チラシの裏をまた埋める 〜どうせ捨てられぬ思考たち〜

もっくん

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書くとなんだか安心する病

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取るに足らない駄文を綴ってチラシの裏を埋めるのは時間の無駄だと感じる。それはたぶん今でも正しい。
考えれば考えるほど正しいし、誰に説明しても納得してもらえる自信がある。
その説明だけで駄文の一つをまた生み出せるのだ。

そんなことをするくらいなら生産性のあることに時間を使った方が良い。
馬鹿らしいからもう一旦書くのをやめようと、僕は一度筆を置いた。

…筆を置く。
僕が使ってみたかった言葉だ。いっぱしの物書きになったかのような気持ちになる。

そして筆を置くことはや1週間。
僕の脳は、その判断をまったく尊重しなかった。

朝、歯を磨きながら「歯磨き粉を最後まで使い切るのって結構大変だよな。そろそろ無くなると感じてからが長いよな。」とかふと思う。
クソどうでもいい。誰の役にも立たない。
それなのに次の瞬間「これは一章にはなるな。」と頭のどこかが勝手に反応する。目に見えない誰かに伝えたくなる。
なかなか使い切れない理由、振り絞り方、最後に残る白い塊の虚しさ。指ですくい取るみみっちさ。
オチすら浮かんでくる。
歯はとっくに磨き終わっているのに思考だけが洗面台に居座り続ける。

こういうことが一日に何度も起きる。
コンビニでレジ待ちをしているとき前の人が温めますかと聞かれて一瞬迷ったその間の沈黙。手元を見ればオムライスおにぎり。確かに迷う。
駅のエレベーターで知らない人と二人きりになったとき2階までしかない階数表示を見つめるふり。
スーパーのレジで「袋いりますか」と聞かれたあと、財布とエコバッグのどちらを先に出すべきかという永遠に答えの出ない問い。

全部実にどうでもいい。
なのに僕の中では、すでに「がんばればなんとか文章化可能」のラベルが貼られている。

文章にしてしまえば楽になる。
書いてしまえば、それはもう脳内に保存しておかなくていい。
いつか必要になったら自分で読めばいいし、必要にならなければそのまま忘れてもいい。
逆に書かずに放置すると、「いつか使うかもしれない思いつき」のラベルのまま、頭の片隅に居続ける。
このいつかが厄介で、いつまで経っても廃品回収はやって来ない。

結果として、文章化待ちの思考が頭の中に溜まっていく。
あれも書いていない、これも書いていない、あのとき感じた違和感もまだだ。
書かないと忘れてしまう。完全に忘却されるならまだ良い。あのテレビ番組みたときなんか思いついたよな。秀逸なオチを思いついた気がしたけどなんだったっけ。
タスク管理アプリも使っていないのに、脳内だけが異様に未完了で埋まっていく。
そしてある程度溜まると、理由もなく落ち着かなくなる。

誰にも読まれない。評価もされない。
書かなければいい。感じてもスルーすればいいと分かっている。
分かっているのに、書かないと安心できない。
これはもう趣味でも習慣でもなくある種の病に近い。

僕はエッセイストでも文筆家でもない。
締切があるわけでも、特定の読者に待望されているわけでもない。
それでも夜になってふと、「今日は何も書かなかったな」と思うと思考エネルギーの損をした気分になる。
失ったのは時間ではなく未消化のまま残った思考だ。

チラシの裏はちょうどいい。
最初から捨てられる前提だから、気負わずに書ける。
価値がなくても許される場所だ。
ここに書けば、くだらないことでも一応は形になる。
形になった瞬間、それは「考えなくていいもの」に格下げされる。思考の救済だ。

ケーキ屋や洋服屋、雑貨店のちょっと気の利いた紙袋に似ている。
使い終わってすぐ捨てるには惜しい。来客にお土産を渡すときに必要になるかもしれない。
そう思って取っておいても使う可能性は限りなく低い。すぐ取り出せる場所に溜めていけば邪魔になる。毎日視界に入れば捨てるかどうかいちいち迷う羽目になる。
そこで箱を一つ決めてそこに放り込み押し入れの奥にしまう。
いつか必要になったらその箱を探して開ければ良い。本当にいらないと捨てる決心がついたら箱ごと資源ゴミに出せば良い。
そう決めてしまえば毎日紙袋を見ながら捨てるかどうか迷うストレスから解放されるのだ。

紙の原料がすべてパルプであるように、僕の駄文も元をたどればすべてくだらない思いつきだ。
再利用されるかどうかは分からないが、とりあえず回収だけはしておく。
資源ゴミの日までは生かしておく。それだけで脳が少し静かになる。

結局、くだらない思考から止めどなく生まれる駄文を有効活用するために、また同じようなエッセイ集を作ることになった。
無駄だと分かっている無駄を溜めないための無駄だ。
「書くとなんだか安心する病」はおそらく一生治らないが、治療せずに放置すると厄介になる。

だから今日も僕は今日もチラシの裏を埋める。
整理がつくまでたぶん何度でも。
奇特な読者がもしいるとすれば、お付き合い頂ければ幸いである。

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