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まだ見ぬ危険
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周りの魔物たちにそういう目で見られて囃し立てられながらカウンター席に座る。魔王城にいた執事もそうだったけど、人間だ!逃げろ!殺せ!みたいな感じじゃないんだな。魔物は種族もいろいろだし、人間とかあんまり関係ないのかもしれない。
「俺はレットだ。人間さんは?」
「俺はフォル。よろしくな」
「フォル……か。どうぞよろしく。魔王様のお気に入りさん」
差し出された猫の手を握り返す。肉球がふにふにだった。
「休むついでに何か飲んでいかれます?」
「そうだな……酒じゃないものを頼む。フォルの分も」
「はーい、少々お待ちを」
「変なものは入れるなよ。特に媚薬の類だ」
「警戒心すごいですね……なんかあったなこれは……」
そう呟きながらレットは飲み物の準備を始めた。あの手で物が掴めるんだろうか……
「少し落ち着いたか?」
「うん、それにしてもめっちゃ走ったな。そんなに見られるの嫌だった?」
「……嫌というより慣れていなくてな……」
「え、前からその顔だったんじゃないの? ってこの話はまずいか」
人がたくさんいる場所で前世がどうとかは聞かれない方がいいかと思って口を閉じるが、アズノストはふるふると首を振った。
「俺たちの会話は、なんでもない会話に変換して聞こえるようにしているから大丈夫だ」
魔法って便利だな……アズノストはそのまま話を続けた。
「フォルは叶空と比べて顔が変わっていないが、俺は魔王だからか別人になっている。人間にあんなに注目されることはないもので、緊張して逃げ出してしまった」
「そういうパターンもあるのか」
「魔物は人間型じゃないものもたくさんいるから、前世の顔は関係ないのかもしれないな」
そこに、カウンターから飲み物が出された。空色みたいに透き通った水色の飲み物を受け取った。炭酸がシュワシュワしていて、アイスまで乗っている。クリームソーダみたいな見た目だ。アズノストのはやっぱり変な色だ。
さっそくストローで喉に入れる。
「う、うま!」
これは完全にクリームソーダ! この世界で、再現クリームソーダが飲めるなんて! 冷たい炭酸が喉を通る刺激が気持ちいい。前世がよみがえるみたいな、懐かしい味だ……!
「お、気に入ってもらえて嬉しいね」
「フォルを喜ばせてくれて感謝する」
「すげえべた惚れですね、こんな魔王様初めて見た……」
ごゆっくり~、とのんびりした声色でレットは他の客の相手をしに離れていった。
「そういえば、気になっていたことを思い出した。昨日はそれどころじゃなかったからな」
「ん?」
アイスを掬って頬張り、アズノストの方を向く。
「え、甘味を食べる俺の推し、可愛すぎないか? ……ゴホン、町にスライムが町に現れたと言っていただろう」
無意識で言ってしまったんだろう。自分の発言に自分で驚いて、咳払いで誤魔化している。意味ないぞ、その誤魔化し。
「そうだけど」
「知能のある魔物なら、住処を荒らされたなどの理由で暴れることはあるが……スライムには知能がない。誰かに操られないとそのような行動はしないはずだ。だが、俺はそんなこと命じていない。俺以外の誰かが、町を襲わせた」
「えっ……」
「狙いはフォルだろう」
じゃあやっぱり、俺のせいで町が狙われたってことだよな……
「それなら町を出てきてよかったかもしれないな……」
「今後はフォルの町も警戒しておく。安心していい」
「ありがとう、頼むよ。でも誰が何のために俺を?」
「それはまだ分からない。相手の目的が分からない以上、十分注意してくれ」
うん、と強く頷いた。確かに目的が分からない。俺が狙いなら、俺だけ狙ってくれればいいのに……俺のせいで周りのみんなに迷惑がかかるのは嫌だな……
その時、アズノストが何かを感じ取ったように眉をひそめて席を立った。
「すまないフォル、遠くの町で魔物が暴れているみたいだ。そちらに行かなければならなくなった」
「ブラック企業だもんな、頑張れ」
「今後もこういうことがあるから、ずっとフォルに付き添うのは無理だ。でも君が危ないときには必ず駆けつける。何かあったら遠慮なく心の中で俺を呼んでくれ。というか呼ばなくても見ているからな」
「そ、そこまでしなくても……」
「俺は二度と君を失いたくない。そのためなら何でもする。これから城に向かうのだろう、気を付けて」
柔らかく笑ったアズノストの姿がパッと消えた。
「お熱いねぇ」
カウンターの奥でレットが尻尾を動かしながらにやにやしている。
ど、どこから見られてたんだ……
レットに飲み物のお礼を伝えて酒場を出ると、路地に出てきた。振り返ると扉はなくなっていた。来た時の路地とは違い、城がずいぶん近くに見える。外に出たときに近くまで移動できるようにしてくれていたんだろう。
詳しい道は分からないが、とりあえず城の方向に進んでいけばなんとか辿り着けるか?と考えながら、大きい通りに出た。
「――叶空?」
「えっ……」
また呼ばれた、前世の名前を。
「俺はレットだ。人間さんは?」
「俺はフォル。よろしくな」
「フォル……か。どうぞよろしく。魔王様のお気に入りさん」
差し出された猫の手を握り返す。肉球がふにふにだった。
「休むついでに何か飲んでいかれます?」
「そうだな……酒じゃないものを頼む。フォルの分も」
「はーい、少々お待ちを」
「変なものは入れるなよ。特に媚薬の類だ」
「警戒心すごいですね……なんかあったなこれは……」
そう呟きながらレットは飲み物の準備を始めた。あの手で物が掴めるんだろうか……
「少し落ち着いたか?」
「うん、それにしてもめっちゃ走ったな。そんなに見られるの嫌だった?」
「……嫌というより慣れていなくてな……」
「え、前からその顔だったんじゃないの? ってこの話はまずいか」
人がたくさんいる場所で前世がどうとかは聞かれない方がいいかと思って口を閉じるが、アズノストはふるふると首を振った。
「俺たちの会話は、なんでもない会話に変換して聞こえるようにしているから大丈夫だ」
魔法って便利だな……アズノストはそのまま話を続けた。
「フォルは叶空と比べて顔が変わっていないが、俺は魔王だからか別人になっている。人間にあんなに注目されることはないもので、緊張して逃げ出してしまった」
「そういうパターンもあるのか」
「魔物は人間型じゃないものもたくさんいるから、前世の顔は関係ないのかもしれないな」
そこに、カウンターから飲み物が出された。空色みたいに透き通った水色の飲み物を受け取った。炭酸がシュワシュワしていて、アイスまで乗っている。クリームソーダみたいな見た目だ。アズノストのはやっぱり変な色だ。
さっそくストローで喉に入れる。
「う、うま!」
これは完全にクリームソーダ! この世界で、再現クリームソーダが飲めるなんて! 冷たい炭酸が喉を通る刺激が気持ちいい。前世がよみがえるみたいな、懐かしい味だ……!
「お、気に入ってもらえて嬉しいね」
「フォルを喜ばせてくれて感謝する」
「すげえべた惚れですね、こんな魔王様初めて見た……」
ごゆっくり~、とのんびりした声色でレットは他の客の相手をしに離れていった。
「そういえば、気になっていたことを思い出した。昨日はそれどころじゃなかったからな」
「ん?」
アイスを掬って頬張り、アズノストの方を向く。
「え、甘味を食べる俺の推し、可愛すぎないか? ……ゴホン、町にスライムが町に現れたと言っていただろう」
無意識で言ってしまったんだろう。自分の発言に自分で驚いて、咳払いで誤魔化している。意味ないぞ、その誤魔化し。
「そうだけど」
「知能のある魔物なら、住処を荒らされたなどの理由で暴れることはあるが……スライムには知能がない。誰かに操られないとそのような行動はしないはずだ。だが、俺はそんなこと命じていない。俺以外の誰かが、町を襲わせた」
「えっ……」
「狙いはフォルだろう」
じゃあやっぱり、俺のせいで町が狙われたってことだよな……
「それなら町を出てきてよかったかもしれないな……」
「今後はフォルの町も警戒しておく。安心していい」
「ありがとう、頼むよ。でも誰が何のために俺を?」
「それはまだ分からない。相手の目的が分からない以上、十分注意してくれ」
うん、と強く頷いた。確かに目的が分からない。俺が狙いなら、俺だけ狙ってくれればいいのに……俺のせいで周りのみんなに迷惑がかかるのは嫌だな……
その時、アズノストが何かを感じ取ったように眉をひそめて席を立った。
「すまないフォル、遠くの町で魔物が暴れているみたいだ。そちらに行かなければならなくなった」
「ブラック企業だもんな、頑張れ」
「今後もこういうことがあるから、ずっとフォルに付き添うのは無理だ。でも君が危ないときには必ず駆けつける。何かあったら遠慮なく心の中で俺を呼んでくれ。というか呼ばなくても見ているからな」
「そ、そこまでしなくても……」
「俺は二度と君を失いたくない。そのためなら何でもする。これから城に向かうのだろう、気を付けて」
柔らかく笑ったアズノストの姿がパッと消えた。
「お熱いねぇ」
カウンターの奥でレットが尻尾を動かしながらにやにやしている。
ど、どこから見られてたんだ……
レットに飲み物のお礼を伝えて酒場を出ると、路地に出てきた。振り返ると扉はなくなっていた。来た時の路地とは違い、城がずいぶん近くに見える。外に出たときに近くまで移動できるようにしてくれていたんだろう。
詳しい道は分からないが、とりあえず城の方向に進んでいけばなんとか辿り着けるか?と考えながら、大きい通りに出た。
「――叶空?」
「えっ……」
また呼ばれた、前世の名前を。
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