氷の薔薇人形は笑わない

胡桃

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第一章

04.聖女シエラローズ(2)

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 ――シエラローズ誕生から三年後。
 
 ようやくパルシェフィード国王は、聖女の修練と墓守の鍛錬を同時にこなすのは至難の業であると結論づけた。
 
 その年月は、女神フローラの神託による導きを待つための期間でもあったが、神託が下りる事が無いままシエラローズの三歳の誕生日が目前となってしまったため、聖女リリーナとミルフローリア公爵と協議し決断した。
 
 こうして、シエラローズには聖女の修練に専念させる事となったが、聖女の墓守の人員に穴を開けてしまう事になるため、王は自身の嫡男――第一王子ヴォルフラムに墓守の助太刀をさせるべく、一時的にミルフローリア公爵家へ預けると告げた。
 
 
「第一王子殿下を……ですか? 第二王子殿下ではなく?」
 
 
 王の言葉にミルフローリア公爵は驚き、思わずといった様子で問い返した。何故なら、ヴォルフラムは、数年後には立太子する予定であるから。
 
 そんな重要な立場にいるヴォルフラムを危険な墓守の任務に当てるより、シエラローズと同じ年に生まれた第二王子アレクシオスを育てていく方が問題も少ないのでは無いかとミルフローリア公爵は考えたのだ。
 
 
「ヴォルフラムは、現在九歳になったところであるが、既に近衛騎士団の訓練に参加させている。報告によれば剣の筋も良いそうだ。先日は近衛騎士団の模擬戦で若手の騎士と拮抗していたと聞いた。それならば、ある程度即戦力として使えるだろう? この先の数年、貴公の子息が育つまでの繋ぎにはなるはずだ」
 
 
 ミルフローリア公爵家には、シエラローズの二歳上に嫡男であるレオンハルトがいる。
 
 五歳になったレオンハルトは、現在、祖父――先代ミルフローリア公爵の元で、墓守になるための鍛錬を積んでいる最中だが、正式な墓守として育つにはまだ時間が必要であった。
 
 王の言う通り、幼いながらも騎士と対等に渡り合える程の実力を持つと言われているヴォルフラムなら、即戦力にする事も可能だろう。しかし、ミルフローリア公爵は、その実力を目にしていないため、その言葉を信じきれずにいた。
 
 ヴォルフラムが真面目で勤勉な性質を持ち、勉学と剣術のどちらも優秀であるということは耳にしているが、その報告をした者が王族に取り入るため、ヴォルフラムの評価を誇張している可能性を捨てきれない、というのがミルフローリア公爵の本心である。
 
 
「……僭越せんえつながら、陛下。一度、第一王子殿下の戦闘の様子を拝見させていただきたく思います」
 
 
「うむ、良かろう。次の訓練の際に貴公が見学できるよう手配しておくとしよう」
 
 
「陛下の寛大な御心に感謝申し上げます」
 
 
 ミルフローリア公爵は、王の采配に最敬礼をして感謝の意を示した。
 
 
「さて、聖女リリーナ」
 
 
「はい」
 
 
「次代聖女候補シエラローズの修練については、貴女に全て任せることになるが……問題は無いだろうか?」
 
 
 王は、まだ年若く聖女としての経験も浅いリリーナに全て任せても良いものなのだろうかと不安を覚えていた。しかし、先代聖女は既に逝去しているため、そちらを頼ることは不可能であり、リリーナに任せる以外の道も無い。
 
 
「……はい、お任せください」
 
 
 リリーナは僅かに不安を滲ませながらもしっかりと答えた。
 
 
「では、此度の協議はこれでしまいにする。聖女リリーナ、ミルフローリア公爵。以前にも命じたが、次代聖女候補の存在を外部に漏らす事が無いよう、情報管理を徹底するように」
 
 
 王は三年前、ミルフローリア公爵家聖女の墓守一族に生まれたシエラローズが、次代聖女候補となった事について、緘口令かんこうれいを敷いていた。
 
 何故なら、現在の聖女がリリーナに代替わりして間も無いこの時期に次代聖女候補が生まれた上、聖女の墓守が欠けてしまう事になるとあっては、民たちの不安をあおり、混乱させてしまう事になるからである。
 
 現時点で、この件を知る者は、この場にいる三名を除くと、常に王の護衛として側についている近衛騎士団第一部隊、シエラローズの母――ミルフローリア公爵夫人のみであった。
 
 
「承知いたしました」
 
 
「御意」
 
 
 リリーナとミルフローリア公爵がそれぞれ応えると、そのまま解散となった。
 
 そして、二人を先に謁見の間から退出させた王は、彼らの背中を見送りながら、どことなく不穏な予感を覚えた。
 
 
(……何も起こらなければ良いのだが……)
 
 
 早すぎる次代聖女候補の誕生が、王には不吉でならなかった。
 
 そして、この三年の間に次代聖女候補シエラローズに関する神託が一度も下りていないという事も、王を不安にさせる要因となっていた。
 
 いつか近い内に予想だにしない重大な何かが起こるような、そんな不吉な予感が王の心をじわじわと占めていく。
 
 
(――駄目だ。これ以上は考えてはならん。我は悪魔に魅入られるわけにはいかぬ。我の治世に聖女が二人いるという事は、女神フローラ様の守りの力が増し、安泰な世になるという事……そう考えるのだ)
 
 
 王は悪魔に負けぬよう、心を強く持つべく自己暗示をかけ、じわじわと迫ってくる不安を追いやった。
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