転生勇者と転生魔王は平和を欲す

すももゆず

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聖剣ダンジョン・魔王side①

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 渦が現れたのは一瞬の出来事だった。

 犯人の仕業だ。また、先を越された。
 アズノストは渦を止めようとしたが、なんらかの力に阻害され、すぐに対処できなかった。だからいちばんにフォルの手を取ろうとした。だが、陽凪に先を越されてしまった。陽凪はフォルを守るように包み込んだ。

 暗い異空間へ落ちて流される中、アズノストは離れていく2人に追いつくことができなかった。



 渦の先に辿り着き、着地したアズノストはすぐにその場所を理解した。

(強力な光魔法を感じる……聖剣が眠るダンジョンに飛ばされたか……まずいな。俺の魔力と反発し合って気分が悪い。相性がここまで悪いとは……)

 アズノストは魔王になってから初めて不調というものを経験している。乗り物酔いのような感覚だ。そんな中でもフォルの居場所を探すべく、魔力を集中させた。

(フォルは……逆方向だが同じダンジョン内にはいるな、良かった。幸い、一本道になっているから最終的には合流できる。しかし陽凪と2人きりか……この中だと聖剣の力に阻害されてテレパシーや話を聞くことも難しい。心配だ)

 苔がむした壁や地面、生物の声もしない静まりかえった空間……長い年月を感じさせるダンジョンだ。周りを見渡していると、地面には一緒に巻き込まれた楓月と天真が倒れている。

「おい、大丈夫か!」

 肩を揺さぶると、幸い、2人はすぐに目を覚まして体を起こした。

「アレク様、お怪我はありませんか」
「ああ。一体、何が起こったんだ……それに、ここはどこだ?」
「おそらく、聖剣の眠るダンジョンだ。何者かにここまで飛ばされた」

 アズノストは状況を説明した。一国の王子と騎士団長の理解は早かった。

「先に進み、ルクスとフォルと合流が先決だな。戦力も向こうが不安だ」
「アズ、顔色が悪いぞ。お前こそ大丈夫なのか」
「渦に巻き込まれて酔っただけだ。気遣い感謝する」

(魔力が定まらないが……フォルにこちらも無事なことと、そのまま進んでくれとテレパシーで伝えておこう。単語で何とか伝わればいいが……俺はこちらに集中しなければ)

 楓月が先陣を切り、天真、アズノストと続いて扉を進む。澄ました顔のアズノストの額には汗が滲んでいた。心中には緊張で満ちている。

(楓月と天真と俺……間を取り持ってくれるフォルがいないから気まずいぞ……前世の頃、画面越しに見ていたトップアイドル、今もその輝きは失われていない。今は魔物を敵視している人間。ボロが出るとまずい)

 そんな魔王の胸中を知りもせず、楓月はちまちま注意をし、天真は言い返している。もう喋らなくてもいいか、とアズノストは開き直った。

 次のフロアも先ほどと同じような静かな場所だった。
 拍子抜けした瞬間、金切り声が静寂を裂いた。フロア一帯を埋め尽くさんばかりの魔物が突如現れた。

(何故、聖剣の魔力があるのに魔物が……!? いや、生命反応がない。こいつらは全て……)

「幻影だ! だが、油断すると痛い目をみるぞ!」
「魔物との戦いなら慣れている。アレク様は下がっていてください」
「エイン、俺を舐めるなと言っているだろう!」

 一斉に襲いかかってくる魔物の群れ。楓月は大剣の重さをものともせず振り、大型の巨獣を切り伏せていく。天真はレイピアを華麗に操り、素早くスライムやゴブリンを片付けていく。息のあった動きに、アズノストは魅入った。

(ステラシエル時代のパフォーマンスを思い出す、見事な連携だ。ダンス担当の楓月と歌唱力抜群の天真、2人で歌っている曲もあったのを思い出す。これが国トップの剣術か……敵対したら多少苦戦しそうだな。まあそんな気はさらさらないが)

「アズ、そっち行ったぞ!」

 楓月の声と同時に、アズノストに小型ドラゴンの群れが迫る。

(頭がぐらつく……少し魔力の調整に手こずるが、普通の魔法使いを装うならこれくらいでちょうどいいだろう)

 本調子ではないものの、幻影を倒すには十分過ぎる炎魔法で燃やし尽くした。

「やるな、魔法使い」
「そっちも、なかなかの腕だ」

 楓月と天真の剣術に加え、アズノストが後ろから魔法でカバーする。無数にいた幻影はあっという間に消えていった。

 全ての幻影を倒し、息をついた一瞬の隙をつき、楓月と天真の死角になった天井からグールが2人を目掛けて落ちてきた。だが幻影の健闘も虚しく、アズノストの風の刃に散り散りになった。

「無事か、2人とも」
「助かった、すまない」
「君たちに死なれては困るからな」

(そう、フォルの目指す平和な世界……ステラシエルの再結成のため……メンバー1人たりとも欠けるわけにはいかない。この2人も、行方しれずの昴も、折り合いが悪い陽凪も、全員俺が守る。フォルの夢は俺の夢だ!)

 推しの夢を手助けし、共に叶える。
 それは魔王アズノストにとって、かつてのドルオタ社畜にとって、初めて生まれたかけがえのない宝物のような目標だ。

(魔王の力が暴走し、俺が災厄と成り果てる可能性も捨てきれない……その時、フォルなら俺を止めてくれるはずだ……)

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