売れ残り男爵令嬢は、うたた寝王女の愛ある策略に花ひらく

湊未来

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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

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………1年後………

真っ青に澄み渡る空の下、二組の愛し合うカップルが婚礼の儀を挙げた。

この二組のカップルの新婦達が嫁ぐ事になるベイカー公爵家とレッシュ公爵家が『例の夜会』以降どうなったのかを少し説明しておこう。

例の夜会の当事者の一人、妖艶な夜の女王に攫われたリドル殿だが………
夜会当初は時の人となり、色々と噂される事となった。

リザンヌ王国のルティア王女の婚約者候補でありながら、得体の知れない女と関係を持っていたとして身持ちの固いご婦人達から蔑みの目で見られる一方、ルティア王女の社交界での評判の悪さから、名前もわからない美女と逃避行し愛を貫いたリドルの行為を称賛する声も上がっていた。
社交界で様々な女性を虜にするプレイボーイ振りを見せながら、今までどんな女性にも本気にならなかったリドルの姿を知っていた者達は、夜会に突然現れた夜の女王然とした女の存在を納得を持って受け入れていた。

もちろん夜会以降、リドルと共に消えた女性にひと目会いたいが為、ベイカー公爵家やリドル本人にコンタクトを取ろうとする男共がわんさか現れた訳だが、ベイカー公爵家からの圧力とリドル本人が口をつぐみ数ヶ月タウンハウスに引き篭もったため、未だにあの女性が誰か知り得た者はいない。

あれから半年後………
ベイカー公爵家のリドルとウィッチ男爵家のミリアの婚約が発表された。

公爵家と男爵家のあまりに身分差のある婚約に、高位貴族の未婚の令嬢がいる家から横やりが入り、混乱する事態となったが、社交界である噂が流れ出すとこの婚約話を潰そうと動く貴族家はいなくなった。

『夜の女王の怒りをかったリドル殿は、愛する夜の女王から見捨てられ絶望しタウンハウスに篭っていたが、乳兄妹のミリア嬢の献身的な慰めに絆され、いつしか妹のように思っていたミリアを愛するようになっていた………』

男爵令嬢が格上の公爵令息に嫁ぐシンデレラストーリーは市井でも噂になり、観劇として上演され人気をはくした。




一方、あの夜会でレッシュ公爵家のイアン殿との婚約を所望したルティア王女は、社交界での評判が地に落ち、夜会以降公の場に一切出なくなった。
永らくベイカー公爵家のリドル殿とレッシュ公爵家のイアン殿で、どちらを婚約者にするかを決めなかった事で、沢山の令嬢の反感を買っていたのが災いした。
性悪王女として社交界でひとり歩きした噂に耐えかねリザンヌ王国へ帰ったのではと最近まで言われいた。
そのルティア王女が半年後、レッシュ公爵家のイアン殿にエスコートされ颯爽と舞い戻って来た。その様子を冷めた目で迎えた貴族は驚愕する事になる。貴族令嬢の憧れであり、社交界で絶対的地位を築いたシュバイン公爵家のエリザベス様を筆頭に、高位貴族の夫人や令嬢達が談笑する輪に招かれ、あまつさえ輪の中心となり穏やかな笑みを浮かべ会話を楽しんでいる………
半年前の性悪王女の噂が全くの嘘だったのではと思える光景に、ルティア王女の見方が大きく変わった一夜となった。





青空の下、ウィッチ男爵領にある小さな教会にて婚礼の儀を挙げたカップルが扉を開け、外で待つ親しい者達の元へ歩み寄る。

真っ白なウェディングドレスを身に纏った新婦は、幸せそうに笑み崩れた新郎に抱き上げられ顔を真っ赤にし俯く………
年相応の成熟した色香を纏いつつ、恥ずかしそうに頬を染めた姿は初々しく、見る者を魅了する。


身分差を乗り越え愛を貫いた二人を祝福する拍手は鳴り止む事なく、晴れ渡った空に響く………

集まった誰しもがそんな二人を心から祝福していた………




そして…レッシュ公爵家のとある一室………
この物語のもう一人の主人公が緊張した面持ちで椅子に掛けていた。

「………ルティ…緊張してるの?」

花嫁の様子を見に部屋へ入って来た新郎が心配そうに話しかける。

「大丈夫よ…イアン………………」

花嫁の前に跪いた新郎が花嫁の手をとる………

『次期薔薇の聖女であるルティアに誓う………
………生涯を貴方と共に………………』

薬指で輝く薔薇の聖女たる証の指輪に誓いのキスが落ちる………

幸せそうに微笑む花嫁を優しく見つめる新郎もまた、幸せな笑みを浮かべていた。

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