【完結】転生じぃちゃん助けた子犬に喰われる!?

湊未来

文字の大きさ
20 / 26

ポチ

しおりを挟む
 幼少期、その外見から命を狙われていたアルフレッド殿下は、罠にはまり、深傷ふかでをおい、瀕死の状態に陥った事があったそうだ。

 その時、すでに死後の世界の住人となっていたマリアさんに、またしても時の神は、残酷な選択を迫ったという。

 アルフレッド殿下を助ける代わりに、時の神の『神使しんし』と成れと。

 神使とは、神に仕える者達のことだ。つまりは、時の神は子を助ける代わりに、己の奴隷と成れとマリアさんに要求したのだ。

 本来であれば、死した魂は次の生へと転生していく。いくら、その魂がお気に入りだからと、手元に置いておくことは神だろうと出来ない。しかし、例外はあるらしい。その魂自らが、神の世界へと留まることを望み、それを神が認めた場合のみ、魂は神の世界へと拾い上げられる。そして、己を認めた神の『神使』として、永久の時を過ごすことになるらしい。

「――なんて、執念深いんだ」

「だから神なのよ。悠久の時を過ごしている彼らにとっての娯楽って何だと思う?」

「娯楽ですか? なんでしょう。想像できませんが、天界は美しい場所とは言われていますね。そこを天女なんだか、天使なんだかが優雅に飛んでいるイメージでしょうかね」

「確かに、そんなイメージを神官は説いていたわね。でも、実際はそんな素敵な場所ではないのよ。ある程度は、それぞれの神の好みに、空間を想像出来るけど、雰囲気はこことあまり変わらないわ。極端に無駄な物を省いた空間。何もないのよ。そして、彼らには娯楽を生み出そうという意識がない。だからこそ、暇を持て余している。そんな神の娯楽は、器を得て生きる者達の激しい感情の移り変わりを感じること。その感情が激しくなればなるほど、そこから得られる高揚感は大きなものとなる。それを得たいがために、神は下界へと干渉するのよ」

 私達が、テレビや映画を観て、様々な感情を疑似体験するのと同じ感覚で、神達は下界へと干渉する。良い迷惑だ……

「つまりは、下界で起きる天災や争いごとなどは、神が己の快楽を満たすために起こしていると言うことですね?」

「そうよ。彼らにとっては、魂の喜怒哀楽が激しければ激しいほど、より大きな快楽を得られる。時の神にとって、神殿での生活に疑問を持っていた私の存在は、暇を潰すにはちょうど良いおもちゃだったのね。そして、私が『神使』となれば、半永久的に負の感情という快楽を得続けることができる」

「――今も、ここに貴方がいるということは、マリアさんは時の神の『神使』となることを選択したのですね?」

「えぇ。あの子が助かるなら、憎い相手と悠久の時を過ごすことになってもよかった。これくらいしか、あの子にしてあげられないしね」

 そう言って笑うマリアさんを見つめ、これが母親の強さというものなのかと感じていた。

 私だったら、憎い相手の奴隷として過ごすなど出来そうもない。それが、たとえ愛する人のためだとしても……

「それに、側にいた方が、アイツが何か仕掛けてきた時にすぐ対処できるしね。そのおかげで、貴方の魂に前世の記憶を残したまま転生させる事が出来たのだもの」

「そうです! それです。まだ貴方から、どうして私に前世の記憶を残したか聞いていません。というか、今の言葉では、貴方が前世の記憶を残した張本人だったということですか」

「ユリアス、貴方には本当に感謝しているわ。あの子の命を二回も助けてくれた上に、今でもあの子の側にいてくれる」

「ちょっと待ってください。アルフレッド殿下を助けたのは、一回のみです。二回ってどういうことですか?」

 以前、殿下にも二回命を助けられたと言われた事があったが、その記憶はない。間違いなく、彼の命を救ったのは、あの森での一件だけだ。

「幼少期に瀕死の傷を負ったアルフレッドは、貴方の前世の世界へと転移させられたの。時の神によって」

「――うそ……だろ……」

 前世の記憶が、ある一場面を思い出させる。公園のベンチの下でうずくまり震えていた子犬……

「――ポチ……」

「そうよ。貴方が命を助け、数年にわたり世話をしてくれた子犬こそが、幼い時のアルフレッドだったの」

 ずっと殿下に感じていた既視感は間違いではなかったのだ。

 殿下の毛繕いをするたびに感じていた物悲しさと愛しさの理由がずっとわからなかった。

 心ではわかっていたのだろうか……。彼こそが、かつて失った大切なポチだったということを。

「――でも、ポチは突然いなくなった。時の神の仕業ですね?」

「えぇ……」

 マリアさんを苦しめるためだけに、ポチを元の世界へと戻したのだ。危険なアルスター王国へと。

「許せない。己の欲望を満たすためだけに、神だからといってそんな事して良いわけないだろ! 人の生死をなんだと思っているんだ!!」

 時の神への怒りで、手が震えてくる。

「神だからと、何でも許されると思うなよ! 絶対に許さない……」

 この空間が、時の神の所有物であろうとも関係ない。奴に宣戦布告してやる! いつか絶対に、己の罪深さを後悔させてやるのだから!!!!

 そんな事を心に誓いながら、マリアさんへと言葉をかける。

「何となく分かりました。貴方が私の魂に前世の記憶を残した理由が。もう一度、ポチと再会出来るようにですね?」

「えぇ。どうしてもアルフレッドの願いを叶えてあげたかったの。貴方と引き裂かれて、アルスター王国へと戻された時のアルフレッドの悲痛な叫びは今でも覚えているわ。よほど貴方との生活が幸せに満ちていたのね」

 生まれた時から命の危険にさらされ続け、己の出自と外見で散々辛い目に遭ってきた殿下にとって、ポチとしての平凡な生活こそが幸せだったのだろう。

 縁側で爺さんに背を撫でられながら、話し相手として一日の大半を過ごす。そんな平穏な生活こそ、アルフレッド殿下が最も望んでいたものだったのだ。

 マリアさんの面影を私に求めていたのかもしれないな。ポチは……

 決して得ることが出来ない母の温もりを私に求めていたのだろう。

「ユリアス、貴方には申し訳ないことをしたと思っているわ。私のわがままで、貴方に前世の記憶を残すように細工してしまったのですもの。前世の記憶がなければ、もっと生きやすかったでしょうに」

 確かに前世の記憶がなければ、草食獣人として生まれた理不尽さを感じることもなく、今でも、あの草食獣人街で、漫然と時を過ごしていただろう。森へなど行こうとも思わず、殿下と再会することもなかった。

 その方が幸せだったのではと問う声もあるかもしれない。しかし、それは違うと心が訴える。

 前世の記憶があったからこそ、アルフレッド殿下と出会うことが出来、ポチを失いポッカリと開いてしまった心を満たすことが出来たのだ。

「マリアさん、私は前世の記憶があってよかったと思っています。だって、もう一度ポチと出会えたから……」

「ユリアス……ありがとう……」

 マリアさんの目で光るものを見つめながら、今後の事を考える。

「さて、死んだ事ですし、元凶をギャフンと言わせるために手を組みましょうか。マリアさん!」

「えっ? ユリアス、貴方まだ死んでいないわよ」



 
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

魔王様に溺愛されています!

うんとこどっこいしょ
BL
「一目惚れをしたんだ、必ず俺に惚れさせてみせる」 異世界で目覚めた倉木春斗は、自分をじっと見つめる男──魔王・バロンと出会う。優しいバロンに、次第に惹かれていく春斗。けれど春斗には、知らぬ間に失った過去があった。ほのぼの、甘い、ラブコメファンタジー。 第一章 第二章 第三章 完結! 番外編追加

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人 × 箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人 愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。 (安心してください、想像通り、期待通りの展開です) Special thanks illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu) ※独自設定かつ、ふんわり設定です。 ※素人作品です。 ※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

処理中です...