【R18】オークの花嫁〜魔王様がヤンデレ過ぎてついていけません!!〜

湊未来

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後編【ディーク視点】

「ところで、ディーク様。ミレイユは、どちらにいますでしょうか? 式典では見かけませんでしたが」

「ミレイユか……、そなたが気に止むことではない。義務は果たすゆえ、そう心配するな。もうすぐ、腹の紋様も完成する」

 私の言葉に、目の前で膝をつくハルト公爵の顔が一瞬歪む。娘のように可愛がっていたミレイユが、昼夜問わず犯されていると聞かされるのは、さすがに堪えるか。
 
 ミレイユが消えてから数日。次期魔王を胎の中で育てるための準備が整ったことを示す紋様が完成するには早すぎる。それだけの精を、ミレイユは注がれているということでもある。

「ディーク様、ほどほどになさいませ。ミレイユは、性に疎いゆえ、性急に事を進めれば、次期魔王を宿す器を失いかねませんよ」

「はは、忠告感謝する。ただ、おかしな話よの。通説では、魔王は死ぬ間際に、次期魔王を産み落とすと言われているのではなかったか? 次期魔王を孕むための器となる伴侶など要らぬはずでは、ないのか?」

「ディーク様、お戯れを。ミレイユの腹に刻まれた紋様の意味をご存知の時点で、その通説はまやかしだと分かっておりましょうに」

「くくく、その通りであるな。魔王の伴侶は、強靭な身体を持つ者にしか務まらぬ。長期にわたり、次期魔王を胎で育てるには、それに耐えられるだけの肉体的強さが必要になる。並の魔族では、耐えられまい。そして、魔王への絶対的な忠誠心。なぁ、ハルト公爵よ。なぜ、覚醒前の魔王の護衛騎士は、皆、オーク族の女戦士なのだ?」

 そして、その女戦士は皆、魔王が覚醒すると同時に、この世から消えている。それが意味する答えは、ただ一つ。次期魔王を孕む器として、囚われた。おのが守り続けた魔王によって。

 愛の終着点が、愛する者の監禁とは……

 真なる魔王に覚醒した事で膨れ上がった業か、はたまた魔王として生を受けた者の性か。
 
 どちらにしろ、私も生まれながらの魔王であったという事だ。

 なかなか覚醒しない己に劣等感を抱き、次期魔王であることにすら疑問を感じていた過去が、馬鹿らしくもある。

「――――、ハルト公爵よ。父と母は、ご健在か?」

「ディーク様……、ご存知でしたか」

「わからぬ方が、おかしい。魔王不在の期間、誰が天界への抑止力となるのだ。三大魔公爵の存在だけでは、抑止力にはならぬ。魔王不在の好機に、あの抜け目ない天界の者共が、戦争を仕掛けぬ訳がないからな」

「確かに、その通りですな。あの天使共は魔族よりも、狡賢く、殺戮を好む種族ですからな」

 苦々しく歪められたハルト公爵の顔を見つめ、この男の憎悪も大概だと思う。

 まぁ、息子をハルマゲドンで殺されていれば、天界の者共に憎しみを抱くのも仕方がないな。

 しかし、その憎しみゆえに、ミレイユの命を危険に晒した事は、許せるものではないが。

「そう言うが、ハルト公爵よ。そなたも、あの天使共に負けず劣らずの残忍さだと思うがな。娘のように可愛がっていたミレイユの命を、我の覚醒のために利用したのだから」

 一瞬だけ表情が変わったハルト公爵の顔が、私の言葉が正しい事を示していた。
 
 真なる魔王への覚醒に必要だったのは、伴侶となる者への愛。歴代の魔王もまた、伴侶となる者の危機に覚醒を果たしている。しかし、そんな都合よく危機など起きるはずがない。誰かが、裏で糸をひいていなければ……

「ディーク様、ご冗談を。魔王様に忠誠を誓っている私に、そんな大それたことは出来ません」

 ちっ、このたぬきめ。魔王には忠誠を誓っていても、魔王でない者には忠誠は必要ないか。

 ミレイユの事件の黒幕をハルト公爵が話すとは思っていない。確かに、あの事件が起きなければ、私の覚醒はなかっただろう。黒幕がハルト公爵であれ、前魔王である父であれ、今さら罪を問うつもりはない。しかし、ハルト公爵に釘を刺しておく事は、今後ミレイユを危険に晒さぬためにも必要になる。

 ハルト公爵には、誰が飼い主か、わからせる必要がある。

「なぁ、ハルト公爵。お主が忠誠を誓う主人は誰であるか、今一度、考えよ。伴侶と余生を楽しむためだけに策を講じる老いぼれか、真なる魔王に覚醒した我か」

 膨れ上がった殺気に押しつぶされ、ハルト公爵がひざをつく。

 絶対的王者の前では、誰もが跪く。それは、三大魔公爵も例外ではない。

「ハルト公爵、肝に命じよ。今後は許さぬ。ミレイユの命を危険に晒すことは」

「承知いたしました。親愛なる主人、魔王ディーク様」

 ハルト公爵は膝をおり、私のマントの裾を持ち、忠誠の口づけを落とす。そんな彼を見下ろし、手の中へと転移させた黒い封筒を落とす。

「これは、――――」

「ミレイユへと渡した、お主の遣い魔よ。あの時は、ミレイユの居場所を早急に知れて助かった。あやつは、逃げ足だけは早いからな。感謝する」

「有難き幸せ」

 黒の封筒を手に掲げ持ち頭を垂れるハルト公爵の態度に黒い笑みを浮かべる。
 
 探索能力を持つ遣い魔を使って、ミレイユの居場所を突き止めようとでも考えていたか。そんなヘマ、私がするはずがないのになぁ。

 頭を垂れ、ここからではハルト公爵の表情は見えぬが、きっと床を見つめ苦虫を噛み潰したような顔をしている事だろう。

「もう、要らぬのでな。ミレイユの事は、心配するな。すぐに、良き報告が出来ると思うぞ」

 さて、愛する妻の元へと行くとするか。

 未だ頭を垂れるハルト公爵の横を抜け、扉へと向かう。さっさと、ミレイユの元へ転移しても良いが、欲しかった情報が手に入り、今は気分が良い。ミレイユとの思い出の場所を巡りながら、愛の巣へと帰ろうではないか。

「ハルト公爵よ。ミレイユが命の危機に瀕した、あの事件の首謀者を全て捕え、首をはねよ。あぁ、それと、魔公爵の席が一つなくなるな。代わりとなる者の選出は、お主に任せる」

「御意」

 その言葉を最後に、魔王の居室は静けさを取り戻した。
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