【R18】スパダリ幼なじみは溺愛ストーカー

湊未来

文字の大きさ
37 / 45

こじれた糸が解けるとき


「美咲、落ち着いたか?」

「……うん」

 遥の部屋から連れ出された美咲は、廉の運転する車に乗せられ、二人の家へと向かっていた。

 全てが、誤解だった。
 廉と静香は、恋人ではなかった。
 それなのに確認もせず、逃げ出した。

 勝手にいなくなって連絡も絶って、遥の家に引きこもって……、私、なにやってんだろう。
 別れを選んだあの時から、私は何も変わっていない。逃げ出した臆病者のまま。

 三年前も美咲の誤解から全てが始まった。
 静香と廉が恋人同士と誤解して、静香が纏っていた廉と同じ香りに惑わされて、別れを選んでしまった。

 あの時、廉と話し合っていたら何かが変わったのだろうか。
 あの時、廉と向き合い、自分の気持ちをぶつけていれば、二人の仲はこんなにも拗れなかったのだろうか。

 仕掛けたのは静香さんでも、廉と話し合わず別れを選んだのは私。全ての原因は、私にある。

「廉、ごめんなさい」

「お互いに、誤解していたな。俺も酷いことをたくさんして来た。静香と恋人同士と誤解していると気づいていたら、もっと早く二人で話し合っていたら、後悔しても遅いけど、こんなにこじれなかった」

 前を見据え運転する廉の横顔は変わらないが、言葉の端々ににじみ出る後悔の念が、美咲の心をキュッと痛ませる。

「美咲を囲ってからの俺の行動は、クズ男そのものに映ったよな。美咲が俺にぶつけた言葉をもっと真剣に受け止め、冷静に話していたら美咲をこんなにも苦しめることはなかった。本当に、すまない」

 あふれる涙を止めることなんて、出来なかった。

 廉だけが悪いわけではない。腹を割って話しをしなかった二人ともに罪がある。

 パタパタと落ちる涙が服に染みをつくっていく。
 涙の後は、消えない罪の証。

 足に置いた手を強く握り、肩を震わせ泣く美咲の頭を、廉が優しくなでる。

「美咲、家に帰って話そう。過去も未来も、お互いに思っていること、全部話して二人で考えよう。これ以上、誤解が生まれないように」

 沈黙に支配された車内に美咲の嗚咽が響く。
 それは、背負った罪の大きさへの後悔を示す涙に他ならなかった。



 目の前には、湯気が立つコーヒーカップ。いつだって美咲が落ち込んでいるとき、不安に思っているとき、廉が入れてくれるのはホットミルクだった。

 美咲は、過去から変わらない廉の優しさに『今』気づき、苦笑をもらす。
 廉は昔からなにも変わっていない。
 そんな優しさにも気づけないほど、自分の心は三年前からずっと『疑心』に囚われていた。

「美咲、話せそう?」

 目の前の椅子に座った廉が遠慮がちに問いかける。
 
 コーヒーカップを手に持ち口をつければ、ホットミルクの優しい香りが鼻腔をぬけ、甘みが口いっぱいに広がった。

 そう、この味。
 三年前と同じ……
 砂糖二杯に、あったかいミルク。

 懐かしい味に、背中を押され美咲は覚悟を決める。全ての誤解の原因、美咲は三年前の別れから話を始めた。

 静香が突然、目の前に現れ廉と別れるように言われたこと。
 知らない女の纏う廉の香りに、彼女が廉の本命だと勘違いしたこと。
 美咲との付き合いは同情からで、いつか捨てられるならと、自ら別れを選んだこと。
 廉に会うのが辛くて、怖くて、音信不通になり逃げ出したこと。

 三年ぶりに会った廉に抱きしめられた時、香った廉の香りに、静香と廉がまだ恋人同士なのだと、思い込んだこと。
 静香と二人でバイト先に現れ仲睦まじい姿を見て、自分は廉にとって復讐を果たすためだけの性のはけ口で、自尊心を取り戻すためだけのオモチャなのだと思ったこと。

 そして、廉と気持ちが通じた後も、幸せを壊したくなくて静香との関係を聞けなかったこと。
 その結果、廉の車の中で静香と誰かがキスをしているところを見て、廉に裏切られたと思い込み、逃げ出してしまったこと。

 美咲は、辛く悲しかった思いを包み隠さず全て、吐き出した。

「美咲、本当にすまなかった。今さら謝っても許してもらえないほど、美咲を傷つけてしまった。独りよがりにもほどがあるな。自己中心的で、美咲の気持ちを無視して、無理矢理身体の関係を結ぼうとした。しかも、バイト先に静香を連れて行くなんて最低だよな。美咲が手元にいる安心感から、一番大切な相手を思い遣る気持ちを忘れてしまった」

 後悔をにじませた声が、美咲の心に突き刺さる。
 廉もまた、自分の行いを後悔しているのだろう。

「こんな男、幻滅されても仕方がない。でも、美咲は俺を好きでいてくれた。今でも、俺のことを好きでいてくれるのか?」

 一瞬こちらへと向けられた廉の瞳が、不安気に揺れる。

 今でも、廉がたまらなく好き。
 一生、廉以外の人を好きになることはないだろう。

 でも、伝えなくちゃいけない。

「好きよ。廉のことがたまらなく好き。一生、廉以外の人を好きになることはないと思う」

「……美咲」

 心の底から湧きでたような廉の笑顔に、美咲の胸がズキリと痛み、罪悪感でいっぱいになる。
 でも、ここで幸せに手を伸ばせば、きっと後悔することになる。

 覚悟を決めた美咲は、目に涙をいっぱいため言葉を紡ぐ。

「――だから、一緒にいられない。たとえ、今までの廉の行為を許せたとしても、今の弱い私では、きっと同じことを繰り返してしまう。あなたの隣に素敵な女性が現れる度に、嫉妬して、疑って、めちゃくちゃにしたくなってしまう。自分に、自信がないの……、今の私じゃ、廉の側にいられない」

 廉と別れた三年前から、私は何も変わっていない。あの頃と同じ……

 自分に自信がなく、静香から廉を奪う勇気もなく、逃げ出した意気地なしのまま。廉が迎えに来てくれるのを、ただ待つだけの子供のままなのだ。

 今のままじゃ、廉の隣に立てない。

「待っていて、なんて言えない。でも、これだけは言わせて欲しい。これからもずっと、廉だけを愛している」

 泣き崩れた美咲を、廉がかき抱く。
 廉の力強い腕の中、美咲は嗚咽をもらし泣き続ける。あきらめにも似た想いを抱き、泣き続ける美咲へと信じられない言葉が降り注いだ。

「いつまでだって、待つ。美咲が俺を愛してくれているのなら、何年だって、何十年だって待つ。これから先、俺は美咲以外の誰かを好きになることはない。いつまでも、美咲だけを愛している」

 熱い唇が重なり、深く深く交わる。
 失われた三年間を埋めるかのように重なり合う唇は、深く、激しく混じり合う。

「廉、最後のお願いをきいて。私を抱いて……」

 熱く、切ない夜がふけていく。
 二人の最後の夜がふけていく。
感想 13

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

社長の×××

恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。 ある日突然異動が命じられた。 異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。 不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。 そんな葵に課長は 「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」 と持ちかける。 決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。 果たして課長の不倫を止めることができるのか!? *他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

罰ゲームで告白されたはずなのに、再会した元カレがヤンデレ化していたのですが

星咲ユキノ
恋愛
三原菜々香(25)は、初恋相手に罰ゲームで告白されたトラウマのせいで、恋愛に消極的になっていた。ある日、職場の先輩に連れていかれた合コンで、その初恋相手の吉川遥希(25)と再会するが、何故かヤンデレ化していて…。 1話完結です。 遥希視点、追記しました。(2025.1.20) ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした

あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。 しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。 お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。 私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。 【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】 ーーーーー 小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。 内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。 ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が 作者の感想です|ω・`) また場面で名前が変わるので気を付けてください

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。