【R18】スパダリ幼なじみは溺愛ストーカー

湊未来

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満たされない心


 カフェで行われた合コンから数日、美咲は頻繁に司と連絡を取り合う仲になっていた。
 相変わらず廉とはすれ違いの日々を送っている。しかし、話し上手な司との会話は、口下手な美咲をも楽しませ、荒んだ心まで癒してくれた。

 柏木司、彼はK大に通う大学三年生。美咲と同じ歳で就職活動中の身としても話が合う。それだけではない。既に数社の大手企業から内定をもらっている成功者の彼から伝授される面接テクは、目から鱗の情報の連続だ。立て続けに面接に落ちている美咲にとって、もはや司は神同然と呼べる存在になっていた。

 バイトから帰宅した美咲は、パパッと夕食を済ませると、私室のベッドの上、スマホ片手にぼんやりと待つ。すると、いつもの時間にスマホのベルが鳴った。

「……もしもし」

「あれ? 美咲ちゃん何だか暗いけど、どうしたの?」

 美咲のテンションの低さを敏感に察知した司から、心配そうに問いかけられる。

「はぁぁ、またね……」

「まさか、落ちた?」

「……うん」

 少しの間のあと、耳に心地よい優しい声が降り注ぎ、落ち込んだ気分を癒してくれる。

「そっか。残念だったね。確か、今回の会社は第一志望って言ってなかったけ?」

「うん」

「あちゃぁ、マジか……」

「私なんか、受かる気がしない」

 毎日のように電話をしているせいか、ついつい愚痴が口からついて出てしまう。

「大丈夫とは言えないけど、コン詰めるのも良くないよ。まだまだ就活も序盤じゃん。暗い気持ちを引きずったままだと、上手く行くものも行かなくなっちゃうよ」

 成功者が何を言うよ。

 美咲は優しい司の言葉にも、やさぐれた気分が先にたち、ため息をこぼしてしまう。

「司さんは良いですよ。何社も受かってるわけだし。どうせ、第一志望も内定もらってるんでしょ」

「いや。第一志望は落ちた」

 司の言葉に、一瞬声が出ない。

「えっ!? 嘘……、ごめんなさい。つい悪態吐いちゃって」

 本当嫌になる。こうして時間を割いて慰めてくれる友人にも、可愛くない言葉しか言えないなんて。

 美咲は自分のことしか考えていなかったことに気づき、自己嫌悪に陥いる。しかし、司から返ってきた言葉は、どこまでも優しかった。

「あぁ、気にしないで。別に第一志望の会社が全てじゃないでしょ。内定もらった会社は、俺の良さを理解して、欲しいと思ってくれたわけだしさ。案外志望外の会社に就職した方が自分に合っているかもしれないじゃん」

 第一志望の会社に落ちたというのに、それさえもポジティブにとらえ、前向きに進んでいける。司という人は、本当に芯が強い。
 自分にはない強さを持つ司に、美咲は憧れにも似た想いを抱く。

(こんな風に考えられたら、私も少しは変われるのかな……)

 最近、色々な事があり過ぎて、就活にも立て続けに失敗して、ネガティブになりがちな心を癒してくれる司の言葉が、美咲にはありがたかった。

「美咲ちゃんも、眼中になかった会社も受けてみると良いよ。案外、新しい発見があるかも」

「司さんありがとう。少し気分が楽になったよ。ちょっと、見方を変えてみるのも良いかもしれないね」

「うんうん。コン詰め過ぎないこと。それで、落ち込んでいる美咲ちゃんに、提案なんだけど。前話していたデート、気晴らしに遊園地に行かない?」

「えっ!? 遊園地?」

 見た目も、性格も、考え方も大人な司から遊園地なんていう、子供っぽい単語が飛び出し驚いてしまう。

「遊園地、嫌い?」

「ううん、嫌いじゃないよ。なんだか、司さんの口から遊園地って言葉が出たのが意外で」

「子供っぽかったかな。遊園地で、思いっきりはしゃぐのも楽しいかなって。絶叫系とか乗って叫んだら、嫌なことも忘れられそうじゃん」

「ふふふ、それもそうですね。じゃあ、一緒に遊園地行きましょうか」

 それから、打ち合わせと称した司との会話は、あっという間に一、二時間を超え、『明日も大学。早く寝なきゃ』という叫びを最後に打ち切られた。

 時計を見れば、夜中の一時を過ぎている。シンっと静まり返ったリビングからは、人の気配がしない。

「廉は、まだ帰ってこないのか……」

 一人つぶやいた言葉が、静けさに包まれた部屋に響き、消える。

 今頃、廉は静香と一緒なのだろう。

 一瞬、心を突き刺した痛みに気づかぬふりをして、美咲は司との会話を思い出す。
 ウィットに富んだ話題に、話しやすい雰囲気をつくってくれる司。彼と話していると嫌なことも忘れられる。そんな気がするのだ。

「廉のことも、忘れられるのかな……」

 スマホに目を落とせば、心にぽっかりと穴が空き泣き笑う美咲の顔が映っていた。
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