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矛盾する気持ち
「イヤァァァ、キャァァァ……」
ただ今、美咲はジェットコースターで大絶叫中だ。
遊園地の最寄り駅で司と待ち合わせをした美咲だったが、駅で落ち合った時から、司の隣に立つ美咲へと女子の視線が、突き刺さる突き刺さる。
司を見てから移る女子達の視線は、美咲を見た途端、半眼になる。明らかに『イケメンな彼に、チンチクリンな彼女……、何それ』な視線である。
今日の司の服装は、紺のポロシャツに白のチノパンを合わせたシンプルな格好だが、身につけている小物がオシャレ度を上げていた。紺のデッキシューズから見える足首にはアンクルアクセサリーをつけ、首元からはシンプルなシルバーネックレスがチラッとのぞく。
一つ一つは、目立たないくらいシンプルなものだが、高身長で顔面偏差値の高い彼が着こなせば、どこぞのモデルかと思う出来栄えだった。
(私って、イケメンには何故か縁があるのよね)
元モデルの廉にしても、現役アイドルの遥にしても、隣を歩く司だって極上の男の部類に入るだろう。ただ、つくづく男運はないと思う。
女子達の鋭い視線にため息をこぼしながらも、考えてしまうのは、やっぱり廉のこと。
美咲の意思を無視した横暴な行いに腹立つ一方、いつまでも心に巣喰う廉の存在が美咲の心を支配し離さない。
なにより、今だに廉を意識している自分自身が一番タチが悪い。
(本当、往生際が悪いって言うか、何と言うか……)
自己嫌悪に落ち込みそうになる美咲の耳に、優しく明るい声がはいった。
「そろそろ休憩しない? 叫び過ぎて喉渇いちゃったし」
遊園地に着いてから、うさを晴らすかのように絶叫系ばかり乗っていた美咲は、そろそろ休憩したくなってきていた。そんな美咲の気持ちを読んでいたのか抜群のタイミングで言われた言葉に、単純に感心してしまう。
「じゃあ、そこのベンチで待ってて。飲み物買って来るから」
司は、美咲がベンチに座るのを見届けると、飲み物を買いに店へと走っていく。
走り去る司の後ろ姿を見つめ、美咲は感嘆のため息をこぼしていた。
駅で待ち合わせてから繰り広げられるスマートなエスコートは、司が女性慣れしていることを示していた。
話し下手な女を相手にしなくても、女に困ることはないだろう司が、なぜ美咲の相手をしているのか疑問に思わないわけがない。きっと、何かしらの思惑があるだろうことは、美咲だってわかっている。
ただ、司とはしゃいでいる時だけは、廉のことを忘れられる。そこに甘えてしまっている自覚もある。
美咲は、また一つ深いため息を吐き出す。
「はい。カフェオレにしたけど、よかった?」
「ありがとう。大丈夫」
飲み物を手渡され、隣に司が座る。
「久々の遊園地、楽しいものね。叫び過ぎて声枯れそうだけど。でも、良い気晴らしになった。司さん、連れて来てくれてありがとうね」
「どういたしまして。それより前から気になっていたんだけど、司さんってやめて欲しいな。なんだか他人行儀で嫌なんだ。呼び捨てにして欲しいんだけど、ダメかな?」
「いやぁ、恋人でもないし。呼び捨てはハードルが高いかな」
「そんなもんかなぁ~? 友達同士だって呼び捨てにするだろう。じゃあ、美咲ちゃん俺と付き合ってよ!」
付き合う?
「……どこへ?」
「いやいや、違う違う。そういう意味じゃなくて。俺の恋人になってよ!ってこと。たまに天然入るよね。まぁ、そこが可愛いんだけど」
「はい!? えっと……」
私、司に告白されたの? 意味がわからないんだけど……
美咲と付き合っても、司には何のメリットもない。数多の女避けにも、口下手な美咲では司もつまらないだろう。暇つぶしの友達にもなれない自信はある。
告白の意図を逡巡している美咲の態度を勘違いしたのか、司から予想外の質問が飛んだ。
「もしかして、本当は彼氏いる?」
『彼氏』の言葉に、美咲の頭に廉の顔が浮かぶが、慌ててそれを打ち消し、曖昧な笑みを浮かべた。
「彼氏は……、いないかな」
「でも、好きな男はいるって感じか」
「えっ!? まさか……」
司の言葉に、慌てて否定するが言葉は途中で消えてなくなった。
「……無自覚か。美咲ちゃん気づいている? 俺が彼氏とか、好きな男とか聞く度に、辛そうに顔ゆがめているの。合コンの時に、彼氏いるか聞いた時もそうだった。辛い恋、しているんだね」
「そんなこと……」
否定の言葉が出てこない。
辛い恋をしている。いつも思い出すのは廉のことばかり。
性のはけ口にされても、本命彼女と嫌がらせみたいにバイト先に現れても、すれ違いの日々を送っていても、やっぱり思い出すのは廉のことばかり。
廉に恋焦がれても、手が届かない存在なのに。
「泣いてるの、気づいてないの?」
「……えっ?」
隣に座る司の手が伸び、あふれそうになる涙を拭われる。
(うそ、泣いて……)
「そんな辛い恋、忘れちゃいなよ。美咲ちゃんが苦しむことない。そいつのこと、忘れるために俺を利用したっていいんだ」
司の手が頭に乗せられ、撫でられる。そして、胸へと引き寄せられたとき、堪えていた涙は次々と頬を伝い落ちていった。
「返事は、急がないからさ」
涙を流し、うつむいた美咲の手を司が握る。いつの間にか握られた手の指が絡み、優しい温もりを美咲へと伝えてくれる。
恋人繋ぎか……
まだ廉と恋人だった三年前。美咲からねだるように廉にせがんだ恋人繋ぎ。
今は別の人としているなんてね。
虚しい想いが心に広がり、美咲は寂しさを埋めるようにつぶやいていた。
「ねぇ、このまま帰りたくない」
「美咲ちゃん、それどういう意味で言ってるの? 都合良く解釈するけど良いの?」
廉はきっと家にいない。
ただ一緒に住んでいるだけの家になんて、帰りたくない。
もう寂しい思いなんてしたくない。
「……うん」
「わかった……」
繋がれた手がキュッと握られる。
廉への想いを終わりにしよう……
♢
「柏木司君だっけ。彼女を返してもらってもいいかな」
手を繋ぎ、遊園地を出たところで、背後からかけられた声に二人して振り向いた。
車に寄りかかり、夕陽を背にタバコをくゆらせ、二人を見据える男。美咲は、あまりの衝撃に言葉が出なかった。
(なんで……、なんで、いるの?)
瞳を見開き立ち止まった美咲を司が、いぶかしげな顔して見ているが、もはや気遣う余裕はなかった。
ゆっくりと廉が近づいて来る。
「美咲、今日は楽しかったかな?」
「どうして……」
美咲の腕を掴んだ廉が、強引に引き寄せる。嗅ぎ慣れた香りが鼻腔をぬけ、痺れにも似た感覚が全身を駆け巡った。
「本当に、困った娘だ」
背後から廉に抱き込まれても、美咲は動けなかった。
「柏木司君だね。美咲が随分世話になったようで」
怖くて後ろが見れない。
美咲は廉の腕に抱かれたまま、ただ震えることしか出来なかった。
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