10 / 17
第一章
04.聖女シエラローズ(2)
しおりを挟む
――シエラローズ誕生から三年後。
漸くパルシェフィード国王は、聖女の修練と墓守の鍛錬を同時にこなすのは至難の業であると結論づけた。
その年月は、女神フローラの神託による導きを待つための期間でもあったが、神託が下りる事が無いままシエラローズの三歳の誕生日が目前となってしまったため、聖女リリーナとミルフローリア公爵と協議し決断した。
こうして、シエラローズには聖女の修練に専念させる事となったが、聖女の墓守の人員に穴を開けてしまう事になるため、王は自身の嫡男――第一王子ヴォルフラムに墓守の助太刀をさせるべく、一時的にミルフローリア公爵家へ預けると告げた。
「第一王子殿下を……ですか? 第二王子殿下ではなく?」
王の言葉にミルフローリア公爵は驚き、思わずといった様子で問い返した。何故なら、ヴォルフラムは、数年後には立太子する予定であるから。
そんな重要な立場にいるヴォルフラムを危険な墓守の任務に当てるより、シエラローズと同じ年に生まれた第二王子アレクシオスを育てていく方が問題も少ないのでは無いかとミルフローリア公爵は考えたのだ。
「ヴォルフラムは、現在九歳になったところであるが、既に近衛騎士団の訓練に参加させている。報告によれば剣の筋も良いそうだ。先日は近衛騎士団の模擬戦で若手の騎士と拮抗していたと聞いた。それならば、ある程度即戦力として使えるだろう? この先の数年、貴公の子息が育つまでの繋ぎにはなるはずだ」
ミルフローリア公爵家には、シエラローズの二歳上に嫡男であるレオンハルトがいる。
五歳になったレオンハルトは、現在、祖父――先代ミルフローリア公爵の元で、墓守になるための鍛錬を積んでいる最中だが、正式な墓守として育つにはまだ時間が必要であった。
王の言う通り、幼いながらも騎士と対等に渡り合える程の実力を持つと言われているヴォルフラムなら、即戦力にする事も可能だろう。しかし、ミルフローリア公爵は、その実力を目にしていないため、その言葉を信じきれずにいた。
ヴォルフラムが真面目で勤勉な性質を持ち、勉学と剣術のどちらも優秀であるということは耳にしているが、その報告をした者が王族に取り入るため、ヴォルフラムの評価を誇張している可能性を捨てきれない、というのがミルフローリア公爵の本心である。
「……僭越ながら、陛下。一度、第一王子殿下の戦闘の様子を拝見させていただきたく思います」
「うむ、良かろう。次の訓練の際に貴公が見学できるよう手配しておくとしよう」
「陛下の寛大な御心に感謝申し上げます」
ミルフローリア公爵は、王の采配に最敬礼をして感謝の意を示した。
「さて、聖女リリーナ」
「はい」
「次代聖女候補シエラローズの修練については、貴女に全て任せることになるが……問題は無いだろうか?」
王は、まだ年若く聖女としての経験も浅いリリーナに全て任せても良いものなのだろうかと不安を覚えていた。しかし、先代聖女は既に逝去しているため、そちらを頼ることは不可能であり、リリーナに任せる以外の道も無い。
「……はい、お任せください」
リリーナは僅かに不安を滲ませながらもしっかりと答えた。
「では、此度の協議はこれで終いにする。聖女リリーナ、ミルフローリア公爵。以前にも命じたが、次代聖女候補の存在を外部に漏らす事が無いよう、情報管理を徹底するように」
王は三年前、ミルフローリア公爵家に生まれたシエラローズが、次代聖女候補となった事について、緘口令を敷いていた。
何故なら、現在の聖女がリリーナに代替わりして間も無いこの時期に次代聖女候補が生まれた上、聖女の墓守が欠けてしまう事になるとあっては、民たちの不安を煽り、混乱させてしまう事になるからである。
現時点で、この件を知る者は、この場にいる三名を除くと、常に王の護衛として側についている近衛騎士団第一部隊、シエラローズの母――ミルフローリア公爵夫人のみであった。
「承知いたしました」
「御意」
リリーナとミルフローリア公爵がそれぞれ応えると、そのまま解散となった。
そして、二人を先に謁見の間から退出させた王は、彼らの背中を見送りながら、どことなく不穏な予感を覚えた。
(……何も起こらなければ良いのだが……)
早すぎる次代聖女候補の誕生が、王には不吉でならなかった。
そして、この三年の間に次代聖女候補シエラローズに関する神託が一度も下りていないという事も、王を不安にさせる要因となっていた。
いつか近い内に予想だにしない重大な何かが起こるような、そんな不吉な予感が王の心をじわじわと占めていく。
(――駄目だ。これ以上は考えてはならん。我は悪魔に魅入られるわけにはいかぬ。我の治世に聖女が二人いるという事は、女神フローラ様の守りの力が増し、安泰な世になるという事……そう考えるのだ)
王は悪魔に負けぬよう、心を強く持つべく自己暗示をかけ、じわじわと迫ってくる不安を追いやった。
漸くパルシェフィード国王は、聖女の修練と墓守の鍛錬を同時にこなすのは至難の業であると結論づけた。
その年月は、女神フローラの神託による導きを待つための期間でもあったが、神託が下りる事が無いままシエラローズの三歳の誕生日が目前となってしまったため、聖女リリーナとミルフローリア公爵と協議し決断した。
こうして、シエラローズには聖女の修練に専念させる事となったが、聖女の墓守の人員に穴を開けてしまう事になるため、王は自身の嫡男――第一王子ヴォルフラムに墓守の助太刀をさせるべく、一時的にミルフローリア公爵家へ預けると告げた。
「第一王子殿下を……ですか? 第二王子殿下ではなく?」
王の言葉にミルフローリア公爵は驚き、思わずといった様子で問い返した。何故なら、ヴォルフラムは、数年後には立太子する予定であるから。
そんな重要な立場にいるヴォルフラムを危険な墓守の任務に当てるより、シエラローズと同じ年に生まれた第二王子アレクシオスを育てていく方が問題も少ないのでは無いかとミルフローリア公爵は考えたのだ。
「ヴォルフラムは、現在九歳になったところであるが、既に近衛騎士団の訓練に参加させている。報告によれば剣の筋も良いそうだ。先日は近衛騎士団の模擬戦で若手の騎士と拮抗していたと聞いた。それならば、ある程度即戦力として使えるだろう? この先の数年、貴公の子息が育つまでの繋ぎにはなるはずだ」
ミルフローリア公爵家には、シエラローズの二歳上に嫡男であるレオンハルトがいる。
五歳になったレオンハルトは、現在、祖父――先代ミルフローリア公爵の元で、墓守になるための鍛錬を積んでいる最中だが、正式な墓守として育つにはまだ時間が必要であった。
王の言う通り、幼いながらも騎士と対等に渡り合える程の実力を持つと言われているヴォルフラムなら、即戦力にする事も可能だろう。しかし、ミルフローリア公爵は、その実力を目にしていないため、その言葉を信じきれずにいた。
ヴォルフラムが真面目で勤勉な性質を持ち、勉学と剣術のどちらも優秀であるということは耳にしているが、その報告をした者が王族に取り入るため、ヴォルフラムの評価を誇張している可能性を捨てきれない、というのがミルフローリア公爵の本心である。
「……僭越ながら、陛下。一度、第一王子殿下の戦闘の様子を拝見させていただきたく思います」
「うむ、良かろう。次の訓練の際に貴公が見学できるよう手配しておくとしよう」
「陛下の寛大な御心に感謝申し上げます」
ミルフローリア公爵は、王の采配に最敬礼をして感謝の意を示した。
「さて、聖女リリーナ」
「はい」
「次代聖女候補シエラローズの修練については、貴女に全て任せることになるが……問題は無いだろうか?」
王は、まだ年若く聖女としての経験も浅いリリーナに全て任せても良いものなのだろうかと不安を覚えていた。しかし、先代聖女は既に逝去しているため、そちらを頼ることは不可能であり、リリーナに任せる以外の道も無い。
「……はい、お任せください」
リリーナは僅かに不安を滲ませながらもしっかりと答えた。
「では、此度の協議はこれで終いにする。聖女リリーナ、ミルフローリア公爵。以前にも命じたが、次代聖女候補の存在を外部に漏らす事が無いよう、情報管理を徹底するように」
王は三年前、ミルフローリア公爵家に生まれたシエラローズが、次代聖女候補となった事について、緘口令を敷いていた。
何故なら、現在の聖女がリリーナに代替わりして間も無いこの時期に次代聖女候補が生まれた上、聖女の墓守が欠けてしまう事になるとあっては、民たちの不安を煽り、混乱させてしまう事になるからである。
現時点で、この件を知る者は、この場にいる三名を除くと、常に王の護衛として側についている近衛騎士団第一部隊、シエラローズの母――ミルフローリア公爵夫人のみであった。
「承知いたしました」
「御意」
リリーナとミルフローリア公爵がそれぞれ応えると、そのまま解散となった。
そして、二人を先に謁見の間から退出させた王は、彼らの背中を見送りながら、どことなく不穏な予感を覚えた。
(……何も起こらなければ良いのだが……)
早すぎる次代聖女候補の誕生が、王には不吉でならなかった。
そして、この三年の間に次代聖女候補シエラローズに関する神託が一度も下りていないという事も、王を不安にさせる要因となっていた。
いつか近い内に予想だにしない重大な何かが起こるような、そんな不吉な予感が王の心をじわじわと占めていく。
(――駄目だ。これ以上は考えてはならん。我は悪魔に魅入られるわけにはいかぬ。我の治世に聖女が二人いるという事は、女神フローラ様の守りの力が増し、安泰な世になるという事……そう考えるのだ)
王は悪魔に負けぬよう、心を強く持つべく自己暗示をかけ、じわじわと迫ってくる不安を追いやった。
3
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
完結 私の人生に貴方は要らなくなった
音爽(ネソウ)
恋愛
同棲して3年が過ぎた。
女は将来に悩む、だが男は答えを出さないまま……
身を固める話になると毎回と聞こえない振りをする、そして傷つく彼女を見て男は満足そうに笑うのだ。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる
ラム猫
恋愛
王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています
※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる