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ぶつかり合う心①
「おかしな事を言うんですね、廉さん。美咲さんは、僕の彼女ですけど」
「くくく、君に名乗った覚えはないが、まぁいい。美咲の彼氏? 美咲の彼氏は俺だったはずだが。違ったかな」
最後の言葉は自分に向けられたものだと分かっていても、恐怖に震え司に抱かれている美咲は廉の問いに答えることが出来ない。
「それこそ、変ですよ。あなたは、ただの幼なじみでしょ。しかも、昔に振られた。未練たらたらにも、ほどがあるんじゃないですか」
廉を挑発するような司の言葉に焦るが、今の美咲には二人の成り行きを見守ることしか出来ない。
司が言うように、廉は嫉妬しているのだろうか。わずかに期待する心が、喧嘩腰の二人のやり取りを止めることを躊躇させる。
「貴さま……、好き勝手言いやがって」
怒気をはらんだ乱暴な物言いが、廉の苛立ちをあらわにする。しかし、その怒りを抑えるように、息を吐き出した廉が紡いだ言葉に、今度は司の身体がビクッと震えた。
「まぁぁ、いい。どうせ、美咲に恋人のふりをして欲しいとでも言われたんだろう。柏木司くん、君のことを少し調べさせてもらったよ。美咲を君の沢山いる彼女の一人にでも加えるつもりだったのかな?」
廉の言葉に美咲は司の腕の中、妙に納得していた。司にとっても美咲は、忘れられない彼女を忘れるための身代わりに過ぎなかったのだ。美咲のような女性が、たくさんいたことは司の言動からもわかっていた。
ただ、美咲の心には司に対する憤りはない。美咲もまた、廉を忘れるためだけに司を利用したのだから。
(これが廉だったら私はきっと許せない)
本気で好きになった人の心には別の女の人がいて、自分はその人を忘れるための吐口でしかない。本気で好きだからこそ、許せないこともある。
廉と静香が抱き合う映像が脳裏に浮かび、美咲は唇を噛みしめる。ズキズキと傷む心臓の音が、耳に大きく聴こえ美咲は震え出しそうになる身体を必死に抑えた。
心が苦しくて仕方がないのに、自分を性の吐口としか見ていない男の戯言は続いていく。
「美咲は、男女の駆け引きに疎くてね。酷い男にも簡単に引っかかる。だから、目が離せない。――まぁ、いいさ。どうせ美咲は、すぐ俺のところに戻ってくる。柏木司くん、小川琴乃さん、知っているよね?」
美咲を抱きしめていた司の手が、ビクッと震える。明らかに、余裕をなくした司の顔に美咲は、彼の最後の言葉を思い出していた。『忘れられない人がいる』それが、廉の言った女性なのだと美咲は悟った。
「駅前のカフェにいる。君の大切な女性だろ?」
「嘘だろう……」
顔に驚愕の色を浮かべた司が、美咲を離しベンチを立ち上がると走り出す。そんな彼の背中を見送り、美咲は心の中で彼の想いが報われることを切に願った。
「さて……、美咲。二人の家へ帰ろうか」
司と入れかわるように美咲の手を引いた廉に抱きしめられ、耳元で囁かれた言葉に、美咲の心は散々に乱れる。
「俺を振り回すなんて、美咲は悪い子だね。悪い子には、お仕置きが必要だと思わないかい」
香った懐かしい香りに、心が狂おしいほど昂るのを感じながら、美咲は廉の腕の中、ただただ震えることしかできなかった。
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