冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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仮面

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銃声の後、静寂に包まれた白い部屋。
焦げ臭い……。そこに混じる濃い血のーーーー。

床を赤黒く染め、血を流して倒れているのは俺ではなく愛蘭。

今も命を流し続ける左手を握りしめ、苦痛に顔を歪ませている。

「なん…で………」

その疑問は、俺も同じだった。答えは、愛蘭の後ろにあった。出窓のガラスに小さな穴が空いており、外で手の平サイズの小型ドローンが空中に浮かんでいた。
羽虫のような機械音。
ドローンの下部には、銃口のような物が二つあり、白煙が揺れていた。

あのドローンが、愛蘭の手を撃ったのか………。


突然、生徒会室のドアが開き、愛蘭が今一番会いたくない人物が姿を現した。

「少し遊び過ぎじゃないかな?  二川、ここは幼稚園じゃないよ」

この学園の光と……闇。生徒会長『神華 七美』。

「うるさいッ! 偉そうに……。女の癖に男の振りなんかしやがって。虫酸が走るんだよ、色ボケ野郎。私は、お前なんかには絶対に負けない! その地位から蹴落とす。地獄に叩き落とす………必ず………」

会長は、呆然と立ち尽くす俺を素通りし、まだ倒れている愛蘭の横でゆっくりと腰を屈めた。俺を殺す為のベレッタを拾い上げ、愛蘭の口元に銃口を近づける。

「小さくて、プックリしてて……可愛い唇だね。でも……喋りすぎだよ」

七美は、本気で撃つ。愛蘭を殺す。

「やめろっ!!  もう、十分だ。だから、これ以上はやめてくれ」

「キミは、甘すぎる。二川、彼女は今殺さないと将来必ず厄介な敵になる。死神として僕達の前に現れるよ」

「………それでも、愛蘭を殺さないでくれ。確かにコイツは最低最悪な奴だけど、殺すのは違う。コイツにだって、人間として生きるチャンスを与えてやってくれ」

倒れている愛蘭が、信じられないというような、ひどく驚いた顔で俺を見ていた。

「………そんなんだから、今だに最下層から抜け出せないんだよ。青井君……僕が念のために配置した軍事用ドローンがなかったら今頃、脳ミソ撒き散らして死んでいるんだよ?  自分を殺そうとした相手に情けをかけるなんて間違ってる」

「誰かの不幸の上に成り立つ正解は、不正解よりタチが悪い。甘いかもしれないけどさ、俺はそう信じて毎日を生きてるよ。だから……やっぱり愛蘭を助けてくれ。頼むよ、七美」


会長は、外で待機していたメイドにテキパキと指示を出して愛蘭を病院まで搬送させた。

……………………………。
………………………。
…………………。

しばらくして、俺と会長だけになった生徒会室。割れた窓から、ひぐらしが鳴く音がやけに大きく聞こえていた。

懐かしいような、少し悲しい気分になった。

「会長……。いや、七美。ありがとう、愛蘭を助けてくれて。………じゃあ、そろそろ帰るよ」

ガチャガチャ。

あれ?

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

あれれ?

ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ。

「ん、開かないんだけど? え、なんで、どうなってんだ、この扉」

会長は、部屋の一番奥にある机に優雅に座りながら、人差し指で空中に絵を描いていた。

「その扉は電子錠だから、僕の指紋認証と網膜スキャンをしないと絶対に内側から開かないよ。もちろん、外からも開けられない。つまりね、この場所は完全な密室ってこと」

「いや、密室にする理由が分からない。俺は、帰りたいだけだよ。だから、早く解除しろ」

「会長である僕にそんな無礼な口を聞けるのは、青井君だけだよ」

俺は、会長に近づくと間近でその顔を凝視した。一度、チラッとこっちを見た会長は、慌てて目線をそらした。

「それにしても、すごいイケメンだよな……会長って。女子が騒ぐ気持ちも分かる。でも、さすがにこんな顔は俺しか知らないよな」

会長の頬に触れ、軽く摘まんでみる。マシュマロ頬っぺ。すんごく柔らかい。

「やめ…ほ……」

「やめてほしいなら、ドアの鍵を開けて?」

「……ぅ……」

なぜか、泣いてしまった。やり過ぎたと思い、何度も謝ってから会長を抱き寄せる。首筋にキスをした。

「ん…みゅ…………。っもう、絶対に許さないから!! 会長権限により、キミを退学処分に」

強引にキスをした。乱暴に上着を脱がせる。

「神聖な生徒会室でこんなことしてさ、七美は会長失格だな」

「……………タマちゃん……キラ…ぃ……」

男の仮面を外し、弱々しい女の姿になった七美は、やっぱり世界で一番可愛いと思った。


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