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前編(ミレイユ視点)
⑪
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「まさか、私の元を逃げ出した理由も……」
驚きで見開かれた赤い瞳に睥睨され、私の心の奥底で燻り続けていたコンプレックスが火を吹いた。沸々と怒りが込み上げ、これから怒りをぶつけるであろう御方が、魔界で最も強く尊い男だということも頭から綺麗さっぱり抜け、怒鳴り散らしていた。
「仕方ないじゃないですか!! 覚醒魔王となられたディーク様は、誰もが見惚れる美青年へと成長されてしまい、猫耳メイドやら妖艶なサキュバスやら、ナイスバディな吸血族の女貴族まで押しかけてくる。猛烈なアピール合戦を毎日のように見続けていれば、自分に自信が持てなくなって当然です。しかも、守るべき主人は、自分より遥かに強い。そんな現実耐えられる訳ない。私の存在価値なんて、どこにあるんですか!?」
愛しい人の側で、自分ではない誰かに愛情を注ぐ彼を見たくなかった。だから逃げ出した。
そう……、結局のところ、私はディーク様を独り占めしたかったのだ。
分不相応な願いは、いつかは消える。
今は私に執着していても、きっと気づく。ディーク様の隣にいるべきは、ミレイユではないと。
魔力もなく、女としての魅力もない私ではなく、魔力も強く、目見麗しくて、地位も高い女魔族こそ、彼の隣に立つに相応しい。
だって、ディーク様は、この世で最も尊い御方だから……
「――――、もう……、終わりに……」
「くく、くくく……」
終わりを告げようとした私の耳に、信じられない笑い声が聴こえてくる。その笑い声に私は思わず閉じていた目を開けていた。そして、目に飛び込んで来た、口元を抑え笑いを堪えるディーク様の姿に、瞬間的な怒りが湧き起こり、彼の頬を打っていた。
小気味いい破裂音に、私の怒りのボルテージも上がっていく。
「どうせ私は、可愛くも、綺麗でも、ナイスバディな身体を持っているわけでもありませんよ! 私の取り柄なんて、剣の腕くらいで、それも覚醒魔王になったディーク様の足元にも及ばない。私なんて、さっさとオークの里に帰った方がいいんです」
私は、頬を叩かれ唖然とこちらを見つめるディーク様の胸を押しやり、立ち上がると扉へと駆け出す。
溢れ出しそうになる涙で視界が滲むが、そんなことはどうでもよかった。一分、一秒でも早く、彼の前から消えてしまいたかった。こんな惨めな姿を、ディーク様の前に晒し続けることが耐えられなかった。しかし、そんな瑣末な願いですら叶わず、扉に手をかけた瞬間、私はディーク様の腕の中へと舞い戻っていた。
「ミレイユ、貴方は私の許可がなければ、この部屋から出ることは出来ないのですよ。扉に手をかけた瞬間、私の腕の中へと転移する。そういう魔法を、この部屋には施してあるのです」
「離して!! もうディーク様に私は必要ないって分かったでしょ。自分の容姿にコンプレックスを持つような愚かな女だと思ったから、貴方は笑った。違いますか?」
「それは違います、ミレイユ。どうやら勘違いをさせてしまったようです。決してミレイユを馬鹿にして笑った訳ではありません。私の勘違いと言いますか……、てっきりミレイユの心に私はいないと思っていたので、思いがけず嬉しい言葉をもらい舞い上がってしまいました。ミレイユ……、私に群がる女魔族を見て嫉妬してくれたのでしょ?」
「嫉妬!? まさか、そんな浅ましいこと――」
本当に、嫉妬していなかったと言えるのだろうか?
私は、ディーク様の愛を独り占めしたかった。その愛が親愛だとしても、彼から向けられる特別な視線が、私の中の独占欲を日に日に育てていった。
しかし、ディーク様が覚醒魔王となり青年の姿へと成長した時から、彼へと向けられる、いくつもの視線が、ディーク様が私だけのものではない事を知らしめていた。
嫉妬していた。
ディーク様へと熱い視線を贈る女魔族にも、そんな彼女達の行動を放置し、あまつさえ笑みを浮かべ対応するディーク様にも。
「そうですよ! 貴方に群がる女達にも、そんな女達に笑みを返すディーク様の態度にも、嫉妬していた。覚醒前は、全て私だけのものだったのに!!」
心の内にずっと隠し持っていた浅ましい欲望を全てぶちまけてしまった。
もう、これでディーク様との関係は、完全に断たれる。こんな浅ましい女、好かれる訳がない。
全てをぶちまけた心には、もう、なにも残っていなかった。
これで良かったのだ。
最初の希望通り、ディーク様の元を去り、オークの里でゆっくり余生を過ごす。
結婚をするかもしれない。
子供も生まれるかもしれない。
でも、きっと忘れられないだろう。
――――ディーク様を愛していたことだけは。
驚きで見開かれた赤い瞳に睥睨され、私の心の奥底で燻り続けていたコンプレックスが火を吹いた。沸々と怒りが込み上げ、これから怒りをぶつけるであろう御方が、魔界で最も強く尊い男だということも頭から綺麗さっぱり抜け、怒鳴り散らしていた。
「仕方ないじゃないですか!! 覚醒魔王となられたディーク様は、誰もが見惚れる美青年へと成長されてしまい、猫耳メイドやら妖艶なサキュバスやら、ナイスバディな吸血族の女貴族まで押しかけてくる。猛烈なアピール合戦を毎日のように見続けていれば、自分に自信が持てなくなって当然です。しかも、守るべき主人は、自分より遥かに強い。そんな現実耐えられる訳ない。私の存在価値なんて、どこにあるんですか!?」
愛しい人の側で、自分ではない誰かに愛情を注ぐ彼を見たくなかった。だから逃げ出した。
そう……、結局のところ、私はディーク様を独り占めしたかったのだ。
分不相応な願いは、いつかは消える。
今は私に執着していても、きっと気づく。ディーク様の隣にいるべきは、ミレイユではないと。
魔力もなく、女としての魅力もない私ではなく、魔力も強く、目見麗しくて、地位も高い女魔族こそ、彼の隣に立つに相応しい。
だって、ディーク様は、この世で最も尊い御方だから……
「――――、もう……、終わりに……」
「くく、くくく……」
終わりを告げようとした私の耳に、信じられない笑い声が聴こえてくる。その笑い声に私は思わず閉じていた目を開けていた。そして、目に飛び込んで来た、口元を抑え笑いを堪えるディーク様の姿に、瞬間的な怒りが湧き起こり、彼の頬を打っていた。
小気味いい破裂音に、私の怒りのボルテージも上がっていく。
「どうせ私は、可愛くも、綺麗でも、ナイスバディな身体を持っているわけでもありませんよ! 私の取り柄なんて、剣の腕くらいで、それも覚醒魔王になったディーク様の足元にも及ばない。私なんて、さっさとオークの里に帰った方がいいんです」
私は、頬を叩かれ唖然とこちらを見つめるディーク様の胸を押しやり、立ち上がると扉へと駆け出す。
溢れ出しそうになる涙で視界が滲むが、そんなことはどうでもよかった。一分、一秒でも早く、彼の前から消えてしまいたかった。こんな惨めな姿を、ディーク様の前に晒し続けることが耐えられなかった。しかし、そんな瑣末な願いですら叶わず、扉に手をかけた瞬間、私はディーク様の腕の中へと舞い戻っていた。
「ミレイユ、貴方は私の許可がなければ、この部屋から出ることは出来ないのですよ。扉に手をかけた瞬間、私の腕の中へと転移する。そういう魔法を、この部屋には施してあるのです」
「離して!! もうディーク様に私は必要ないって分かったでしょ。自分の容姿にコンプレックスを持つような愚かな女だと思ったから、貴方は笑った。違いますか?」
「それは違います、ミレイユ。どうやら勘違いをさせてしまったようです。決してミレイユを馬鹿にして笑った訳ではありません。私の勘違いと言いますか……、てっきりミレイユの心に私はいないと思っていたので、思いがけず嬉しい言葉をもらい舞い上がってしまいました。ミレイユ……、私に群がる女魔族を見て嫉妬してくれたのでしょ?」
「嫉妬!? まさか、そんな浅ましいこと――」
本当に、嫉妬していなかったと言えるのだろうか?
私は、ディーク様の愛を独り占めしたかった。その愛が親愛だとしても、彼から向けられる特別な視線が、私の中の独占欲を日に日に育てていった。
しかし、ディーク様が覚醒魔王となり青年の姿へと成長した時から、彼へと向けられる、いくつもの視線が、ディーク様が私だけのものではない事を知らしめていた。
嫉妬していた。
ディーク様へと熱い視線を贈る女魔族にも、そんな彼女達の行動を放置し、あまつさえ笑みを浮かべ対応するディーク様にも。
「そうですよ! 貴方に群がる女達にも、そんな女達に笑みを返すディーク様の態度にも、嫉妬していた。覚醒前は、全て私だけのものだったのに!!」
心の内にずっと隠し持っていた浅ましい欲望を全てぶちまけてしまった。
もう、これでディーク様との関係は、完全に断たれる。こんな浅ましい女、好かれる訳がない。
全てをぶちまけた心には、もう、なにも残っていなかった。
これで良かったのだ。
最初の希望通り、ディーク様の元を去り、オークの里でゆっくり余生を過ごす。
結婚をするかもしれない。
子供も生まれるかもしれない。
でも、きっと忘れられないだろう。
――――ディーク様を愛していたことだけは。
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