転生勇者と転生魔王は平和を欲す

すももゆず

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勇者伝説

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 この前と同じように、厳重警備の王様の寝室に通された。天真の後に続き、アズノストと二人で共に中へ入る。ベッドに横たわる王様がこっちに目線を向けた。天真に似た目元にはクマがあり、瘴気で弱っているのが見て取れた。まだ本調子には戻らないみたいだけど、目が覚めて安心した。

「父上、こちらが勇者のフォルと魔法使いのアズです」
「こ、こんにちは」

 天真に紹介され、頭を下げる。やっぱ偉い人と話すの緊張する……隣で軽く会釈をするアズノストは涼しい顔だ。そりゃこいつ、魔族でいちばん偉い人だもんな。

「アレクから話は聞いている。勇者フォル、魔法使いアズ。助けていただいたこと、まずは感謝する。医者からは快方に向かっていると言われた。君たちのおかげだ、ありがとう」
「いえいえ、俺は何も……」
「謙遜しなくてよい」

(うむ、素晴らしい歌だった。俺はこれから録音データを毎夜聴きながら寝るぞ)
(そうですか……)

 満足気なアズノストは置いておいて、やっと王様と話せるんだ。勇者のことについて聞かないと。

「あの、王様。『魔物を追い払う光を持つ青年』って、俺のこと探してたことについて聞きたくて……この紋章のこと、何か知ってますか?」

 左の甲を見せると、王様は目を見開いた。

「その紋……本当に勇者の力を持つ者が現れるとは……」
「! 勇者の力について知りたいんです!」
「父上、私にも聞かせてください」
「ああ……代々、王が受け継いできた文献に、その紋章とともに書かれていた……」

“世界に災厄訪れし前兆、光の紋を持つ勇者現れる。封印されし聖なる剣揃いし時、悪を討つ”

(なるほど。勇者が聖剣を使うことで、魔王を完全に滅ぼせる……どちらが欠けても駄目というわけか)

 王様は物語を語るようにゆっくりと述べたあと、アズノストの冷静な分析が聞こえた。自分を倒すための剣なのに事務的だ。

「勇者が現れるのはこれから災厄が襲ってくる前兆……近頃魔物の動きも活発になっている。魔王が人間を征服するため攻めてくることこそ、災厄と考えて間違いないだろう」

 そんな……やっぱり魔王を倒す方に進んでいくのか。神様からの信託は覆せないのか。聖剣を手に入れたらアズノストを倒すことになる……? 魔力が本当に暴走したら、倒すフリなんかで済まないことに……

 最悪の事態が頭をよぎり、アズノストを見上げる。そこには優しい笑顔があった。きっと俺を安心させるためだ。それが分かって、不安が消えていく。

(俺は何を言われても構わない。今は王の話に合わせよう)

「君には急ぎ聖剣を手に入れてもらいたい。そのための援助は惜しまない。頼む、世界を救ってくれ」

 王様の、天真の、アズノストの視線が俺に集まる。みんなの目に映るのは期待。それを背負うのはあいにく、前世から慣れている。それに今の俺には魔王がついている!

「俺は、平和が好きです。みんなが幸せに暮らせる世界にしたい。だから……そのために、やります!」

(みんな、ってのはアズノストも魔物も含まれてるからな)
(っ……フォル……! 君はなんとまばゆい……王と天真がいなければ泣き崩れるところだったぞ……)

「ありがとう、勇者フォル……! 君は我が国の光となろう……しかし私はしばらく自由に動けない。アレク、勇者の補佐はお前に任せたぞ」
「はい、父上」
「文献には聖剣の場所について詳しく書いておらず、司祭を訪ねるようにとあった。城下町北門を出た先に大きな教会がある。司祭の方にも同じように伝えられているものがあるのだろう」
「分かりました。司祭様のところに行ってみます」
「伝令を向かわせ、話を通しておく。明日尋ねてくれ」

 話を終え、部屋の外に出て大きく息を吸って吐く。緊張がいっきにほどけた。まだ王族の方(天真)が隣にいるけど、やっぱ見知った顔だし安心するよなあ。

 すると、廊下の奥に陽凪と楓月の姿が見えた。向こうもこちらに気付き、陽凪が駆け寄ってきた。

「フォル、話はどうだった?」
「明日、司祭様のところに行って、聖剣の話を聞くことになったよ」
「そうなんだ。じゃあ道案内は俺に任せて。団長、いいよね? 勇者様を補佐するのも立派な騎士の務めでしょ」
「……分かった、許可する」

 陽凪が上手いこと言うから、楓月は不服ながらも納得するしかないらしい。

「俺も行くからな」

 と、アズノストが陽凪の前に進み出た。「へぇ」とだけ暗く呟いた陽凪と睨み合っている。ここだけいつまでも空気重いんだよな……それを察した天真は楓月へ話す。

「こいつらはエインがいても口喧嘩をしていたのか」
「そうですね。何度止めても聞かず」
「はぁ……お前たち、大事な話を聞きに行くんだ。気を引き締めるように」

 「はい」と声を揃えて返事をしたアズノストと陽凪は互いにそっぽを向いた。
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