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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】
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しおりを挟む私はリドル様の部屋を退室し、高鳴る胸を抑え自室に向かった………
自室に入った私は扉に背中を預け座り込む………
………リドル様が私を好きだと………
愛していると仰った………
抱きしめられ深いキスをされ放心状態の私に落とされた愛の言葉はゆっくりと心を満たしていった。
しかし同時に冷静になっていく頭が警鐘を鳴らす………
………リドル様にはルティア王女がいると………
身分違いの愛など決して報われない………
自分も愛していると叫ぶ心に蓋をし、冷静に否の言葉を紡いだ………
………ミリア…これで良かったのよ………
貴方は正しい事をした………
きっといつか今の選択をして良かったと思える時が来るわ………
………やはり潮時ね………………
ベイカー公爵家に居てはリドル様の事を忘れられない………
私は自室を出てアーサーの執事室へ向かった。
「………ミリア…どうしましたか?」
「誠に勝手ながらベイカー公爵家の使用人を辞めさせて頂きたいのです。
リドル様の専属侍女を辞めてからもわたくしを引き留めてくださり、新しい仕事を与えて下さったにも関わらず、ご期待に添えず大変申し訳ありません。」
「気持ちはもう変わらないのですか?」
「………はい。」
「とても残念です………
最後にひとつ…辞める理由はリドル様ですね?」
………どうやらアーサーには分かっていたようだ………
「………はい。
リドル様は何も悪くありません………
ただ…大人は…………
好きな気持ちだけではどうにもなりませんから………」
「わかりました。公爵様には私の方から伝えておきます。長らく仕えて頂きありがとうございます。エリザベス様にはこちらから伝えますか?」
「エリザベス様には、落ち着いたらこちらからお手紙を出したいと思います。」
「次の勤め先は決まっているのですか?」
「いいえ…しばらく実家の手伝いをしてゆっくり探すつもりです。」
「そうですか………
次の勤め先など見つからないようであれば私に手紙をください。
貴方であれば、どこの貴族家でも紹介出来ますから………
ベイカー公爵家から去るのは、いつでも構いません。ゆっくり準備して大丈夫です。」
「お気遣いありがとうございます。」
私は、深々と頭を下げ執事室を辞した。
明日から何をしようかしら………
早めに片付けて、ここを去らないとね………
ベイカー公爵家に仕えて15年………
色々な事があったわ………
本当エリザベス様との思い出ばかり………
お会いした時から手の掛かるお嬢様だったわね。奥様が亡くなり感情のないお人形を相手に奮闘した日々………
廃太子したウィリアム王子の婚約者になり、周りの話を全く聞かず振り回された日々………
婚約破棄後、シュバイン公爵家のハインツ様に振り回された日々………
………そして幸せそうなエリザベス様とハインツ様の婚礼の儀を見届けた日………
色々と大変な事や辛い想いもした………
危険な目にもあった………
しかし…今想えばベイカー公爵家で過ごした日々は本当に掛け替えのない思い出となっている。
………リドル様との思い出なんてほとんどないのにね………
………ただ考えるだけで、切なさに胸が締めつけられる………
きっと時間が解決してくれるわ………
私は翌日から自室の片付けをしたり、辞めるにあたり、使用人仲間へ挨拶にまわったりと忙しく過ごしていた。
挨拶に行った使用人仲間には泣いて別れを悲しまれたり、何故か怒り出し私が辞める事を撤回させようと、執事のアーサーの所に直談判に行こうとする者まで出てちょっとした大騒動になったりした。
そこまでベイカー公爵家の使用人仲間に好かれていたとは思っていなかった私はただただ驚くばかりで、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「………そういえば………ルカにも別れの挨拶をしないとだわ………」
結局、ルカからの好意には応えずにここまで来てしまった。
いっそのこと、ルカと恋仲になればリドル様を忘れられるかもしれないと思ったこともあったが………
………ダメね………
ルカをリドル様を忘れるために利用しようと思うなんて人として最低ね………
ルカにはもっと素敵な女性と幸せになってもらいたい。
………きちんと断らなきゃね………
私はルカに会うため、街に出かける事にした。
乗り合い馬車で街に着いた私はリックベン商会を探す………
………何の約束もしていないから会ってくれるかしら………?
私は街のお店でリックベン商会の場所を聞き、教えてもらった場所を訪ねた。
教えられた場所にあった建物は周りの家々に比べシンプルでこじんまりしたお店だった。
中に入ると、カウンターがあり初老の男性が受付番をしているようだ。
執事のような格好をした男性は、私と目が合うと軽く会釈をしてくれる。
「………あの………………
わたくし、ミリア・ウィッチと申します。こちらの商会長のルカ様と友人でして、今日出来ればルカ様にお会いしたいのですがいらっしゃいますでしょうか?」
「お約束はされていますか?」
「………いえ………
難しいようでしたら日を改めます。」
「………少しお待ち下さい。本部に確認を取りますので………」
初老の男性が確認のため、奥へ行ったので私は窓際の椅子に座り待つ事にした。
………数分後………
先ほどの初老の男性が慌てて飛び出してきて窓際の椅子に座っていた私のところへやって来る。
「ミリア・ウィッチ様…大変失礼致しました。ルカ様の大切な方だとは知らず失礼致しました。」
初老の男性が恐縮して何度も何度も頭を下げる。
「………いえ…お気になさらずに………
ルカ様とは友人なだけですから………」
「先程、確認致しましたところルカ様は今日自宅にいらっしゃるとの事です。
自宅で良ければお会いになれるそうですがいかがでしょうか?」
「そうですか………
わたくし…お恥ずかしながらルカ様のご自宅を知らないのです………
場所を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
今さらだけどルカの自宅すら知らないのよね………
「ミリア様…お迎えの馬車を向かわせるそうなので、こちらでお待ち頂けますか?」
「わかりました。」
私は、初老の男性の案内で奥にある豪華な部屋で迎えを待つ事になった。
座り心地の良いソファに美味しい紅茶とお菓子まで出され、至れり尽くせりで迎えを待つ………
………突然訪ねてしまって申し訳なかったわ………
………数刻後………
ひとりの男性が部屋に入って来た。
「わたくし…ルカ様の従者をしておりますルドルフと申します。
ルカ様よりミリア様をお連れするように申しつかっております。
外に馬車を待たせていますので、一緒にお越しください。」
………帯剣しているしルカの護衛の方かしら………?
私は体格のいい厳つい顔をした男の後につき馬車に乗り込んだ。
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