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第1章 男爵令嬢困惑編
閑話 執事アーサーのひとり言
しおりを挟む~ベイカー公爵家執事室~
私はミリアが出て行った扉を見ながら大きなため息を吐いた………
………リドル様はいったい何をやらかしたのだ………
数日前、執事室を訪れたリドル様は突然ミリアを自分付きの侍女にすると言い出した。
幼少期からリドル様を知っている身としては、長い初恋をやっと実らせる気になったかと思っていたが………
ベイカー公爵家に仕える古い使用人達の間では、リドル様がミリアに昔からずっと恋しているのは周知の事実だった。
何しろわかりやす過ぎる………
ミリアが、エリザベス様と庭を散歩していれば、わざわざ遠回りをしてお二人の前を通り過ぎる。
エリザベス様が、公爵様と食事をしていれば、ミリアが側に控えているのを知っていて、無理やり予定を合わせて参加される。
ミリアがお嬢様の部屋で歓談していると、部屋の前の廊下をウロウロ行ったり来たり………しかも家に居るだけなのに一張羅を着て………
はっきり言ってリドル様の気持ちを知らないのは、ミリアだけ………
あの鈍感過ぎるエリザベス様でさえ気付いていたくらいだ。
公爵様は、無感情だったエリザベス様の感情をとりもどしたミリアの事を我が娘の恩人と感謝し、大切にしていた。
今まで、リドル様への婚約の打診は山のように来ていたが、全て断っていたのはリドル様の気持ちを知って、将来ミリアと結婚させ嫁としてベイカー公爵家へ嫁がせたかったからだ。
ベイカー公爵家の皆が、ふたりの関係が発展するのを待ちに待っていたのに………
………リドル様は初日から何かやらかしたようだ………
私を呼び出したリドル様は、今日のミリアの仕事を中止にし休ませるように言いつけていった。
理由を問うたが、お決まりのダンマリを決め込んで、早々に王城へ出かけて行かれた。
ミリアと親しい侍女仲間に聞いたところミリアは部屋に閉じこもっていたらしい………
諜報活動として、数多の令嬢を手玉に取るリドル様らしくない………
恋しい女性には、百戦錬磨の男も形なしと言うことか………
しかし、ミリアはリドル様の事をどう思っているのだろう。
15年一緒にいたエリザベス様ですら、ミリアの想い人については知らないようだった。
願わくばリドル様の恋が実ことを祈りたいが………
私は公爵様に呼び出され執務室に来ていた。
「リドルが、ミリアを自分専用の侍女にしたそうだな?」
「さようでございます。公爵様。」
「………そうか、ヤツもとうとう長い恋煩いを実らせる気になったか。」
「私も年をとった………エリザベスも嫁いでしまったし、そろそろ可愛い孫に囲まれて過ごしたいものよなぁ~」
「そうでございますね~おふたりのお子様なら元気で可愛いらしい子が産まれそうですね。」
「早く結婚させる為にも、こちらから何か仕掛けるのも良いかもしれんなぁ~
恋は障害がある程燃えると言うし。」
国の宰相を務める策士の黒い笑みを久々に拝見した。
リドル様………
ミリアとの恋は前途多難のようですよ。
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