冷やし上手な彼女

カラスヤマ

文字の大きさ
上 下
15 / 63

悪夢な夜

しおりを挟む
急にマイクの不快なハウリングがして、俺達の注目を強制的に集めた番条さん。

静けさに包まれた鳥籠を見つめ、

「みなさん……この…目を……見て……」

彼女は、そのウザったい前髪をゆっくりと上げ、俺達に左目だけを見せた。

ーーー吸い込まれそうな、海の底より暗いダークブルー。

「………………」

誰もが、心を奪われた。勿論、俺もその一人。神秘的で美しいタンザナイト。しばらく思考が停止した。

その後すぐに番条さんは舞台から消え、進行役が俺達、奴隷候補の削ぎ落としにかかった。仮面男が左右の手に持つ、数字が書かれた赤札。正解だと思われる方の札を指差すだけ。…………それにしても問題の難易度が異常に高い。何を言ってるか分からない大学レベル? の数学の問題だった。

「タマっちさぁ、こんな問題も分からないのぉ?」

知らない派手な女が、冷や汗だらだらの俺の横に立っていた。

「………だれ?」

「あーーー、ひっどいな! それ。私、同じクラスの五十嵐 彩夏(いがらし さやか)だよぉ。クラスメイトの顔を忘れるとか、ヤバくない? バカとか言うレベルじゃないっしょ、それ」

金髪で、しかも明らかに校則違反レベルのスカートの短さ。シャツのボタンをわざと開けた胸のアピール。やけに馴れ馴れしく俺に話しかけてくる女。尻尾をフリフリ、軽そうで……かなり苦手なタイプだった。
そういえば、クラスにいたような……気もする。

「あぁ……ごめん。五十嵐。お前、この問題分かるの?」

「もっちろん! 特別サービスでぇ、答え教えてあげるね。その代わりさぁ、一緒にチーム組もうよ。一人より、二人。勝率上げる為にさ」

「……分かった。協力プレイだな」

「なんか、イヤらしいなぁ……その言い方。キモ~」

「……………」

何とかイライラを我慢しながら、俺は五十嵐と一緒に難問題を正解し続け、遂に第一関門を無事に突破することが出来た。
こんな見た目だが、頭だけは俺よりマシらしい。

「あっ! また私のことバカにしたでしょ~」

「し、してないって! ってか、離れろ。なんだよ、お前」

腕を組み、わざと胸を当てながら、棒立ちの俺に生足を絡めようとする五十嵐から離れた。周りを確認する。あんなに混み合っていたのに、今はスッカスカ。パッと見、二十人程度しか残っていなかった。

『では、これより最終選考を開始します。まずは、今から配られるモノを各自受け取ってください』

進行役と同じようにピエロの仮面を被ったスーツ姿の女達が、俺達に一つ一つ手渡していく。

手作りっぽいクマ? のヌイグルミ。

ーーーーーそれと、拳銃を。

息が、苦しい………。やけに重く感じた人を殺す武器。


『これより皆様には、このヌイグルミを守り抜いて頂きます。最後までこのヌイグルミを持っていた方が、番条 鈴音様の正式な奴隷となります』


悪夢な夜が、今始まる。

しおりを挟む

処理中です...