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疑いと信用
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今日は日が暮れてしまったので、明日の朝に港町を出ることになった。宿も天真王子が用意してくれているらしい。ということで、俺たちは楓月のお気に入りの店で食事を取った。肉がメインでガッツリ系が多い酒場だった。楓月らしい。いっぱい歌ったあとだから、肉汁が体に沁み渡る。
「肉、うまーい……!」
「これもおすすめだよ」
「ん、これも美味い! いい店ですね、団長さん!」
「だろ。酒の種類も多い」
楓月はビールをグイっと流し込む。今の年齢は俺より少し上なんだろうな。大人だ……
(大口で頬張るフォル、可愛らしい……リスのようだ……)
(見てないでお前も食えよ)
(食べているぞ。人間の姿だから量は少しでいい)
アズノストは大皿に乗ったステーキを少しだけ自分用に取り分け、ちまちま食べている。食よりも俺を見ることの方が大事みたいだ。
陽凪は透き通った青色のカクテルを飲んでいる。どんな味か知らないけど、飲み物のチョイスまで洒落てるな。俺がじっと酒を眺めていることに気づいた。
「フォルは20歳になってるんだっけ。お酒飲む?」
「甘くて飲みやすいやつ選んでくれ」
「オッケー」
前世も今も、あんまり酒には詳しくない。飲み会行ってもいつも陽凪に選んでもらっていた。メニューを取って店員を呼ぶ陽凪はにこにことご機嫌で、昔から変わらず子ども舌だと思ってるんだろう。
(苦い酒やわさび、からしなどツンとくる辛さが苦手……雑誌のインタビュー通りだ)
(そうだよ、その通りだよ! お前までほっこりすんな!)
(すまない、どうしても可愛くて)
アズノストも陽凪も、俺のことお子様扱いじゃん。ちょっとムカつくけど、実際そうなんだから仕方ない。
少しして運ばれてきたカクテルは、みるからにオレンジジュースみたいなやつだった。一口飲んでみても、少し苦みのあるオレンジジュースだ。美味い、そりゃ美味い。
「どうかな、飲みやすいでしょ」
「うん、美味い、けど……」
「もう少し大人っぽいのがよかった?」
陽凪は、あはは、と声を出して笑う。楓月も笑いをこらえている。アズノストも小動物を見守るような目で見てくる。こいつら、馬鹿にしやがって……!
「俺だって、もうちょい飲めるからな! お前のやつ、ひとくちくれ」
「フォルからしたら苦いよ」
そんなこと言われたら飲むしかないだろ。奪い取ってゴクリ、と飲む。
……最初は甘いと思ったら、だんだん口の中に苦みが広がっていく。変な味だと思いっきり顔に出したら、みんなに笑われた。
甘い酒を飲み進め、お腹いっぱいになって眠くなってきた。でも、ビールを飲む楓月の顔が何かを思い出したように険しさを増した。どうしたんだろうと、ぼーっと見つめていると、楓月はやがて口を開く。俺たちだけに聞こえるよう、控えめに。
「セイレーンの秘薬だが、気になっていることがある」
陽凪がゆっくり頷く。
「アズが嘘をついている可能性……だよね? 秘薬が毒なんじゃないかって」
「!?」
いっきに酔いと眠気が醒めた。
「な、なんでそうなるんだよ!」
「落ち着け、フォル」
アズノストは俺を収める。
なんで疑われてるのにそんな平気で……あ、そうか、慣れてるんだ……
「薬を飲むのは一国の王だ。しかも見ず知らずの魔法使いが言った、魔物が作った薬……どう考えてもおかしいだろう。疑って当たり前だ」
アズノストは諦めのような笑みを浮かべている。
「すまん、その通りだ。アズには今日1日魔法でサポートをしてもらい、頼りになった。だが、たった1日でお前の言うことを全て信用するわけにはいかない」
「気にするな。ちゃんと警戒心があってむしろ安心した。さすがは騎士だ」
せっかくこれで王様を治せると思ったのに……結局魔物の信用問題でつまづく。それなら俺がなんとかする!
「俺が毒見をする」
「待ってフォル、危険なものだったらどうするの、魔物が持ってたんだよ!?」
陽凪は珍しく声を荒げて取り乱す。でも、大丈夫。
「俺はアズを信じる」
アズノストは絶対に俺を殺したりしない。だから人体に危険があるものだったら、俺が飲もうとした時点で止める。
「アズ、秘薬は俺が飲んでも大丈夫だろ?」
「……」
アズノストは言いよどんだ。
陽凪と楓月の警戒の色が強まる。なんで、早く肯定してくれないと、お前が嘘ついてることに……
「肉、うまーい……!」
「これもおすすめだよ」
「ん、これも美味い! いい店ですね、団長さん!」
「だろ。酒の種類も多い」
楓月はビールをグイっと流し込む。今の年齢は俺より少し上なんだろうな。大人だ……
(大口で頬張るフォル、可愛らしい……リスのようだ……)
(見てないでお前も食えよ)
(食べているぞ。人間の姿だから量は少しでいい)
アズノストは大皿に乗ったステーキを少しだけ自分用に取り分け、ちまちま食べている。食よりも俺を見ることの方が大事みたいだ。
陽凪は透き通った青色のカクテルを飲んでいる。どんな味か知らないけど、飲み物のチョイスまで洒落てるな。俺がじっと酒を眺めていることに気づいた。
「フォルは20歳になってるんだっけ。お酒飲む?」
「甘くて飲みやすいやつ選んでくれ」
「オッケー」
前世も今も、あんまり酒には詳しくない。飲み会行ってもいつも陽凪に選んでもらっていた。メニューを取って店員を呼ぶ陽凪はにこにことご機嫌で、昔から変わらず子ども舌だと思ってるんだろう。
(苦い酒やわさび、からしなどツンとくる辛さが苦手……雑誌のインタビュー通りだ)
(そうだよ、その通りだよ! お前までほっこりすんな!)
(すまない、どうしても可愛くて)
アズノストも陽凪も、俺のことお子様扱いじゃん。ちょっとムカつくけど、実際そうなんだから仕方ない。
少しして運ばれてきたカクテルは、みるからにオレンジジュースみたいなやつだった。一口飲んでみても、少し苦みのあるオレンジジュースだ。美味い、そりゃ美味い。
「どうかな、飲みやすいでしょ」
「うん、美味い、けど……」
「もう少し大人っぽいのがよかった?」
陽凪は、あはは、と声を出して笑う。楓月も笑いをこらえている。アズノストも小動物を見守るような目で見てくる。こいつら、馬鹿にしやがって……!
「俺だって、もうちょい飲めるからな! お前のやつ、ひとくちくれ」
「フォルからしたら苦いよ」
そんなこと言われたら飲むしかないだろ。奪い取ってゴクリ、と飲む。
……最初は甘いと思ったら、だんだん口の中に苦みが広がっていく。変な味だと思いっきり顔に出したら、みんなに笑われた。
甘い酒を飲み進め、お腹いっぱいになって眠くなってきた。でも、ビールを飲む楓月の顔が何かを思い出したように険しさを増した。どうしたんだろうと、ぼーっと見つめていると、楓月はやがて口を開く。俺たちだけに聞こえるよう、控えめに。
「セイレーンの秘薬だが、気になっていることがある」
陽凪がゆっくり頷く。
「アズが嘘をついている可能性……だよね? 秘薬が毒なんじゃないかって」
「!?」
いっきに酔いと眠気が醒めた。
「な、なんでそうなるんだよ!」
「落ち着け、フォル」
アズノストは俺を収める。
なんで疑われてるのにそんな平気で……あ、そうか、慣れてるんだ……
「薬を飲むのは一国の王だ。しかも見ず知らずの魔法使いが言った、魔物が作った薬……どう考えてもおかしいだろう。疑って当たり前だ」
アズノストは諦めのような笑みを浮かべている。
「すまん、その通りだ。アズには今日1日魔法でサポートをしてもらい、頼りになった。だが、たった1日でお前の言うことを全て信用するわけにはいかない」
「気にするな。ちゃんと警戒心があってむしろ安心した。さすがは騎士だ」
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「俺が毒見をする」
「待ってフォル、危険なものだったらどうするの、魔物が持ってたんだよ!?」
陽凪は珍しく声を荒げて取り乱す。でも、大丈夫。
「俺はアズを信じる」
アズノストは絶対に俺を殺したりしない。だから人体に危険があるものだったら、俺が飲もうとした時点で止める。
「アズ、秘薬は俺が飲んでも大丈夫だろ?」
「……」
アズノストは言いよどんだ。
陽凪と楓月の警戒の色が強まる。なんで、早く肯定してくれないと、お前が嘘ついてることに……
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