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第1章 男爵令嬢困惑編
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しおりを挟む~リドル視点~
毎朝の寝起き攻防が、功を奏したのかミリアとの関係は良くなっていた。
初日の最悪な出来事のせいかはわからないが、次の日俺を起こしに来たミリアは、何も言わず布団をはぎ取った。
裸で寝る事が多い俺は、寒さで目が覚め起き上がると部屋の隅で真っ赤になってしゃがみ込んでいるミリアを発見した。
しゃがみ込んで震えているものだから心配になり声をかけると………
『さっさと服を着てくださいませ‼︎』
と叫ばれ、着替えを投げつけられやっと裸であった事に気づいた。
真っ赤になって叫ぶミリア………可愛いかったなぁ~
思いのほか、男に免疫がないミリアに心がふわふわと浮き足立つ………
しかし次の日に、シーツ毎床に落とされて起こされたのにはビックリした。
今では、2、3度の声かけで目が覚めるようになった俺だが、最近のお気に入りは寝室に入ってきたミリアがカーテンを開け日差しが差し込む中、ベット横から俺を覗き込み声をかけるのを薄目で観ているのが好きだ。
日の光を背に、優しく声をかけられ、近くでミリアの匂いに包まれる瞬間が何よりも幸せだ。
徐々に、俺の専属侍女として仕事にも俺にも慣れ、昔のような気安さで接してくれるようにはなってきたが、ふたり切りの時も、決して侍女としてのスタンスを崩すことはなかった。
部屋で執務をしていれば、静かに退室し、頃合いを見てお茶を出す。
お茶に誘っても、侍女だからと断り静かに壁の花となる。
気分転換に散歩に出ても、数歩後ろを静かについてきて、決して隣は歩かない。
主人と侍女という距離を崩さないミリアに、少々焦っていた。
自室にて執務をしていたある日、休憩時間に無理やりミリアをお茶に誘い、ゆっくり話す事が出来た。
一緒にお茶出来るチャンスなんてそうそうない俺は、思い切ってミリアをデートに誘うことにした。
他の令嬢にはスラスラ出る誘い文句もミリアの前では、何も浮かばない………
市井でデートする適当な理由しか言えない俺に、ミリアは一緒に着いていってくれるという………
嬉しくて天にも上る心地だった。
デート前日はソワソワして、ほとんど寝られなかった俺だが、当日のデートプランだけはしっかり頭に入っていた。
女性の好みそうな店ならいくらでもわかる………
菓子店、ジュエリーショップ、帽子屋、ドレスショップ………
美味しいスイーツがあるカフェレストラン………
あわよくば、ミリアの好きな物がわかれば良いと期待しながら、街に繰り出した。
人混みの中、いつもより近い距離にミリアがいる………
それが嬉しかった………
しばらくふたりで歩いていると、何人かの男がミリアを見て振り返る………
ミリアは、自分を平凡な女性だと思っているがそんな事はない。
艶やかな赤毛に、漆黒の瞳。少しつり上がった目元はキツ目に見えるが、すっと通った鼻筋に、ぷっくりとした唇が絶妙な色気を醸し出し魅力的に映る。
ハッキリいって美人なのだ。
これでウブだなんて………たまらない………
人目を引く容姿のミリアに男達の視線が絡みつく………
思わず抱き寄せようと思い、手を伸ばしかけたが………徐々にミリアが離れようとする………
「ミリア………人も多いし、逸れると困るから。」
俺はミリアの手を握っていた………
始めは手を離そうとしていたミリアも観念したのか大人しく手を繋がれている。
これ幸いとずっと手を繋いでデートを楽しんだ。
お茶に入ったカフェレストランでも、わざわざ隣に座り、手を繋いでいたが………
真っ赤になって俯くミリアが可愛いくて可愛くて仕方なかった。
最後に立ち寄ったジュエリーショップは、夜会用のカフスボタンを注文していた店だった。
ちょうど仕上がりの連絡をもらっていたのでついでに立ち寄ったが思わぬ収穫があった。
デート中、ミリアはあまり女性が好む物に興味を示さなかったのだ。
何か思い出に残るものを渡したかった俺は焦っていた。
カフスボタンを受け取り、ミリアを探し店内に戻ると、何やら真剣にショーケースの中を見ている。
近くにいた店員に、何を見ているのか尋ねると、先程から小花と真珠をあしらったゴールドのネックレスを見ているとのこと。
このジュエリーショップは、貴族御用達で質が良く、繊細なデザインの1点もののジュエリーを扱っているので有名だ。
ミリアがショーケースから離れると、店員に見ていたものを包むよう指示し、ミリアと合流した。
帰りの馬車の中、先程買ったネックレスの小箱をミリアに渡す。
小箱の中のネックレスを見たミリアに驚愕の表情が浮かぶ………
「リドル様…これって………」
「ずっと見てたでしょ。今日のお礼………
付けてあげる………」
俺は、ミリアからネックレスを受け取り首につけてあげた。
「よく似合う………素敵だ………」
俺の言葉にミリアは、はにかんだ笑顔をむけ………
「リドル様………ありがとうございます………
大切にしますね………」
あんな可愛い笑顔を向けてくれるならいくらでも貢げそうだ………
俺が、さらにミリアに落とされたのは言うまでもない………
「………リドルお兄様………ニタニタと気持ち悪いです………」
………エリザベスの存在を忘れていた。
シュバイン公爵家へ嫁いだエリザベスは、久々にベイカー公爵家にてリドルとお茶を楽しんでいた。
「まぁ………どうせミリアの事でも考えていらっしゃったのでしょうけど………」
「お兄様!ミリアとは順調に進んでますの?」
「まぁ………それなりに。」
「なんですの!その言い草。
わたくしは、泣く泣くミリアをベイカー公爵家へ置いて行きましたのよ‼︎
お兄様とミリアの幸せを思って………」
「お兄様が本気でミリアと恋仲にならないなら、直ぐにシュバイン公爵家へ連れて行きますからね。」
「待て………エリザベス。はやまるな。
ミリアとは、徐々に距離を詰めているところだ。あまりがっついても怖がるだけだろう。」
「………お兄様が、本気でミリアを手に入れる気ならよいのです。」
「それよりも………今度、隣国の王女様が我が国に来られるそうですわ。
何やら、我が国の有力貴族に嫁がれる準備のためだとか………
お兄様は、何かご存知ではありませんの?」
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確か、現王と近隣諸国に身を隠していた王太子が協力して王弟派を鎮圧したのではなかったか………
「特には何も聞いていないが………」
内政がゴタゴタしている隣国は、我が国との同盟を強化したいが為に、王女を送り込んでくるか………
リドルの預かり知らぬところで、事態が動き出そうとしていた。
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