冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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微熱

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誰かが泣いていたーーー。

寝ている僕の隣で。

『あんなにいっぱい苦しめたのに……。どうして、私を助けてくれたの? そのせいで死ぬかもしれない………。バカ過ぎて……泣け…て…くる………』

自分でもバカなことをしたと思ってるよ。気づいたら、車の前に飛び出していたんだから。

『しばらくね……アナタには会えない。………もしかしたら、もう二度と会えないかもしれないの……だから……』

オデコとオデコ。重なる想い。甘い香りと微熱。

温かい何かが、ゆっ……くりと体の中に流れ込んできた。不思議な感覚。言葉に出来ない。

『この瞬間から、私はアナタだけのものになった。もし、この誓いを破ってあなた以外の男性とエッチなことしたら、すぐに死が訪れる。あっ……ちなみにだけど、アナタも私以外の糞女とエッチすると死ぬから。そこは、お互い様ってことで許してくれるよね? 私、とっても独占欲強いの』

今度は、オデコと唇。柔らかい感触と小さな彼女の声が、いつまでも僕の心をくすぐっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「おーーーーい!」

「……………」

「もう放課後だよーーーー!!」

「…………ん?」

「ん? じゃないよぉ。いつまで寝てんの」

目の前、数センチ。ニコニコしながら俺の顔を覗いている派手な女がいた。
確かこの女は、最近話すようになった五十嵐だ。最初は、ただのビッチかと思っていたが、話すと意外と真面目で、自然と俺の苦手意識も消えていた。

「五十嵐……。どうした?」

「どうしたじゃないよぉ。一緒に帰る約束したじゃん」

「あっ……あぁ……そうだったな。ごめん。なんだか、頭がボケてたわ」

「タマっちが、ボケてるのはいつものことじゃん。早く、帰ろ。またカラオケ行こうよ」

左手を握られ、引き摺られるようにして教室を出た。そんな俺達の前から、奴隷を従えて会長様が廊下を歩いてきた。

俺達は壁に退いて、お辞儀をする。

「………………」

「………………………」

無言。

ほんの数秒ーーー。

それなのに、とても長く感じられた。胸を締め付ける何かに戸惑う。

「どうしたのぉ?」

「いや……なんでもない」

少し歩いて振り返ったが、もう会長の姿は消えていた。

「……………会長ってさ……あんな感じだっけ?」

「会長は、会長でしょ。イケメンで完璧。この学園の王様。いつもと一緒じゃん。……なんか、今日のタマっち変だよ?」

「ごめん。なんか……さ」


すごく、小さく感じたんだよな。

その存在がーーー。
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