冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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二章

深夜の報告会

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深夜。急に外の空気を吸いたくなり、ベッドから飛び降り、テラスに出た。人工の青白く光る滝を横目に、黒い大理石の床をしばらくペタペタ歩いた。一度深呼吸した後、リクライニングチルベッドに全身を預ける。

満天の星空。

「優雅だなぁ……ほんと……」

比べることすらバカらしい、圧倒的な財力。もし、あの人の言う通りにしたら、この全てが今すぐ手に入る。一生、金に困らない人生。きっと、俺みたいな貧乏人が想像もつかない贅沢な日々が待っている。

「でも………」

何かが違う。

『…………っ……』


突然、七美のゆるい声が耳元から聞こえた。どうやら、このベッドにはスピーカーが内蔵されているらしい。

『眠れないの?』

「うん。少しね。目が冴えてさ」

『パパに虐められなかった?  大丈夫?』

「大丈夫だったよ。かなり緊張したけどな。ところで、心や卯月さんはどうした?  夕飯の時も見てないし」

『まだプールにいると思うよ。さっき、私が夜食持って行った時は、プールに入りながら、スクリーン見て、二人でゾンビゲームしてたし』

「飽きないの?  スゴいな、色んな意味で……」

七美との他愛ない会話中も、徐々に痼が喉奥にたまっていく。吐き出したくて、ウズウズする。あの男の得たいの知れない力について………どうしても知りたい。将来、家族になるのなら尚更だ。

でもーーーー。

「明日は、朝飯八時半だっけ? また夕飯食べた大ホールに行けばいいの?」

『うん。でも時間が近づいたら、メイドさんが呼びに来るから、大丈夫だよ。その人が案内してくれる』

「分かった。ちなみにそのメイドは、間違いなく心じゃないな」

『アハハハハ!   あの子に、そんな理想的なメイドの仕事出来るわけないじゃん。アハハハハハハッ!!』

「めっちゃ笑うな……」

会話中。七美が俺に何かを言いかけて止めた。俺は、その言葉を強引に引き出す。

『タマちゃんは……パパのこと嫌いになった?』

「嫌いになってない。だから、そんな悲しい声出すな」

『良かった………。あの……この後、タマちゃんの部屋に行っても良い?』

「ダメ。今夜は、両手を広げて優雅に寝たいし」

『分かった。我慢します……』

寝る前の五回目の『好き』の掛け合いでやっとスピーカーが切れた。

そういえば、七美の母親には一度も会っていないことに今更ながら気づいた。

もしかして、一緒に住んでいないのか?

それともーーーーー
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