という恩田 陸さんという方の本だ。

僕も読んでいた[夏のバスプール]という本を閉じて返事をする。

「そういうあなたは涼しそうですね。
スカートだからですか?」


「いや。そういう風に振舞っているからさ。
それに、今日の君の告白のせいで火照っているんだよ?」

日課の告白。
最近やっと彼女を赤面させることができるようになってきた。

「そうだったんですか?
最近はテレビや本で勉強するようにしているんです。」

今も読んでいたし、最近は恋愛小説をよく読む。

やられたからか、彼女は仕返しにこんなことを言ってくる。


「そういえば、一昨日告白された。
と言ってたがこんな所で彼女以外の女と会ってていいのかい?
しかも告白なんてものまでしちゃって、
立派な浮気だよ?」

ニヤニヤと笑いながら言う。

「その話なら断ったって言ったじゃないですか。
あまり話をしない女子でしたし、相手も罰ゲームの一環だったんですよ。」

僕はイケメンという訳じゃないし、運動も得意じゃない。
クラスでも目立ったりもしないので告白されたのなんて初めてだった。
それなのにお遊びだったのでノーカンにしたいのに彼女はそうさせてくれないようだ。


ちなみに、年下の可愛い子だった。

そう言うと彼女は少し真面目な顔をして、
「おや。そうだったかい?
君はいい男だと思うのになぁ。
相手は勿体ないことをしたものだ。
いや、最近の子は見る目が無いのかな?」
そんなことを言いながらまた本を開いた。







今日の日課も終わらせて彼女の前に座る。

最近はよく話をするので本はお休みだ。
「君はこんな所で話をしていていいのかい?
クラスでお化け屋敷をするんだろう??」

「いいんですよ。
僕は当日驚かせる役をするので準備はお休みなんです。
どうせクラスにいても邪魔なだけなので。
それならあなたの相手をしていた方が楽しいです。」


彼女は定期的に髪を短くするのにハマる。
腰の辺りまであった髪を肩の辺りでそろえて、前髪をピンで止めるんだ。
長い髪は知的で清楚な感じだがこうすると活発な女の子って感じでとても可愛い。

そのことを褒めた時は、
「そうだろう。そうだろう。僕は長いのも好きなんだが短いのも恐ろしいくらい似合っちゃうんだよねぇ。
君もよくわかっているじゃないか!」
と、ご満悦だった。
褒めてよかったと思う。




♪~~~
色々な歌声が廊下に響いているなか、
日課をしてからいつもの場所に座る。


「やぁ。今日は来ないんじゃないかと思ったよ。
今週で1番遅かったんじゃないのかな?」

「ごめん。
なかなか合格にして貰えなくて。
遅くなっちゃった。」

「あはは。
仕方ないよ。
君はいわゆる音痴というやつだものね。」

「うぅっ……
そんなハッキリ言わなくてもいいじゃないか。
遅れたことの仕返しなのかな??」

「いやいや。
寂しいとか思ってないし、怒ってもいないよ。
この時期は遅れるってわかってからはあまり気にしないようにしているんだ。
初めて遅れた時はちょっとショックだったけどね。」

「あなたは歌上手いよね。
声もとても綺麗だし。
みんなが聞いたらびっくりするんじゃない??」

「そうかな?
自分じゃわからないな。
おや。もう終わりか。
また明日。今度はなるべく早く来てね。
待ってるから。」








いつもの場所に彼女がいないので椅子と机が置いてある部屋に行ってみる。

彼女はそこにプレゼントしたひざ掛けをしながら腰掛けていた。

なのでその前に座ろうとすると横の椅子をポンポン。
と叩かれたのでそこに座ることにした。

「この時期はやっぱりここなんですね。
それ、暖かいですか?」



日課と一緒にそう言って2つ用意したお茶を彼女にも差し出した。

彼女は手をつけないのはわかっていたので自分だけ飲む。
いつもからかわれるのでちょっとした仕返しだ。

「ふむ。
わかってはいたが君は意外と意地悪なようだね。
面と向かって告白を聞くのも感想を聞かれるのも恥ずかしいから横に座らせたのに、耳元で言うなんて意地悪だ。」

「あ。やっぱり恥ずかしかったんですか?
あまり表情変わらないので気づきませんでした。」


「いじわる……」

彼女がボソッと何か言っていたが聴き逃してしまった。
聞き返すと怒られそうなのでやめておく。






最近は親御さんをよく見かけるようになった。

「おや。何か不安でもあるのかな?
顔色が良くないよ?」

いつもの日課を終え、
少しあわあわしていた彼女が落ち着いたのだろう。
そんなことを聞いてくる。

「そうかな?
うん。でもちょっと悩み事があるかな?」

そう返す。
すると。
「女の子のことで悩んでるのかな??
僕といるのに他の子のことを考えるなんてやるねぇ?」

そうからかってくる。
なのでちょっと意地悪をする
「いや。あなたの事で悩んでいたんだよね。
どうやったら告白を受けてくれるのかな。
って。」


「えぇ!?
えっとぉ。
うん。
べ、別の話をしないかい??」

その答えは考えてなかったのか、また狼狽える。
可愛いのでまた今度機会があったらやろう。
そう心に決める。
すると、悩みや不安など吹きとんでしまい
心は晴れていた。






彼女はサクラの絵が綺麗に描いてある本を読んでいた。
懐かしい。



最近は彼女の横顔ばかり見ていたので、顔を前から見たいと思ったので彼女の前に座ることにした。

ちょっと不機嫌そうだ。

彼女はまた髪を腰の辺りまで伸ばしている。
やっぱりこれが一番似合ってて可愛いので好きだな。

そろそろ今日が終わる。
忘れては行けない日課を
彼女にしていなかった。






彼女は静かに読んでいた本を閉じる。


「僕と、付き合ってください。」
「嫌です。」


即答だった。
いつもと同じ返事が返ってきた。




「僕は君とは一緒に行けないよ。」

「わかってるよ。」
同じことを聞かれるのでそう返す。


「あなたがいいんだ。
ダメかな?」






いつもと違うことを言う。

「僕のどこがいいの?」
心底不思議そうに言う。




あぁ。そんな顔も可愛らしい。
なのでそれを含めて見てきた彼女の素敵な話をする。

桜が綺麗なころ。
この窓から彼女の
桜に負けないくらい綺麗な笑顔を見て息を飲んだこと。
そして、この場所の鍵を手に入れて、
初めて日課を行った時の戸惑った笑顔。
怖がりなのに怖い話を読んで少し震えていたところ。
告白をされたり、別の子と後夜祭で踊ったりした時には不貞腐れてしばらく話をしてくれないようになったこと。
勉強も見てくれて教え方が下手だったのにどんどん上手くなっていくところ。
試験では僕以上にドキドキしてた。
ずっとずっと見てきた。

林間は来てくれなかったけど修学旅行には一緒に来てくれて、
ドキドキワクワクしちゃて二人とも眠そうにしてたな。

まだまだたくさんある。

「も。もういい。
もういいから。」
暑く語りすぎたようだ。


彼女は照れてしまった。
うん。やっぱり可愛い。

「本当にいいの?」
「あぁ。あなたじゃなきゃダメなんだ。」
照れながらそう言うので即答する。






「…………。
ありがとう。
君は本当に意地悪だね。





そしてやはりいい男だ。
ここに来るのは終わりかな。
どうしよか?」
「じゃあ。一緒に集会に出ようか。
最後の全校集会だ。
ずっと隣にいて欲しい。」



「わかった。
誘われたら行くって言ってたからしょうがない。」
彼女はハニカミながら笑う。


「今日で日課は終わらせるのかい?
残念だなぁ。」
本当に残念そうに言っているのを見て嬉しく思った。



今度は一緒に部屋を出てから鍵をかける。



隣で初めてみた時と同じ笑みを浮かべている彼女に心の中で言う。
次は「僕と同じ墓に入ってください。」
は無理だから、
「僕と結婚してください。」を日課にするよ。





きっと同じ返事が返ってくるだろうけど、気長に繰り返そうと思う。




今度は、3年以上時間があるんだ。
君は変わらないけどまた動かして見せるよ。


そんなことを考えながら歩いていると、この学校で何年も先生をしている担任の先生が僕を待っててくれた。


先生に旧図書室。
僕の、いや。僕と彼女の秘密の場所の鍵を返す。

「ありがとうございました。
最後まで日課をこなすことが出来ました。」



「おぉ。やっと来たか。
こんな日だし少し心配だったんだ。
まぁ、ずっと、鍵を渡してたからあんまり心配はしてなかったんだがな。
わははは。

早く並べ。
卒業式始まるぞ!
それにしても、
卒業式まで図書室に行くやつはお前とあいつくらいだな。」

「こんな日だからこそ行ったんですよ。


あいつって、先生がよく話される人ですか?
一緒の列に並んでいるかも知れませんね。」
そう言って横にいる彼女に目を向ける。



ちょっと古い制服を来て、担任の先生を見ている彼女に……




僕は恋をした。
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