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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】

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「………」

私は目の前に準備された夕食を見て絶句していた………

………これは…本当に食べ物かしら………

所々皮の残ったジャガイモと乾燥肉のソテーは、味が全くしない上に、乾燥肉を水で戻してないのか硬い。スープらしきものは、ぶつ切りの野菜と魚が入っているが、魚の処理をしていないのか生臭い。唯一まともなのはパンくらいである。

………リドル様の言葉を信じた私がバカだったわ………

一時期騎士団に入隊していたといっても公爵子息が料理なんてしていたはずないのよぉ………

私は目の前に座るリドル様を思わず見てしまう。

あちらも料理を食べて顔をしかめている。

昼過ぎに花畑の中の家に着いた私に気をつかったのか夕飯はリドル様が作ると言い出した。突然の急展開にダメージを受けていた私は、その申し出を受け、先程までベットで休ませてもらっていた。

………リドル様に起こされ、階下のリビングに行きテーブルにつき、並べられた料理を見てマズイかもとは思っていたが………

「…リドル様…あなた料理は全くした事ないわね⁈どうして正直に言わないんですか‼︎これでは食材が可哀想です‼︎」

「………ミリア…すまない………
無理やり此処に連れてきたし、少しでもいいところを見せたくて………」

眉を下げ申し訳なさそうに謝るリドル様に何故か胸がキュンとする………
私の世話好きスイッチが刺激されてしまう………

私は目の前の料理を持つとキッチンへと向かう。

………一度水で洗えば何とかなるかしら………

ザルにスープもどきをあけ、軽く水で洗い野菜と魚にわける。ぶつ切りにされた野菜を食べやすい大きさにカットし、魚は身をほぐす。ほぐした魚身を臭みを消すため香草と和え、野菜を入れお酢と塩とオイルで混ぜ合わせれば温野菜サラダが出来上がった。

炒めたジャガイモと乾燥肉のソテーは、乾燥肉を細切りにし、ジャガイモもカットし、水で薄めたトマトソースの中に入れ火にかける。煮立ったところにオイル漬けにされた豆を入れ塩胡椒で味を整えれば乾燥肉とジャガイモのトマトソース煮が出来上がった。

「…旨そうな匂いがする………」

いつの間にか私の背後に来ていたリドル様が手元を覗き込む。
………近い距離に心臓が早鐘を打ち始める………

「リドル様!…あ…あぶないですからあっちへ行って下さい‼︎」

「………ふふ…ごめんごめん………
あっちで大人しく待ってるよ………」

何もせずに離れていくリドル様に一抹の寂しさが私を支配する。

………変なの………………

私は気を取り直し料理を再開する。



「はい!どうぞ召し上がれ‼︎」

テーブルの上には、魚のほぐし身の温野菜サラダに乾燥肉とジャガイモのトマトソース煮、卵スープとパンが置かれていた。

「………あの料理が、全てこれに変わったのか⁈
信じられない………」

リドル様がサラダをひと口食べる………

「………美味い………………」

ひと言呟くと他の料理も次々と手を伸ばし食べ始める。
ベイカー公爵家での優雅な食事風景とは違い、夢中で食べ進める姿にぽっかり空いた心が満たされていく………

「ミリア…本当に美味いよ!
料理もこんなに上手だったなんて知らなかった。」

屈託なく笑う姿にどんどん心が満たされていく………

愛する人と一緒にとる食事が、こんなに幸福な事だなんて知らなかった。

私は美味しそうに食事をするリドル様をただただ見つめ続けた。





夕食の後、リビングに置かれたソファで軽く食後のお茶をしているリドル様を見ながら片付けをし終えると夜もとっぷり暮れていた。

私は先にリドル様にお風呂に入ってもらい階下でひとりゆっくりお茶を飲みながら考えていた。

………やっぱり…あのベットで二人で寝るのよねぇ………
緊張して寝られそうにないんだけど………

「ミリアお風呂入りな~」

お茶を飲みながらツラツラ考えていた私に二階から顔を出したリドル様が声をかける。

「…は…はい…行きますわぁ………」

階段をのぼり二階に上がるとベットに座るリドル様と目が合う………

バスローブを着た濡れ髪のリドル様の壮絶な色気にクラクラする………

私は真っ赤に染まった顔を隠すように下をむき素早く浴室に入った。

………私の心臓…壊れるかも………………


入った浴室は、この小さな家には似つかわしくない豪華な造りになっていた。

………蛇口をひねれば温かなお湯が出るシャワーに湯船って…高位貴族家にも滅多についてないのに………

もちろんベイカー公爵家には大きな湯船にシャワーは当たり前についている。

私は手早く全身を洗うと、たっぷりのお湯がはられた湯船に、ゆっくり浸かることにした。

………本当に贅沢だわ………

湯船にゆっくり浸かったことがない私は、心も身体もほぐされ軽くなっていく心地だった。

………さて…そろそろ出ないとマズイわよね………
もしかしたら夜も遅いしもう寝ているかもしれないわ………

私は扉に近づきドアノブをまわし扉を押そうとして反対側から引かれた。その勢いのまま部屋に倒れ込んだところをリドル様に抱きとめられた。

「………きゃ………」

「………ミリア…あまりに遅かったからのぼせて倒れているかと心配だったんだ………
だいぶ顔が赤いけど大丈夫?」

………リドル様の心配そうな声が上から降ってくるが恥ずかしさで顔を上げられない………

というか…眼前にリドル様の厚い胸板が見えていて、それも恥ずかしい………

「………まだ髪濡れてる………
俺が乾かしてあげるよ………」

リドル様は私の髪をひと房持つと口づけを落とす………

「………ミリアの髪………濡れて光って………
とても綺麗だ………」

私は手を引かれ、気づいたらベットに腰掛けたリドル様に背中を預ける形で座らされていた。

後ろから優しくタオルで髪を拭われる………

………対面じゃなくて良かったわ………

対面だったら恥ずかしさで憤死してる………

頭からタオルを取ると………
リドル様は背後から私を抱きしめ………
あっという間に私は押し倒されていた。

見上げた視線がリドル様の視線と絡み合う………

一瞬の出来事だった………

………ちゅ………くちゅ………

リドル様に深いキスを仕掛けられ脳内が酩酊してくる………

深いキスに肩で息をし出した私を慰めるかのように背中を優しく撫でられる。

激しいキスで性感を刺激された私には、ただ優しく背中を撫でるだけの刺激はもどかしい………

知らず知らずのうちにリドル様のバスローブの胸元を強く握ってしまう………



「…ミリア………これ以上は君の許しなしではしない………
でも………抱きしめて眠る事だけは許して欲しい………」


見つめた先のリドル様の顔は………
とても辛そうで苦しそうで………
色っぽかった………


私は背後からリドル様に抱きしめられ、火のついた官能をもてあましながら寝られない一夜を過ごした。
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