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本命彼女、あらわる
入店した廉と静香は、顔を赤らめたフロアスタッフに案内され、一番奥の席へと着いた。
向かい合って座った二人は、テーブルに置かれたメニューを廉が手に取り、さりげなく静香に渡す。その流れるようなやり取りからも、二人がよく一緒にご飯を食べに行く間柄だと分かる。
(あんな姿、見たくなかった)
美咲が立っている厨房横のスペースからは、二人のやり取りが余すことなく見てとれる。
静香が手に持ったメニューを廉に見せながら何かを話しかけ、それに彼が頷き返す。二人の目と目が交差し、時折り廉の指先がメニューの上を滑り、静香の手とぶつかりそうになる。そんな細かな動作まで目で追っていた自分に気づき、美咲は小さくため息をこぼした。
(本当、お似合いの二人……)
虚しい気持ちばかり募っていく心を無視し、ひとつ気合いを入れると、美咲は歩き出す。
二人に気取られてはいけない。自分がみじめになるだけだから。
「ご注文を、お伺い致します」
二人の席へ近づいた美咲は、平静さを装い声をかける。
心の中で念仏のように『平常心、平常心……』と唱え、営業スマイルを顔に貼りつけた美咲がテーブル横に立つ。すると、上機嫌な廉に声をかけられた。
「ワインを頼みたいのですが、それに合うツマミのお勧めはありますか?」
他人のふりしちゃって。
静香さんに知られたくないなら、来なければいいのに。
心の中に降り積もるドス黒い感情が抑えられず、思いの外冷たい声が出ていた。
「お飲みになるのは赤ワインと白ワインどちらになさいますか?」
「いや、まだ決めていないんだが、静香はどっちがいい?」
「そうねぇ~、白ワインかしら」
なによ、この恋人同士みたいな会話わ。『静香』なんて呼び捨てにしちゃってさ。公私共に深い仲ですってとこ。
先ほどから醸し出される二人の親密な雰囲気に美咲の心は真っ黒に染まっていく。
(まぁ、たまたま話題になった店に入ったら、ちょっと手を出した女が働いていて驚いたってとこよね。本命彼女の手前、他人の振りをしろってことか)
美咲を店員としてしか見ていないような、廉のポーカーフェイスぶりに感心してしまう。
「――でしたら、朝獲れのスズキを使ったカルパッチョは如何ですか? 白ワインにも合うかと思います。もし、赤ワインをお飲みになるなら、牛の胃袋をトマトソースで煮込んだ、トリッパもお勧めです」
「じゃあ、先に白ワインにして、後で飲めそうなら赤ワインにしようか」
「えぇ。そうしましょう」
優しい笑顔の廉が静香さんを見つめている。
(やってらんないわ……)
これは完全に何も知らない本妻と浮気相手の夫を憎悪を込めて見つめる愛人の立ち位置だ。一番タチの悪い男が全く動じていないのが腹立つが、波風を立てるつもりはない。
「じゃあ、スズキのカルパッチョとカプレーゼをお願いします」
「スズキのカルパッチョとカプレーゼですね。お待ちください」
注文を受け立ち去る間際、一瞬だけ静香と目が合い美咲は慌てて目を逸らす。
(まさか、気づいてないよね? 三年前に一度だけ会った女のことなんて覚えているわけないか)
一抹の不安を抱え逃げるようにテーブルを後にした美咲は、注文を厨房に伝えるとその足で、レジ横に移動しチーフに話かけた。
「チーフ、申し訳ありません。やっぱり具合が悪いので三十分早いですが、早退しても大丈夫ですか?」
「おいっ。大丈夫かぁ? さっきも、顔色が悪かったし早く帰った方がいいぞ」
「ありがとうございます」
「あんまり無理すんなよ。美咲に休まれると俺達が困るからな」
「そう言って頂けるとありがたいです。体調治して、明日は元気に出勤しますね」
「了解。まぁ、無理だったら連絡くれ」
「わかりました」
美咲はチーフに笑いかけ頭を下げると、二階の控え室へと駆け込んだ。
そんなチーフとのやり取りを廉がずっと見つめていたなんて、青い顔をして急ぎ着替えていた美咲は知るよしもなかった。
♢
「はぁぁ、まだ廉は帰って来ないか」
真っ暗な部屋の中、スマホの時計を確認すると夜中の一時をまわったところだった。
(寝られない……)
バイト先から帰宅した美咲は、軽い夕飯を済ませ、十一時にはベッドに入ったが寝られるはずもなかった。結局のところ、廉と静香の動向が気になって寝られないのだ。
さっきから進まない時計を見つめ、美咲はため息をこぼす。
(二人はあの後、どこかへ行ったのかな?)
帰り際チラッと盗み見た二人は、楽しい会話をしていたのか、顔を寄せ合い笑い合っていた。ワイングラスを重ねる仕草も、美男美女の二人がやれば絵になる。二人を羨望の眼差しで見つめる周りの目も気にならないのか、完全に二人だけの世界に見えた。
仲睦まじいカップルそのものの二人。食事の後はホテルのBARにでも寄って、そのまま高級ホテルに泊り一夜を明かす。
ズキリと痛む胸を両手でおさえ、ぎゅっと目をつぶる。
(廉も私なんかにちょっかい出してないで、さっさと静香さんと結ばれればいいのよ)
親密な雰囲気だった二人、静香さんも廉の事を少なからず想っているはずなのだ。そうじゃなきゃ、三年前に現れて、あんな辛辣なこと言うはずがない。
(きっと二人は、今夜想いを打ち明け結ばれるんだ。そうしたら、私も性のはけ口から解放される)
廉のいなかった生活に戻るだけ。
ただ、それだけ。
ギュッとつぶった目から、一粒涙がこぼれ落ちた。
(二回目の失恋になるのかな……)
身体の関係を持ってしまっただけに、三年前よりも別れが辛く感じる。
今でも、廉のことが好きなのだと思い知らされるだけだった。
「合コンへ参加するって、瑠璃に返事しよう」
私も前に進まなきゃ。廉を忘れるために……
とめどなく流れ出した涙は、止まることなく頬をつたい落ちていく。この涙のように廉への想いも消えてなくなればいいのにと願いながら。
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