10 / 10
ワイプという安心装置
しおりを挟む
テレビ番組のワイプ演出は本当に必要なのか。
VTR中に涙を拭うアイドル、目を見開いて驚く芸人、難しい顔をして深く頷くひな壇の面々。
あれを見るたびに、ワイプいらない。VTRだけをジックリ見せてくれと感じる。
作り手がワイプを使って視聴者の感情を安易に誘導しようとしているように感じてしまう。VTR本編だけでは不安なのか、誰かの顔を画面の隅に貼り付けないと落ち着かないのか。
確かにVTRの使い回し番組は多い。合間合間の最新の人気者達のスタジオ映像とワイプを盛り込まないと単なる再放送に陥る引け目を感じているのかもしれない。
率直に言って僕はワイプなんて作り手の怠慢ではないかと思っている。
ワイプは便利だ。VTRが弱くても、スタジオのメンバーがこぞって「すごい!」と目を輝かせてくれれば場が持つ。感動が足りなければ涙を足せばいい。
それに大した発言の機会がない出演者にも「映っている」という仕事が与えられる。出演者名を見て視聴番組を決める人だってたくさんいるしテレビ局とタレント事務所の持ちつ持たれつの関係性もあるだろう。
制作側の事情としては理解できるが、それがわざわざ時間を割いてテレビ番組を見ている視聴者の体験を豊かにしているかと考えたらやっぱりどうにも疑問が残る。
そもそも映像とは見る側が自由に意味を受け取るものだったはずだ。
笑うかどうか感動するかどうかは本来こちらの仕事なのに、ワイプは「ここでこう感じてください」と先に答えを出してくる。
感情のカンニングペーパーみたいなものだ。たしかに見るほうは楽だけどなんか違う。
この違和感をもう一段掘ると日本人的な特性が見えてくる。
他人の反応を見て自分の態度を決めるという習慣だ。会議でまず周囲の顔色をうかがい大勢に従い、飲み会では最初に笑った人に合わせて盛り上がる。
ニュース記事についたコメントを見て自分の中でのニュースへの態度をうっすら決める。ワイプに映る芸人やアイドルは「この場で取るべき感情」の見本を示す役割を担っているにすぎない。
思考実験をしてみる。全く同じ映像を二通りのワイプで二つのグループに見せたら面白い結果になるのではないか。
例えばライオンの親子が協力してシマウマの子どもを捕まえ、肉を食べる自然ドキュメンタリー。
ここに、芸人がライオンを応援し、女優が狩りの成功に喜び、全員がにこにこ見守るワイプを乗せる。すると視聴者は「親子の成長物語」「自然の営み」と受け取るはずだ。
一方で、アイドルが泣きながらシマウマが逃げるように訴え、俳優が内臓をむさぼられるシマウマの死体から目を背けるワイプを重ねたらどうか。同じ映像なのに「残酷」「かわいそう」という感想が前に出てくる。
もしかしたらVTR本体からは逆の感想を持った人もワイプに引っ張られて素直に意見を表に出さなくなる。VTRは一切変わらないのに倫理の向きだけが反転する、そんな結果が生まれそうだ。
僕たちは映像そのものよりきっと空気を見ているという事実に思い当たる。
しかもその影響を自覚しないまま。「自分は冷静に見ていた」と思い込みながら、他人の表情にしっかり導かれている可能性がある。
ここまで書いてきていかにももっともらしく僕はワイプ批判の顔をしているが、そろそろ正直に言わなければならない。
かわいいアイドルの喜怒哀楽だったらやっぱり見ていたい。
VTRを見ていたつもりだったがスタジオが映るときに「お、この娘かわいいな」と気付く。
驚いて目を丸くする瞬間、よく分からないまま頷く表情、ワイプでだけ全力で泣いているあの顔。時には気づけばVTRそっちのけで、画面の隅を追いかけている自分がいる。理屈では表向きワイプを否定しながら、場合によっては全力でワイプを見ている。
そんな時に理想を言えば、VTRを小さくしてワイプを拡大する機能すら欲しい。映像はミニサイズと音声だけでいい。
話は逸れたがワイプとは感情を操作する装置である以前に不安を引き受けてくれる装置なのかもしれない。
自分で感じる自由と引き換えに「世の中とズレていない」という保証をもらう。
その取引に素直に応じて楽しむ方が楽なのだ。
ライオンでも、シマウマでも自然の摂理でもなく、画面の隅の小さな顔に見とれているほうが健全なんだ。きっと。
VTR中に涙を拭うアイドル、目を見開いて驚く芸人、難しい顔をして深く頷くひな壇の面々。
あれを見るたびに、ワイプいらない。VTRだけをジックリ見せてくれと感じる。
作り手がワイプを使って視聴者の感情を安易に誘導しようとしているように感じてしまう。VTR本編だけでは不安なのか、誰かの顔を画面の隅に貼り付けないと落ち着かないのか。
確かにVTRの使い回し番組は多い。合間合間の最新の人気者達のスタジオ映像とワイプを盛り込まないと単なる再放送に陥る引け目を感じているのかもしれない。
率直に言って僕はワイプなんて作り手の怠慢ではないかと思っている。
ワイプは便利だ。VTRが弱くても、スタジオのメンバーがこぞって「すごい!」と目を輝かせてくれれば場が持つ。感動が足りなければ涙を足せばいい。
それに大した発言の機会がない出演者にも「映っている」という仕事が与えられる。出演者名を見て視聴番組を決める人だってたくさんいるしテレビ局とタレント事務所の持ちつ持たれつの関係性もあるだろう。
制作側の事情としては理解できるが、それがわざわざ時間を割いてテレビ番組を見ている視聴者の体験を豊かにしているかと考えたらやっぱりどうにも疑問が残る。
そもそも映像とは見る側が自由に意味を受け取るものだったはずだ。
笑うかどうか感動するかどうかは本来こちらの仕事なのに、ワイプは「ここでこう感じてください」と先に答えを出してくる。
感情のカンニングペーパーみたいなものだ。たしかに見るほうは楽だけどなんか違う。
この違和感をもう一段掘ると日本人的な特性が見えてくる。
他人の反応を見て自分の態度を決めるという習慣だ。会議でまず周囲の顔色をうかがい大勢に従い、飲み会では最初に笑った人に合わせて盛り上がる。
ニュース記事についたコメントを見て自分の中でのニュースへの態度をうっすら決める。ワイプに映る芸人やアイドルは「この場で取るべき感情」の見本を示す役割を担っているにすぎない。
思考実験をしてみる。全く同じ映像を二通りのワイプで二つのグループに見せたら面白い結果になるのではないか。
例えばライオンの親子が協力してシマウマの子どもを捕まえ、肉を食べる自然ドキュメンタリー。
ここに、芸人がライオンを応援し、女優が狩りの成功に喜び、全員がにこにこ見守るワイプを乗せる。すると視聴者は「親子の成長物語」「自然の営み」と受け取るはずだ。
一方で、アイドルが泣きながらシマウマが逃げるように訴え、俳優が内臓をむさぼられるシマウマの死体から目を背けるワイプを重ねたらどうか。同じ映像なのに「残酷」「かわいそう」という感想が前に出てくる。
もしかしたらVTR本体からは逆の感想を持った人もワイプに引っ張られて素直に意見を表に出さなくなる。VTRは一切変わらないのに倫理の向きだけが反転する、そんな結果が生まれそうだ。
僕たちは映像そのものよりきっと空気を見ているという事実に思い当たる。
しかもその影響を自覚しないまま。「自分は冷静に見ていた」と思い込みながら、他人の表情にしっかり導かれている可能性がある。
ここまで書いてきていかにももっともらしく僕はワイプ批判の顔をしているが、そろそろ正直に言わなければならない。
かわいいアイドルの喜怒哀楽だったらやっぱり見ていたい。
VTRを見ていたつもりだったがスタジオが映るときに「お、この娘かわいいな」と気付く。
驚いて目を丸くする瞬間、よく分からないまま頷く表情、ワイプでだけ全力で泣いているあの顔。時には気づけばVTRそっちのけで、画面の隅を追いかけている自分がいる。理屈では表向きワイプを否定しながら、場合によっては全力でワイプを見ている。
そんな時に理想を言えば、VTRを小さくしてワイプを拡大する機能すら欲しい。映像はミニサイズと音声だけでいい。
話は逸れたがワイプとは感情を操作する装置である以前に不安を引き受けてくれる装置なのかもしれない。
自分で感じる自由と引き換えに「世の中とズレていない」という保証をもらう。
その取引に素直に応じて楽しむ方が楽なのだ。
ライオンでも、シマウマでも自然の摂理でもなく、画面の隅の小さな顔に見とれているほうが健全なんだ。きっと。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる