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大人に成りきれない男【廉視点】
「はぁぁぁ……」
都心の一等地に立つ高層ビルの一角。見渡しの良いワークスペースのさらに奥。会議室が両側に配置された廊下を進んだ最奥に、廉が社長を勤めるエスポ芸能事務所の社長室はあった。
(美咲は最終面接を受けている頃か)
誰もいないことをいいことに、廉は社長室の机に突っ伏し大きなため息をつく。
あんな事、言わなければ良かった。
『いつまででも待つ』なんて、そんな格好いいことを言ったところで、心の中は変えられない。
一人の女性として社会に出て、大きく成長して欲しいと願う反面、社会に出れば今以上に幅広い人間関係に晒されることになる。
新しい環境、新しい出会い。
美咲が、社会に出て、世界の広さを知ってしまうのが怖くてたまらないのだ。
彼女を奪うかもしれない男と出会ってしまったらと考えるだけで、臓腑が煮えくりかえる。
他の男に取られるくらいなら、美咲を囲ってしまえと過去の自分が唆かす。
重症だ。
本気で入社試験に落ちればいいと思ってしまう自分は、最低な人間なのだろう。
最終面接が控えているのも知っていながら、仄暗い感情に抗えず、昨晩は美咲が気を失うまで抱いてしまった。
美咲に嫌われていると思っていたからこそ、過去の自分は欲望のまま突き進んでしまった。しかし、今は美咲に嫌われることが、なによりも怖い。
今の幸せを失いたくない。
(この声が俺の本心なんだろうな……)
待つなんて格好良いことを言ったって、所詮は美咲を誰の目にも触れさせたくないと思うほどには病んでいる。どうしたら、美咲が社会に出ず自ら俺と結婚するよう、仕向けることが出来るかと考えている毎日だ。
「病んでるよなぁ……」
「あら? 廉、あなた病んでいるの? 可愛い年下彼女とラブラブで、幸せいっぱいじゃないの?」
扉を開け社長室へと入って来た静香からの痛いツッコミに、廉は不貞腐れてそっぽをむく。
(地獄耳だなぁ)
「あぁ。彼女とは順調だよ」
「ならどうしたの? ため息ばかりついて。数ヶ月前のギラギラして凶悪なオーラを放っていた時の方が面白かったわよ」
「ほっとけ!」
呆れ半分に美咲との関係を静香に揶揄われ、心ばかりの反抗を示し睨むが、当の本人はどこ吹く風だ。そんな静香の態度にコソッとため息をこぼし、彼女から視線を外した廉は、静香と行った美咲のバイト先、イタリアンレストランでの夜を思い出していた。
昔からどこで聞きつけてくるのか、静香には廉の交友関係は筒抜けだった。
廉がモデルだった頃、商品の交友関係を管理するのはマネージャーとして当然のことだが、今は社長秘書だ。モデルを辞め、メディア露出がない現在もどこで情報を入手して来るのか、プライベートまで把握している節がある。
あの日も、一人で美咲のバイト先へと偵察に行く予定が、街中でバッタリ静香に出くわし、結局二人でイタリアンレストランで夕飯を食べることになっていた。
芸能事務所を経営している以上、パパラッチには必要以上に警戒しなければならないのは、社長になった今も変わらない。だからこそ、静香が目を光らせているのかもしれない。
(まぁ、昔の走行の悪さを考えれば致し方ないか)
美咲と別れた直後の自暴自棄になり病んでいた当時、静香に言われた言葉を思い出し苦笑が顔に浮かぶ。
静香的に心配なのだろう。
過去の恋愛を引きずっている俺が……
「どうせ年下彼女のことで悶々としているんでしょ。仕事に支障をきたさなければいいわ」
「仕事に支障をきたすことはない。同じ轍は踏まないさ」
「まぁ、いいわ。スキャンダルだけは気をつけてね。――それにしても、昔も今も彼女に振り回されているのね。貴方が頑張るのも駄目になるのも彼女次第……、良い大人なんだから、いい加減ドシンと構えなさいよ。なにがあっても包んであげられるくらいの包容力がないと女は離れていくわよ」
「そんなこと、言われなくたってわかっている」
静香の言葉が、耳に痛い。あの時も、そうだった。彼女の言葉がなければ、あのまま腐っていただろう。美咲に振られた絶望で、自棄になり今の成功もなかった。そして、美咲をもう一度、手にすることも。
ただ、未だに疑問は残る。
美咲は、ずっと廉が好きだったと言った。別れてからもずっと。
なら、どうして美咲は別れを選んだのか?
その疑問が頭から離れず、今の幸せに浸ることを拒否する。美咲に裏切られた過去の自分が美咲を囲えと唆かすのだ。
(あぁぁぁ、囲ってしまいたい……)
静香の視線を避けるように、再度、机に突っ伏した廉は大きなため息をこぼした。
「本当、子供なんだから。美咲さんに捨てられたら、慰めくらいならしてあげるわ」
「いらねぇーよ」
「可愛くないんだから」
机の上に書類を置き静香が踵を返し去っていく。扉を閉める音に顔をあげた廉は、立ち上がり窓へと近づく。社長室の一面を切り取り配置された窓からは夕焼けに煙る都心のビル群が見える。それは、まるで心に広がる靄のようで、気分は晴れない。
一人になった社長室で、美咲との未来へと想いを馳せる廉はため息をこぼす。
美咲との未来が見えない。
心が通じ合い幸せなはずなのに、不安ばかりが募っていく。ただ、美咲に別れを切り出されたとしても、手放すつもりはない。
「……もう、あんな想いはしたくない」
美咲と別れ闇へと落ちた日々が脳裏に浮かんでは消えていく。
夕闇に沈みかけた部屋には、廉のため息だけが響いていた。
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