32 / 45
愛しの彼女の意味不明な行動【廉視点】
美咲が、帰って来ない。
夕飯を食べ帰宅した廉は、玄関を開けて直ぐ違和感に気づいた。美咲のスニーカーがない。いつもバイト先へと履いて行くスニーカーがないのだ。
嫌な予感が頭をよぎり腕時計を見おろせば、時計の針は零時をまわっていた。
美咲は、どこにいる。
頭を支配する恐怖に急かされ、靴を脱ぎ捨てリビングへと駆け込むが、部屋は暗く静まりかえっている。慌てて踵を返し寝室の扉をあけるが、見慣れたベッドは綺麗に整えられ、そこに美咲の姿はなかった。
廉の心に焦りだけが募っていく。
まだ、帰っていないなんてこと、あるのか。
寝室の真向かいにある美咲の部屋の扉を開けるが、彼女はいない。
美咲が、帰っていない。
スーツの胸ポケットからスマホを取り出し、震える手でGPSアプリを立ち上げる。
今日はバイトの日だ。
きっとバイト仲間に誘われて飲みにでも行っているのだろう。たまに、抜けたところのある美咲のことだ。連絡を入れるのを忘れてしまっただけだ。
焦るなと己に言い聞かせGPSを操作した廉だったが、スマホ上に美咲を表す点滅を見つけることが出来ない。
「――くそっ!」
美咲は、どこへ行ったんだ。
何度も、何度も電話をかけるが無情にも廉の耳に入るのは、無機質な機械音のみ。意図的に、電源が切られている。
事故、事件……、嫌な想像ばかりが頭の中をクルクルと回る。
いつもと変わらない朝。
家を出る直前に美咲を起こし、眠気まなこの彼女へとキスを落とし出勤する朝。幸せな朝のやり取りに浮かれ、美咲の変化に気づかなかったのだろうか。
美咲の私室へと取って帰した廉は、部屋の中を手当たり次第、探しはじめる。そして見つかったのは、不採用を告げる手紙だった。
まさか、最終面接に落ちたショックで。
「美咲、どこにいる!」
どこに居るのか、何の手掛かりもない今の状況に焦燥感だけが募っていく。
嫌な想像ばかりが頭に浮かび、ジッと座っていることも出来ず、ウロウロとリビングを歩き回る。ただ、状況は変わらない。己の無力さに、ただ絶望するだけだった。
「どうにかして、美咲を探し出さなければ。バイト先、大学の友達、実家……、警察……」
突然、手元のスマホが鳴り出す。
「美咲なのか!?」
廉は、相手が誰かも確認せず電話に出ていた。
「兄貴、俺だよ。今いいか?」
「――遥か。すまないが、話している余裕はない。明日、聞くから切るぞ」
スマホを耳から離し、電話を切ろうとした廉の手が、遥の口から発せられた言葉に止まる。
「ちょっと、待って!! 美咲のことだから」
「美咲、だって!! 遥、何か知っているのか!?」
「あぁ、知っている。今、美咲は俺の家にいる。
あっ! 勘違いするなよ。間違っても手は出してないから。夜中に突然メールが来てさ、呼び出されたんだよ。メールの文面が、あまりに物騒だったから慌てて合流したら、泣き崩れるしさ、そのままにして置けないだろう。とりあえず、家に連れて来た」
遥の言葉に一瞬、血がのぼりかけた己の狭量さに苦笑し、落ち着けと自分に言い聞かす。
「兄貴の家に帰りたくないって言うし、仕方なかったんだよ。兄貴、何か心当たりないか? 美咲、何にも、話さないんだ」
「美咲は、遥の家にいるんだな?」
「あぁ。やっと、寝たよ。しばらく、泣いてたかなぁ」
「美咲は、泣いていたのか?」
「あぁ。呼び出された喫茶店で合流した時からずっとだ。何も言わないけど兄貴絡みじゃないのか。兄貴の家に、帰りたくないって言うしさ」
遥の言葉が信じられず、耳から耳へと抜けていく。美咲との関係は、良好そのものだったのだ。数日前に観覧車の中で将来を誓い合ったばかりだというのに、美咲が逃げ出す理由がわからない。
やっと気持ちが通じ合い、これから未来へ向け二人で進んで行こうと考えていたのに……
「まさか、始めから……」
確信めいた答えが脳裏をよぎり、スマホが手から滑り落ちた。
心が狭く、嫉妬深い男。
美咲の気持ちを無視して、囲った。
本当は、ずっと逃げ出したかったのだろう。
だから、美咲は逃げた。
三年前より辛い現実が、廉の心をむしばむ。
絶望に沈んだ日々が頭をくるくるとまわり、心が崩壊していく。
「俺は……、俺は、何を間違えた」
「おい! 兄貴。おい、大丈夫か!?」
床へと落ちたスマホから遥の声が聴こえ、我に返った廉は力なくソファへと落ちる。
美咲を手放すべきだと頭ではわかっている。これ以上、彼女を苦しめるべきではないと。しかし、心が、美咲を手放すことを許さない。
「なぁ、はるか。俺は、それでも美咲をあきらめられない」
スマホ越しに遥の息をのむ声が聴こえ、廉は自嘲的な笑みをこぼす。
「ちょっと、落ち着け。兄貴まで激情のまま動いたら、上手く行くものも行かなくなるだろう。冷静になれって」
「はるか、俺は冷静だよ」
「うそ言え。今の兄貴、怖ぇよ。本気で美咲を囲うつもりだろ。違うか?」
美咲を囲う。
失うくらいなら、囲ってしまえと過去の俺がそそのかす。
「くくく、そうだな。美咲を囲ってしまえば、もう俺から離れない」
淀み、濁った欲が壊れた心を満たし、真っ黒に染めていく。狂気めいた感情に支配されそうになったその時、遥の言葉が堕ちそうになる心を引きとめた。
「兄貴、それでいいのかよ。このまま囲ったら、美咲の心は一生手に入らない。それでも、いいのかよ」
激情のまま、怒りに我を忘れ美咲を傷つけた日々が頭をめぐる。冷静に向き合う必要があると分かっている。きちんと、話し合う必要が。
しかし、美咲が手元にいない焦燥感に我を忘れ、闇へと堕ちそうになる。
「そうだな……、結局、俺は何も変わっていない。美咲と別れた三年前から、何も。愛想を尽かされても仕方ないな」
「なぁ、兄貴。まだ、遅くねぇんじゃね。今だから言うけど、美咲は三年前も今も、兄貴が全てなんだよ」
一筋の光が、闇に染まった心に差し込む。
「まだ、間に合うのだろうか……」
「あぁ、まだ間に合う。だから、待ってやれよ。美咲の気が済むまでさ」
「はるか、ありがとう」
涙声だった。
きっと遥には気づかれているだろう。
「まぁ、どちらにしろ、今は無理に連れ帰らない方がいいと思う。とりあえず、俺ん家で預かるから、様子見て兄貴と話すように促すわ」
「分かった」
電話を切り、深いため息をこぼす。
「美咲……、ごめん」
過去の過ちが、脳裏に去来しては消えていく。後悔の念に耐えながら、廉は一人待つしかなかった。
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*
罰ゲームで告白されたはずなのに、再会した元カレがヤンデレ化していたのですが
星咲ユキノ
恋愛
三原菜々香(25)は、初恋相手に罰ゲームで告白されたトラウマのせいで、恋愛に消極的になっていた。ある日、職場の先輩に連れていかれた合コンで、その初恋相手の吉川遥希(25)と再会するが、何故かヤンデレ化していて…。
1話完結です。
遥希視点、追記しました。(2025.1.20)
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。