36 / 92
第4章 思惑は交錯する【ルティア編】
4
しおりを挟む~イアン視点~
街の豊穣祭から帰って来た僕は自室にてルティの事を考えていた。
………最後にキスをした時、初めてルティが答えてくれた………
いつもキスをする度に身を固くしていたルティがあの時だけは抱きしめ返してくれた。
徐々にルティの中の僕の存在が大きくなっていく事に嬉しくなる。
しかし、まだこれではルティ自ら僕を婚約者として選ぶ事はないだろう。
王女という鎖がルティの自由な気持ちを縛っている。
未だに婚約者を選ぼうとしないのは、リザンヌ王国の思惑が絡んでいるからだろう………
………ルカ王太子………あの方の思惑が………
リザンヌ王国のクーデター後、王宮にて王都復旧の陣頭指揮をとっていたのは、ルカ王太子だ。王宮では、もはや陛下はお飾りでしかなかった。
リザンヌ王国にてルカ王太子とハインツ様の橋渡しをしていた僕は、あの方と何度も言葉を交わした。
………ハインツ様に負けずとも劣らない策士ぶりだった。あの方を敵にまわすのは並大抵の決意では出来ないだろう。
誰に対しても気さくで懐深い印象を与えつつ、その実考えている事は容赦なく、えげつない。
笑いながら敵を殲滅していく姿は悪魔としか言いようがない。
身内ですら政治の駒としか考えていないだろう………
………ルティは、ルカ王太子の政治の駒………
レッシュ公爵家とベイカー公爵家………
どちらに嫁がせた方が、リザンヌ王国にとって有利になるか………
ルティの気持ちなど関係ないのだ。
あの方を説得しない限り、僕に勝ち目はない。
ベイカー公爵家とシュバイン公爵家が姻戚関係にある今、公爵家の力関係は圧倒的にベイカー公爵家の方が上だ。
ハインツ様の存在も鑑みると、ルカ王太子は必ずルティをベイカー公爵家へ嫁がせるだろう。
あの方の考えを変える程の何かがレッシュ公爵家に無い今、どうする事も出来ない………
『トントン』
「イアン…今いいかしら?」
母上が部屋に入って来る………
「ルティア様と街の豊穣祭へ行って来たのでしょう?どうでしたか?」
「とても祭りが楽しかったみたいですよ。あの様子では、リザンヌ王国では街に行くことも出来なかったのでしょう。
ルティの世界は、王宮の図書館だけだったんだと思います。」
「………そうなの………
王女というものは大抵、窮屈な生活を強いられるものよ。何処へ行くにも護衛がつき部屋では侍女がつき一人になれる事なんてないわ。でも、わたくしはまだ良かったのよ。慰問で街の教会へ行ったり、避暑で地方へ行ったり、お忍びで街に行く事も出来た。父、母もわたくしの事をとても大切にしてくださったわ。
………でもルティア様は同じ王女でも全く違うのね………
正妃から虐げられ、王宮内では使用人にも顧みられない………
きっと行動も制限されていたと思うわ。
まさしく生まれた時から王宮という鳥籠に捕らえられた小鳥そのもの。
そんなルティア様が唯一安らげる場所が図書館だったのね………」
「ルティはやっと鳥籠から解放されて自由に羽ばたこうとしている。これから沢山の経験を積み重ねる事で、今以上に稀有な存在になると思います。
知識と経験に導かれ先見の明は益々磨かれていくでしょう。
彼女を繋ぎ止めておけるだけの力を僕は持っていない………」
………大切なルティが僕の元からいなくなる未来しか想像出来ない………
「ルティは感情だけでは決して動かないでしょう。たとえ僕に気持ちが傾いていたとしても、国のために婚約者を選ぶ………ベイカー公爵家を………」
リドルに抱かれるルティを想像するだけで胸が抉られたように痛みだす………
「………イアン………随分と弱気なのね………
そんなことでは手に入るものも入らなくなるわよ。」
母上は不敵な笑みを浮かべ僕を見つめる。
「少し見方を変えてみてはどうかしら?
………貴方は、シュバイン公爵家とベイカー公爵家が姻戚関係である今、ベイカー公爵家の方がレッシュ公爵家より力が上だと思ってないかしら?
確かにあの策士のハインツ様があちらにいる現状では、一般的貴族や対外的にもベイカー公爵家の方が上と考えるでしょう。
しかしね………レッシュ公爵家には王女であったわたくしがいるのよ………」
「………え?それが何故、レッシュ公爵家がベイカー公爵家より上になる事の理由になるのでしょうか?」
「イアン…話は最後まできちんと聞くものよ。
本来であれば、四大公爵家の力は均等であるべきなの。しかし、陛下はその均等を壊してまでベイカー公爵家とシュバイン公爵家の結婚を許した。まぁ、ハインツ様が何らかの切り札を使って陛下を脅したのでしょうけど………
では…本当に二大公爵家が姻戚関係になる事で王家に匹敵する力を得ることが出来たのでしょうか?
………答えは否よ!
万が一、王家が潰される力を得る事になる結婚なら陛下は何があろうと許可されないわ。
では、陛下が持っているハインツ様も知らないであろう王家の秘密とはいったい何か………?」
………それがレッシュ公爵家と公爵家へ降嫁した母上と関係があるということか?
「イアン…本気でルティア様を手に入れたいと思うならレッシュ公爵家の家系と歴史をよく調べてみなさい。
わたくしが言う意味のヒントが見つかると思うわ。王家の秘密とは何か………
それを手に入れるヒントがね………」
レッシュ公爵家が握る王家の秘密………
それが分かればルティを手に入れる事が出来るかもしれない………
母上からの助言で一筋の光が見えてきた気がした。
1
あなたにおすすめの小説
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる