冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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二章

二川VS狩屋

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学校の屋上に生徒会役員No.3、元書記の二川愛蘭がいた。いつものようにフェンスに寄りかかり、どこまでも広がる青い空を透明な眼差しで見上げていた。
青井と同じく、彼女のお気に入りの場所になっていた。そこに現れる新生徒会の男子生徒。彼は彼女の後任となり、正式な書記として、会長の学園支配を手伝っていた。主に『女生徒の管理・教育』を任されていた。

彼もまた長身美少女である二川に引けを取らない美男子だった。
常に彼の周りには彼を慕う複数の女生徒がいて、恍惚な表情を浮かべ、彼を見上げていた。

「君が、二川愛蘭だろ?  僕は、狩屋 了(かりや さとる)です。今は君の後任として、書記をやっています」

「…………私に何の用だ?」

「知ってるはずだけど、ここは生徒立入り禁止だよね?  ダメだよ、校則を破ったら」

「…………分かった。もう、ここには来ない」

狩屋の横を通り過ぎようとする二川を屋上の鉄扉前で、女生徒が無言で通せんぼ。

「随分と物分かりがいいな………。会長の話とは、違う。君は、自分勝手な性格だと聞いていたけど………。まぁいっか!  どっちみち、二川さんには僕の奴隷になって働いてもらうことに変わりはないから」

「お前の奴隷に?」

ビュッッ!!

鞭のようにしなる二川の回し足蹴り。狩屋を守るため、それよりも速い速度で女奴隷二人がその攻撃を全身で受け止めた。
一人は数メートルも壁際まで吹き飛び、もう一人は、だらんと折れた左手を支え、それでも主を甘えた顔で見上げていた。

「ありがとう。助かったよ」

優しく頭を撫でられたこの生徒は、折れた腕の痛みなど忘れたように喜の表情を浮かべていた。

「それにしてもスゴい蹴りだね~。女とは思えないよ。格闘技術は、プロレベル。こんなに美人でさぁ、しかも強いって反則だよね。次は、どうする?   殴ってくる?  さぁ、来なよ!」

ザザッ………。開いた鉄扉から現れた複数の女生徒が、狩屋を囲んだ。彼女達は両手に武器を所持しており、二川を睨んでいる。殺すことも厭わない危険な眼。

「女の陰に隠れ、守られてばかり。お前は、戦わないのか?」

「戦う?  この僕が?  なんで?  彼女達は僕の奴隷なんだよ。主を守るのは、当然でしょ。君は、可笑しなこと言うんだね」

「そうだな……。私が間違っていたよ。お前は、戦わなくていい。ただ一方的に私に壊されて死にな」

女奴隷の攻撃を躱しながら、なるべくダメージが残らないように気絶させる。

「ダメだよ……それじゃ」

その二川の無自覚の甘さが、技のキレを曇らせ、彼女自身を傷つけた。

十人ほどいた女奴隷を全員黙らせた。が、二川も身体中から血を流していた。

「………終わりだ。あんなにいたお前の可愛いペットもいなくなり、残るは…お前一人……」

追い詰められたはずの男は、盛大に笑い転げた。

「ハハハハハッ!!……はぁ…………あ~ぁ…。君は、何も分かっていない。僕が、どうして『嫌がる彼女達』を支配出来たと思う?   僕が、生徒会役員だから?  カッコいいから?   全然違うよ」

「ぐっ!!?」

金縛りにあったように体が動かなくなった。二川は、男の前で両膝をついた。

「僕には、この『声』があるから。何人もこの声には逆らえないんだよ。おバカさん」


雨の匂いーーー。


あんなに晴れていた空を不穏な雨雲が覆う。

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