冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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パパとママの出会い

告白

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放課後になり、他の生徒がいなくなった教室に俺と零七だけが残っていた。

「それにしても、ずいぶん変わったな。驚いたよ………。心臓止まるかと思った。色んな意味で」

「中学の時ね、パパにわざと嫌われるように言われてたの。そんな外見で判断して去るような人間なら、付き合う必要はないって。だから汚い格好、体でいたの。ごめんなさい………。臭かったでしょ?」

零七は、イタズラのばれた子供のように可愛い舌をペロッと出した。

「あ、まぁ、臭かった。何回か、トイレで吐いたしな。なんかさぁ、話を聞いてると神華のお父さん。かなり癖強めだなぁ」

「うん。パパは、少し変わってるの。…………ううん、少しじゃない……かな」

悲しそうに目を伏せた。これ以上、突っ込んで聞いたら可哀想だと思い、俺は言おうとしていた質問をいくつか飲み込んだ。

「やっぱり、優しい……。三年間、竹島君だけは、私に『臭い』って言わなかったし、去ることもなかった。私のせいでイジメられたりしたのに、一回もそのことで私を責めなかった。パパと賭けをしてたの。中学三年間、竹島君が私に酷いことしないようなら、私の好きにしていいって。秘密も全部話して良いって」

「秘密?」

秘密って、なんだ。


「私ね。実は、化け物なんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーー


「んっ……と、つまり神華は人間じゃないっ……てこと?」

アホな質問しか出てこない。


「う~ん、正確に言えばね……。私は、神華が産んだ、世界を滅ぼす化け物。でもね……えっ…と……そんな私だけどね、エッチや赤ちゃんは出来るよ?」

頬を赤らめ、俺を見上げていた。
夕焼けに染まる教室。まったりとした場の空気。頭の中に零七の淫らな姿が浮かんだ。

「………あの…さ、まだ良く分からないし、信じられないんだけどさ………。そもそも、お前って何するの?   日本が、どこかの国と戦争中ってわけでもないし。必要性と言うか……理解出来なくて」

「パパは、この府抜けた世界に活を入れる為に私を利用してテロを起こそうとしたり、世界の滅亡を企んでた。でも今は、特に何もやることないかなぁ……。化け物としては、長い休み中です」

「へぇーーーーーー。ふ~~~~~ん。そうなんだぁ」

何が、ふ~~~~んだ。全然、分かってないだろ、自分。こんなに華奢な体で、どうやって世界と戦うんだよ。化け物? ……バカらしい。こんな嘘に付き合う必要はない。

「じゃあ………仮にさ、男の俺に襲われても問題ないな。そんなに強い化け物ならさ」

俺は、零七の前まで行くと両肩に手をかけ、

「…………」

グルんッ。

体が木の葉のように回転し、気づくと俺は床と激しくキスをしていた。そんな俺の背を、細く綺麗な左足で踏みつける女。

「私を試そうなんて考えないで。反射的に、殺しちゃうかもしれないから……。仮にね、今この部屋にミサイルが飛んできても私なら余裕で対処出来る。一時間後には、そのミサイルを撃った犯人とその家族を皆殺しに出来る」

直接、顔を見なくても分かる女の顔。
きっと、悪魔のように歪んでいたに違いない。

「わ、わ、分かったから! 離れろ。物騒なこと言うなよ………。でもさ、さすがに一人じゃ、大国と喧嘩なんて無理だろ?  盛りすぎなんだよ」

「もう、疑り深いんだから~」

頬を膨らませ、少し拗ねた零七は、袖をまくり、血が出るほど強く左手を引っ掻いた。

そのとき起こった彼女の変異。悪夢を見ているようだった。


零七の左腕は蠢き、筋肉が盛り上がり、まるで変成岩のような硬さを感じた。腕の太さは、男である俺の五倍以上はありそう。そんな凶暴な腕が華奢な彼女の体から生えており、体のバランスが異様だった。


その時ーーーー。


爆竹の何倍もの強烈な破裂音が教室内に響いた。すぐに鼻に焦げた臭いが飛び込んでくる。


「なっ!?」


 「やっぱり、裏切り者がいたね~」


教室の入口に立つ男子生徒。欠席していたはずの前田だった。彼の右手には、しっかりと拳銃らしき物が握られている。その銃口からは、白煙が今も出ていた。

零七の口には大きな黒い穴が開いており、飛び散った肉片で壁や机を真っ赤に染めていた。


「うわぁあぁ!!!」

俺は、女のように叫ぶことしか出来ない。まだ映画を見ているような感覚でその場に立っていた。零七は、血だらけの顔で花魁のような妖しい微笑を浮かべながら、落ちた自分の歯を拾っていた。その仕草から彼女の知能の低下を感じ取った。

聞いたことのないミシリ、ミシリと言う音がして、その体はどんどん大きくなっていく。腕だけでなく、全身の筋肉が重曹のように膨れあがり、すぐに零七の背筋で前田の姿が見えなくなった。俺の目の前にいるのは、もはや神華  零七ではない。


世界を滅ぼす『化け物』そのものだった。


今の彼女にとって、前田は敵ではなく、ただの餌。その後、何発も銃声は聞こえたが、彼女の前では水鉄砲のように無意味な攻撃だった。少しもダメージを与えることが出来ない。傷を負っても、すぐに回復し元の姿に戻った。……先ほどの顔の傷も完治していた。



「お前………いったい……」



ボキッ、ボキッ。

くちゃくちゃ。


前田は、呆気なく死んだ。声がしなくなると零七の咀嚼音だけがいつまでも部屋に響いた。俺は、すぐにゴミ箱に吐いた。どんなに吐いても気分は良くならず、最後の方は、胃液しか出なくなった。

三十分後、ようやく彼女は元の姿に戻った。着ていた制服は、ただの布切れと化しており、ほぼ全裸だった。聖母のような尊さ、慈愛さえ感じる裸の彼女に頬を優しく撫でられた。


「ーーーー竹島君のこと大好きなの。殺したいくらいに。だから、これからもずっと仲良くしてね」

悪魔の囁きとは、まさにこの事だろう。

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