14 / 99
前編
お茶会
王宮内の庭園の一角、美しい花々を愛でつつ紳士淑女が歓談をしている。今日は、王妃主催の定例お茶会の日だった。
当然の事だが、王妃主催のお茶会と言えども参加する貴族達の目的は私ではない。アルザス王国の王たるレオン陛下が目的なのは明白である。
この定例お茶会に陛下が参加しなければ、誰も来ない事だろう。
それにしても不思議ではある。この定例お茶会には、何故か毎回、休む事なく陛下は参加している。もちろん、このお茶会は公務の一貫だが陛下が参加する義務はないのだ。なのに、呼んでもいないのに来る。
以前から、お金だけかかる定例お茶会なんて辞めてしまいたいと思っているが、陛下が律儀に出席するものだから辞めるにやめられない状況が続いている。
本当、はた迷惑な話だ。
このお茶会がないだけで、公務が一つ減るのだ。無駄遣いもなくなり、侍女ティナとしての活動時間も増えるというのに。
しかも、あの夜会以降、陛下の様子がおかしい。
今回のお茶会のオープニングも、いつもは遅れてやって来る筈が、開始を告げる挨拶の時には、すでに居た。しかも、私の腕を取り会場に入り、そのまま隣を陣取っているではないか。はっきり言って挨拶どころではなかった。あまりの緊張に何を挨拶したか覚えていない有り様だ。
今やっと無表情の陛下から解放され、自分の席で一息つけたところだった。
当の本人は、愛するアリシア様と絶賛歓談中である。
彼女に嫉妬でもしてもらいたかったのだろうか?
当て馬にされる、こちらの身にもなって欲しいものだ。
それにしても今日のお茶会は大盛況である。側妃候補にバレンシア公爵家のアリシア様が内定した事で、バレンシア公爵家と繋がりを持ちたい貴族が、今も陛下とアリシア様を囲んでいる。
当然の事ながら、私の存在は無視である。まぁ、その方がこの後実行するミッションを完遂するには好都合ではあるのだが。
「王妃様、今日はお招き頂きありがとうございます。妹の付き添いで、ご挨拶が遅くなりました」
「まぁ、ルドラ様」
彼を招いた覚えは全くないのだが……
紅茶を飲みつつ、お茶会の様子を伺っていた私の目の前に厄介な人物が現れた。話の端々に散りばめられた嫌味を気づかない振りをして、笑顔でかわす。
「アリシアも陛下に会えて実に嬉しそうです。まさか、王妃様主催のお茶会に陛下が現れるとは思わないじゃないですか。陛下もすぐにアリシアに気づいたようで、たくさんの貴族に囲まれ困っていた妹を救い出してくださいました」
「それは良かったわ。アリシア様も側妃候補になられて色々と大変でございましょう。妻となられる方のサポートは夫として当然の事だと思いますわ」
「妻のサポートは夫として当然ですか。ふふふ、王妃様は面白い事をおっしゃられる。一つ言葉が抜けておられる。愛する妻の…が正しいかと思いますよ」
「あら?うっかりしておりましたわ。ルドラ様のおっしゃる通りです。アリシア様と陛下は、とても素敵な夫婦になられますわね。あの陛下が、大切にエスコートなさっているのだもの。結婚したあかつきには、バレンシア公爵家の事も、ルドラ様の事も綺麗さっぱり忘れるほど、陛下から愛される妃になられるのでしょうね。お兄様としても安心でしょう」
「…………」
ーーやっぱりね。
わずかだが、ルドラ様の顔つきが変わった。
平静を装ってはいるが、目が笑っていない。腹の中は怒りで荒れ狂っている事だろう。
初めてルドラ様に会った時の勘は間違いではなかった。
『ルドラ様はアリシア様を愛している』
ただ、その事をアリシア様に伝えているとは思えない。
彼女の幸せを願い、自分は身を引き、邪魔者を蹴落とす決意をしたってところだろう。
妹を愛してしまった悲劇か……
そろそろルドラ様の八つ当たりに付き合う時間も無くなって来た。王宮の警備が緩くなるお茶会の時間は限られる。邪魔者はさっさと追い払うべきだ。
「ルドラ様、こんな所で油を売っていてよろしいのですか?貴方様と、お話をしたくてウズウズしている令嬢方がたくさんいらっしゃるようですよ。貴方様も、お飾り王妃に関わって変な噂を立てられても困るでしょうに」
「そうですね。噂好きの貴族達に変な噂を流されるのは不本意ですし。お飾り王妃と繋がっているだなんて、万が一にもアリシアと陛下の婚約に影響したら目も当てられない。王妃様、御前失礼致します」
「えぇ。ゆるりとお過ごし下さいね」
背を向け立ち去るルドラ様を見送り立ち上がる。
さて、私も行動を開始しなければならないわね。
「ティアナ様‼︎ 無理でございます。入れ替わるだなんて絶対に無理ですぅぅ」
王妃の間に戻って来た私は、急いで侍女ティナの格好へと着替え、今まで着ていたドレス一式と銀髪のカツラをルアンナへと押しつける。
「大丈夫よぉ。誰も王妃の事なんて見ていないわ。貴方が王妃に変装してお茶会に参加しても、誰も気づかないから大丈夫。さぁさぁ、時間がないわ。侍女の皆さんルアンナの支度をよろしくね」
「ティ、ティアナ様!お待ちくださーい‼︎‼︎」
ルアンナの叫びを背に王妃の間の扉を閉めると走り出した。
当然の事だが、王妃主催のお茶会と言えども参加する貴族達の目的は私ではない。アルザス王国の王たるレオン陛下が目的なのは明白である。
この定例お茶会に陛下が参加しなければ、誰も来ない事だろう。
それにしても不思議ではある。この定例お茶会には、何故か毎回、休む事なく陛下は参加している。もちろん、このお茶会は公務の一貫だが陛下が参加する義務はないのだ。なのに、呼んでもいないのに来る。
以前から、お金だけかかる定例お茶会なんて辞めてしまいたいと思っているが、陛下が律儀に出席するものだから辞めるにやめられない状況が続いている。
本当、はた迷惑な話だ。
このお茶会がないだけで、公務が一つ減るのだ。無駄遣いもなくなり、侍女ティナとしての活動時間も増えるというのに。
しかも、あの夜会以降、陛下の様子がおかしい。
今回のお茶会のオープニングも、いつもは遅れてやって来る筈が、開始を告げる挨拶の時には、すでに居た。しかも、私の腕を取り会場に入り、そのまま隣を陣取っているではないか。はっきり言って挨拶どころではなかった。あまりの緊張に何を挨拶したか覚えていない有り様だ。
今やっと無表情の陛下から解放され、自分の席で一息つけたところだった。
当の本人は、愛するアリシア様と絶賛歓談中である。
彼女に嫉妬でもしてもらいたかったのだろうか?
当て馬にされる、こちらの身にもなって欲しいものだ。
それにしても今日のお茶会は大盛況である。側妃候補にバレンシア公爵家のアリシア様が内定した事で、バレンシア公爵家と繋がりを持ちたい貴族が、今も陛下とアリシア様を囲んでいる。
当然の事ながら、私の存在は無視である。まぁ、その方がこの後実行するミッションを完遂するには好都合ではあるのだが。
「王妃様、今日はお招き頂きありがとうございます。妹の付き添いで、ご挨拶が遅くなりました」
「まぁ、ルドラ様」
彼を招いた覚えは全くないのだが……
紅茶を飲みつつ、お茶会の様子を伺っていた私の目の前に厄介な人物が現れた。話の端々に散りばめられた嫌味を気づかない振りをして、笑顔でかわす。
「アリシアも陛下に会えて実に嬉しそうです。まさか、王妃様主催のお茶会に陛下が現れるとは思わないじゃないですか。陛下もすぐにアリシアに気づいたようで、たくさんの貴族に囲まれ困っていた妹を救い出してくださいました」
「それは良かったわ。アリシア様も側妃候補になられて色々と大変でございましょう。妻となられる方のサポートは夫として当然の事だと思いますわ」
「妻のサポートは夫として当然ですか。ふふふ、王妃様は面白い事をおっしゃられる。一つ言葉が抜けておられる。愛する妻の…が正しいかと思いますよ」
「あら?うっかりしておりましたわ。ルドラ様のおっしゃる通りです。アリシア様と陛下は、とても素敵な夫婦になられますわね。あの陛下が、大切にエスコートなさっているのだもの。結婚したあかつきには、バレンシア公爵家の事も、ルドラ様の事も綺麗さっぱり忘れるほど、陛下から愛される妃になられるのでしょうね。お兄様としても安心でしょう」
「…………」
ーーやっぱりね。
わずかだが、ルドラ様の顔つきが変わった。
平静を装ってはいるが、目が笑っていない。腹の中は怒りで荒れ狂っている事だろう。
初めてルドラ様に会った時の勘は間違いではなかった。
『ルドラ様はアリシア様を愛している』
ただ、その事をアリシア様に伝えているとは思えない。
彼女の幸せを願い、自分は身を引き、邪魔者を蹴落とす決意をしたってところだろう。
妹を愛してしまった悲劇か……
そろそろルドラ様の八つ当たりに付き合う時間も無くなって来た。王宮の警備が緩くなるお茶会の時間は限られる。邪魔者はさっさと追い払うべきだ。
「ルドラ様、こんな所で油を売っていてよろしいのですか?貴方様と、お話をしたくてウズウズしている令嬢方がたくさんいらっしゃるようですよ。貴方様も、お飾り王妃に関わって変な噂を立てられても困るでしょうに」
「そうですね。噂好きの貴族達に変な噂を流されるのは不本意ですし。お飾り王妃と繋がっているだなんて、万が一にもアリシアと陛下の婚約に影響したら目も当てられない。王妃様、御前失礼致します」
「えぇ。ゆるりとお過ごし下さいね」
背を向け立ち去るルドラ様を見送り立ち上がる。
さて、私も行動を開始しなければならないわね。
「ティアナ様‼︎ 無理でございます。入れ替わるだなんて絶対に無理ですぅぅ」
王妃の間に戻って来た私は、急いで侍女ティナの格好へと着替え、今まで着ていたドレス一式と銀髪のカツラをルアンナへと押しつける。
「大丈夫よぉ。誰も王妃の事なんて見ていないわ。貴方が王妃に変装してお茶会に参加しても、誰も気づかないから大丈夫。さぁさぁ、時間がないわ。侍女の皆さんルアンナの支度をよろしくね」
「ティ、ティアナ様!お待ちくださーい‼︎‼︎」
ルアンナの叫びを背に王妃の間の扉を閉めると走り出した。
あなたにおすすめの小説
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています
もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の地下室に住み、姉の食べかけで飢えをしのぎ、婚約者には初対面で「老婆のようだ、姉の方がよかった」と言われた令嬢リリアーナ。
ある日その婚約者に問答無用で公爵邸に連れ帰られた。
庭の恵みを口にするたびに肌が輝き、髪が艶めき、体に力が満ちていく。首に巻いたお守りの秘密、十数年続く国の不作の真実、虐げられ続けた令嬢の出生の謎。
全てが明かされる時、地下室令嬢の逆転劇が始まる。
なお婚約者は今日も庭でグルメリポートを最後まで聞いている。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?
未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」
膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。
彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。
「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」
魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。
一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。
家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。
そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。
ハッピーエンドです!
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。