売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第6章 鎖を断ち切るために【ルティア&イアン編】

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ひとしきりアンナの膝を借り泣いた私は落ち着きを取り戻していた。

「ルティア様…落ち着かれたようですね。お茶を入れ直します。少々お待ち下さい。」

手早く崩れた私の化粧を直したアンナが立ち上がりお茶を入れに退室しようと立ち上がる。

『トントン』

「ルティア王女殿下、失礼致します。」

タイミング良く扉が叩かれ室内にリドル様が入って来られた………

「………イアン………」

続いて入って来たイアンに驚く………

「ルティア王女殿下…先ほど廊下でイアン殿にお会いしましてね。貴方様との関係は大方話して貰いましたので大丈夫です。共闘者が全て揃いましたので、今持っている情報を詰めておきたいと思いまして。」

とうとうルカ王太子と対峙する時が来たらしい………

私は二人をソファに座るように促し、アンナには暫く席を外すように伝える。



「ルティア王女殿下に再度確認させて頂きたい事があります。
今でも、結婚を望むのはレッシュ公爵家のイアン殿でよろしいですね?
しかし、ルカ王太子からの圧力でレッシュ公爵家へ嫁ぐと陛下に告げる事が出来ない………間違いありませんか?」

「間違いありませんわ。わたくしの気持ちは変わっておりません。しかし、ルカ王太子を説得するだけの解決策がある訳ではありません………
あの方はわたくしがレッシュ公爵家へ嫁ぐことで得られるリザンヌ王国の利がなければ決して首を縦にはふらないでしょう。もし仮にわたくしの一存でレッシュ公爵家へ嫁ぐと陛下に申した場合、グルテンブルク王国とリザンヌ王国との関係が悪くなる可能性を秘めております。
あの方は、リザンヌ王国の利になる政略結婚しか認めないでしょう。」

目の前に座るリドル様が肩を震わせ笑い出した………

「………リドル様…どうなさいました?」

「………くくくっ………
いやね………ルカ王太子はとんだペテン師だと思いましてね………
ルティア王女殿下には政略結婚を押し付け、ご自身は愛する女性と結婚しようとしているのですから………」

………ルカ王太子は愛する女性と結婚しようとしている………?

「リドル様………
それはいったいどういう事ですの⁈」

「皆様は、リックベン商会を知っていますか?ここ何年かで急成長した王都にある商会です。」

リックベン商会…?
リザンヌ王国の王宮から一歩も出た事がない私はもちろん知らないが………

「リックベン商会ですか………
もちろん知っていますよ。第二王子廃太子事件以降、王都の裏界隈を整備、支配した事でのし上がった商会ですね。
確か商会長は………
ルカ・リックベン………まさか………」

「そのまさかですよ。リックベン商会の会長であるルカ・リックベンはルカ王太子殿下ですよ。彼はクーデター前、商人としてグルテンブルク王国の王都に潜伏していた。そして、リザンヌ王国のクーデターで我が国の兵を借り受け、王太子としてリザンヌ王国へ返り咲いたのですよ。」

「………しかし…ルカ・リックベンとルカ王太子殿下が同一人物だと何故わかるのですか?両方の人物に合わない限りわからないはずだ。しかもルカ・リックベンは殆ど表に出て来ない。確かあの商会を取り仕切っているのは別の人物だ。」

「先程ルカ王太子に会って同一人物だと分かりましたよ。本人にも直接問い質し、認めましたので間違いありません。」

………ルカ王太子が認めた?
私が此処で休んでいる間にリドル様はルカ王太子に接触したのかしら………

「では、リドル殿はルカ・リックベンにも直接会った事があるのですね?」

「えぇ………
あの男はルカ・リックベンという隠れ蓑を使い私の愛する女性に近づいた。
数ヶ月前からその女性に会うためベイカー公爵家を頻繁に訪れるようになった男こそルカ・リックベンという名を騙ったルカ王太子だった。」

「………リドル様………
貴方の愛する女性とは、例のメイドの方ですよね?」

「そうです。ミリアと言うウィッチ男爵家の娘で、私とは乳兄妹です。
どうやらルカ王太子とミリアは幼少期からの知り合いらしいのです。詳しくはわかりませんが、以前伺ったルティア王女殿下の話から推察するとルカ王太子がリザンヌ王国から逃げて各国を転々としていた時に出会ったようです。」

「しかし…知り合いだったとして、どうしてルカ王太子がミリア様を手に入れようと思っていると分かるのですか?」

「私はあの男に先制布告されましたので………ミリアを手に入れるのは自分だとね。」

「では…本当にルカ王太子は自身の想い人と結婚しようとしているのですね………」

私には政略結婚を強いるくせに、自分は好きな女性と幸せになろうとしている………


………許せない………………

「ミリア様はルカ・リックベンとルカ王太子が同一人物だと知っているのですか?」

「………いや…知らないだろう………
ミリアは身分差がある結婚を良しとしない………
もしルカ・リックベンが王太子だと知っていたら早々に身をひく………
そういう女性なんだ………
ルカ王太子は、ミリアに王太子と告げず商人として求婚しリザンヌ王国へ連れ帰るつもりだ。その前に何としてでもミリアの気持ちを変えなければこちら側の負けだ。」

身分差がある結婚を良しとしない………
ミリア様は男爵令嬢…リドル様との結婚も首を縦には振らなかったのね………


「ミリア様はリドル様の乳兄妹と言いましたね………
では、シュバイン公爵家に嫁いだエリザベス様とはどのような関係ですか?」

「ミリアはエリザベスの専属侍女だった。幼い頃からずっと一緒にいたエリザベスにとっては姉のような存在だ。
都合が良いことにエリザベスはこちら側の味方でもある。」

「リドル様にお願いがあります。
一度エリザベス様と二人だけでお会い出来るようセッティングして頂けないでしょうか?」

「………エリザベスとですか?」

「はい…女には女の戦い方というものがあります。賭けにはなりますがミリア様の気持ちがリドル様へと向かえばこちら側の勝利となるでしょう。」

………今回の勝利の鍵はミリア様が握っている………

まずは私の事をリドル様にちょっかいを出す厄介な王女だと思っているであろうエリザベス様の認識を変えなければ………

私はルカ王太子に勝つ一筋の道を見つける事に成功した。





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