冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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愛した女

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泣いていたーーーー。

俺が。

私が。


怒声と銃声。血の香り。飛び散る肉片。あっちでもこっちでも死体が転がってる。

本当に、ここって日本かよ………。


「どうして、来たの?」

「今週、暇でさぁ」

「結婚式に招待した覚えないけど?」

「………酷いよな、お前。元カレでもさぁ、せめて結婚することくらいは教えてくれよ。二川さんがいなかったら……。番条さんが記憶を戻してくれなかったら、俺は死ぬまでお前のこと忘れてた」

「今すぐ帰って。お願い……。ここにいたら、死ぬから」

「帰る時は、お前と一緒だ」

「この状況見ても、まだ分からないの?    無理だよ。無理に決まってるじゃん。このホテルは今、世界で一番危険な場所になってる。これ以上、彼………夢神さんを怒らせないで。今ならまだ、私が彼に頼んで、アナタだけでも助けてもらうから」

「俺は、お前とここを出るんだよ。必ず。その為に今、卯月さん達にも協力してもらってる。二川や番条の危ないお仲間にもこの戦争に参加してもらってる。今さら、後戻りなんか出来ない」

「殺されるよ。みんな……全員…殺される……」

「かもな。でも、みんな俺とお前の為に命をかけてここに来た。集まった。覚悟は出来てる」

「アナタは、誰よりも神華の恐ろしさを知ってるはず。奇跡的にここから出れても死ぬまで彼らに追われる身になる。いくらバカでも、それくらい分かるでしょ」

「前に座ってるのが、結婚相手か? ハハ……すげぇ、イケメン……。その隣が、七美の両親?」

「これ以上、バカなことしないでよっ!  お願いだから……」

俺は、七美を無視して歩く。目の前に座っている悪魔までーーー。俺の命を全方位から狙っているのが分かった。

「この度のご無礼、大変申し訳ありません。えっ……と……さらに無礼を重ね、恐縮なんですが、今から娘さんを誘拐します」

『青井君。キミは、ここから生きて出られないよ。娘の言う通り、大馬鹿者だ。私達とあちらの夢神さんを敵に回して、助かるわけないだろう』

黄金のマスクを被っていて、父親の素顔が分からない。

「バカは、どっちだよ…………。なんで……。アナタ達は、まだ座ったままなんですか?  今、大事な娘さんがワケ分からない、こーーんなバカ男に拉致られそうになっているのに」

『……………』

「どうして、さっさと動かないっ!! 何でだよ………助けようとしろよ……。大事な娘なんだろ?  男の格好させるくらいに……。なんで……。アンタ等の……そういう所が昔から………死ぬほど嫌いなんだよ……」

七美の父親は、ようやく立ち上がると俺に装飾銃を向けた。

『愚かな賊よ。最後に言い残したことはあるか?』

「パパっ! やめて!! この人を殺さないで」

神華の屈強なボディーガードに拘束された七美。


ごめん。

卯月さん。二川……番条……。


みんな、ごめん。

こんなに俺達の為に動いてくれた。今も血を流して戦ってくれてるのにーー。

「七美………。彼女の心の声をもっと聞いてあげてください………。苦しみを一緒に共有してください。お願いします。俺が言いたいのは、これだけです……。大事な式をメチャクチャにしてしまい、すみません……」

俺は頭を前に出し、両親の前で土下座した。昔、親父と屋敷の門前でした土下座を思い出した。


なぁ………親父。

やっぱり、親父は間違ってたよ。


「タマちゃん……」

七美はさ。

少なくとも俺が愛した女は、悪魔なんかじゃなかったよーーー。


『さようなら。青井君』


ダァンっ!!

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