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虚しい飲み会
瑠璃に誘われて参加した飲み会という名の合コンは、小さなカフェを貸し切った立食形式のものだった。彼女いわく、飲み会の主催者側にカフェのオーナーと知り合いの人がいて、安く提供してくれることになったとか。
会費の安さからは想像出来ないくらいの美味しそうな料理が美咲の目の前には並んでいる。
前菜からメイン、デザートまで食べやすいように小振りに仕上がった料理の数々に、女子達が目を輝かせている。しかし、美味しそうな料理を目の前にしても、食指がわかない。
(来なければ良かったかな……)
飲み会が開始され、すでに一時間。ざっと見回してみても、数組のカップルが出来ている。
淡い間接照明に照らされた店内は、ソファ席が所々に配置されていて、カップルになった男女が肩を寄せ合い楽しそうにお酒を飲んでいる。
(今日の合コンは当たりなんだろうなぁ)
そんな事を考えながら、料理を数種お皿に取った美咲は、一人窓際に置かれたソファに座りぼんやりと外を眺めた。
ライトに照らされた木々が水面に写り、時折風がふくと水面に波紋をつくり、キラキラと輝く。
女の子であれば誰でも、ロマンチックな雰囲気に心躍るのだろう。しかし、美咲の心は沈んでいくばかりだった。
飲み会が始まってから数人の男性に声をかけられたが、美咲の素っ気ない態度にいつしか声をかける人はいなくなった。誰だって愛想の良い女性と話していた方が楽しいし、魅力的にうつる。
合コンであれば、なおさら話しやすい女性に男性が群がるのは必然だ。
(廉も私がもっと素直で可愛い性格をしていたら振り向いてくれたのかな)
美咲もわかっているのだ。
廉を忘れるために参加したはずなのに、結局廉のことを考えてしまっている。
(そろそろ、帰ろう……)
瑠璃にだけ声をかけて帰ろうと腰をあげた時、後ろから声をかけられた。
「ここから見る景色も素敵ですね。紅葉した木々が水面に写って、とっても綺麗だ」
突然かけられた言葉に思わず振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。
淡いブルーのシャツにベージュのチノパンを合わせただけのシンプルな服装なのに、とても似合っている。緩くパーマをかけた焦げ茶色の髪に、優しそうな目元は、はっきり言ってイケメンの部類に入るだろう。
さっきまで女の子に囲まれ、談笑していたはずの男が目の前にいる。
(なぜ、私のところに来たよ?)
彼を狙っていたと思われる女子達の冷たい視線が突き刺さる。
逃げたいが、逃げられない。
人目を避けて座ったソファ席は奥まった所にある。この男が完全に退路を塞いでいる状態では、退いてもらわなければ出られない。
(一番奥のソファ席なんて座らなきゃ良かった)
今さら後悔しても遅かった。
「あの。隣座ってもいいですか?」
どうにか帰れないものかと、退路を探していた美咲の心情を知ってか知らずか、目の前の男が先手を打ってきた。
(ここでダメとは、言えないよなぁ。適当に話を合わせて、さっさと退散してもらおう)
「どうぞ」
美咲はソファ席の端に移動し隣をあける。
それを見て移動してきた男が隣に座った途端、バランスを崩した美咲は、男の方へと倒れ込んでしまった。
「あっ!!」
倒れ込んだ美咲を難なく抱き留めた男に、慌てふためく。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫ですか? このソファ、フカフカしているから仕方ないですよ」
見知らぬ人に抱きついている状況に、美咲の顔が真っ赤に染まる。
ゆっくりと身体を起こしてくれた彼と目が合い、慌ててうつむく。美咲は恥ずかしくて顔から火がでる思いだった。
「本当にごめんなさい。倒れ込んじゃうなんて、本当にすみません」
横に座った彼に頭を下げ、気づいた。
(嘘……、汚しちゃった)
ブルーのシャツには、美咲が持っていたお皿から飛び散ったソースがついていた。
「嘘、やだ、どうしよう。ごめんなさい! 染みになっちゃった」
持っていたハンカチで、慌てて染みを拭くが取れる気配はない。焦る美咲に、彼は優しい言葉をかけてくれた。
「あっ、大丈夫ですよ。これくらいの染み、大したことないですから」
「でも、それじゃ申し訳ないです。クリーニング代出しますから」
カバンから財布を取り出そうとした美咲の手を彼がやんわりとつかむ。
「本当に、大丈夫ですから。ドカッて、気にせずソファに座った俺も悪いですし。あれじゃ、貴方がバランスを崩すのも無理ない。気にしないでください」
「でも……」
なおも言い募る美咲に、男が笑って言葉を遮る。
「じゃあ、こうしましょ。俺と一回デートしてください。それでチャラにしませんか?」
「えっ!? えぇっと……、私とですか?」
「はい」
「私、無口だし。気の利いたことも楽しい会話も出来ないと思います。たぶんつまらないデートになりますよ。こんな私とじゃなくて、可愛い女性がたくさんいると思いますけど」
さっきまで睨んでいた女子達の方へと、美咲はチラッと目配せをした。
「あぁ、男に媚び売る女は興味ないんで」
左様ですか。
冷たい視線を投げ、さっきの女子達を切り捨てるかのような物言いに、ふと思う。この男も一筋縄ではいかないタイプかと。
「飲み会が始まってから、ずっとつまらなそうにしてましたよね。何人かに声をかけられていたけど、そっけなかったし。だから、興味が湧いたんです。
なんで興味もない合コンに参加したんだろうってね」
「えっ!? はぁ、まぁ……、友達に誘われて断り切れずに」
瑠璃には申し訳ないが、そういう程にしておこう。
「もしかして、彼氏がいるから周りと関わらないようにしていたとか?」
『彼氏』の言葉に一瞬、脳裏に廉の顔が浮かぶが慌てて打ち消す。
(あれは、彼氏というよりセフレに近いよなぁ)
「彼氏がいたら、合コンなんて参加してません」
「じゃあ、俺とデートするのは何の問題もないですよね。あっ、俺……、柏木司って言います。あなたの名前は?」
今更ながらに、名前を言っていなかったことに気づき苦笑をもらす。
「ふふふ、そう言えば名乗っていなかったですね。安城美咲って言います」
「じゃあ、美咲ちゃんって呼んでいいですか?」
「はぁ、まぁ……」
いきなりの名前呼びに面食らう。
(この人、意外とグイグイ来るタイプなの?)
まんまと司の術中にはまった美咲は、あれよあれよとデートをする約束をさせられていた。
その後も話し上手な司のペースにはまり、結局最後までその場を立ち去ることも出来なかった美咲は、最寄りの駅まで彼に送られ改札をくぐる。
「じゃあ、また連絡するね。おやすみ、美咲ちゃん」
手を振り颯爽と去って行く司を見送り、ふと思う。
(私、チョロ過ぎじゃない? まぁ、いっか。廉を忘れられるかもしれないし……)
そんな事を考えながらホームに走り込んできた電車に乗り込んだ美咲は気づいていなかった。
♢
時を少し戻したカフェ前。
一台の高級外車を背に、一人の男がタバコをくゆらせ天を仰いでいた。
道行く人達が、サングラスをかけ物想いに耽ける男をチラチラと眺めささやきあっているが、そんな事も気にならないほど、何かを考えている。
合コンかぁ……、美咲がそんな低レベルな飲み会に参加するなんてな。
一緒に歩いていた男は、合コンで知り合った間男と言ったところか。あの男の事も調べてみる必要がありそうだな。
目を引く容姿の男。
まぁ、女慣れはしていそうだ。
そんな男に美咲を奪われてたまるか。
車に乗り込んだ廉は、美咲の動向を追うべく車を発進させた。
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