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恋人編ー3年生夏休み
いざ、即売会!①
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朝の6時。スマホから流れる軽妙な音で目を覚ます。手探りでスマホに手を伸ばし、アラームを止める。画面に映し出された今日の日付で意識が覚醒した。
そう、今日は即売会!
「璃央、目覚まし鳴った……」
「ん……うぅ……」
隣で眠る璃央の肩をゆする。璃央は夜型だから朝に弱くてなかなか起きない。寝顔がお姫様みたいに綺麗で見惚れてしまって、それを眺めながらソシャゲするのが毎朝の日課になってる。けど……
「璃央! 起きろ!」
今日は絶対に起こす! 今日は待ちに待った初めての即売会だから! 痛くない程度に肩を叩いていると、やっと瞼が開かれた。
「んあ……かずまぁ……」
半開きの目を擦り、ぼんやりしたまま俺を見つめている。カーテンから差し込む朝日に照らされて、絵画みたいに綺麗だ……
少しして、璃央はハッと覚醒して起き上がった。
「おはよ、璃央」
「はよぉ、ちゃんとオレを起こせたな」
「今日は絶対遅刻できないから」
「うっし、準備すっかあ」
8時の電車に乗るつもりだけど、こうして早く起きたのは璃央の準備に時間がかかるからだ。
本日璃央はなんと、サーニャさんとの合わせでめるちゃんのコスをしてくれるらしい! 前にビデオ通話越しに見たけど、実物は初めてだから俺の方が緊張してる。実際に見たら俺はどうなってしまうんだ。同人誌買うのも楽しみだけど、むしろそれより楽しみで……
顔を洗って洗面所から戻ってきた璃央は、まだ眠そうにあくびをしながらTシャツに着替えた。
床にあぐらをかいて座り、ローテーブルにメイク道具を並べている。サーニャさんから借りたものらしい。本格的なメイクは会場に入ってからやるけど、基礎は家でやっていくんだとか。慣れた手つきで顔に下地?を塗り始める。メイクのことはよく分からない。
「璃央ってメイクにも慣れてるんだな」
「いや、前までは基本的なことしか知らなかったぞ。モデルの時にされることはあっても自分でやったことなかったから、沙羽にコスプレ用のメイクのやり方特訓された。スパルタだぞ、あいつ」
「へ~……サーニャさん優しいのに、意外」
「それだけあいつはコスプレに情熱かけてる。そういうとこは素直に尊敬する」
それを飾らず言える璃央もすごいと思う。俺だって璃央のこと尊敬してるよ……恥ずかしくて言えないけど……
「んだよ、見惚れてんのか?」
「ちが……! くないけど……」
得意げにふふん、と笑った璃央は鏡に視線を戻した。
「好きなだけ見ればいいけど、お前も間に合うように準備しろよ」
「正論……」
準備も終わり、しっかりおにぎりを食べて、予定通り会場に向けて出発した。
お盆ということもあり空いていた電車は、会場が近づくにつれ人が増え、降りるころにはほぼ満員になっていた。電車から降りた人がぞろぞろと同じ方向に流れていく。それに沿って俺たちも歩くと、すぐに会場が見えてきた。ネットで何度も見た、あの逆三角形の建物。即売会にきたって感じがする……!
「こんな人多いもんなのか?」
「話にはよく聞くけど……俺も初めてくるからびっくりしてる」
「すでにあちーな。日差し強すぎ。メイク崩れそう」
じんわり汗ばんでてもかっこいいの、おかしいよなぁ……
「熱中症、気をつけてな。コスプレって暑そうだし」
「お前もひ弱なんだから気をつけろよ。……ん、颯太からだ」
メッセージの通知音が鳴り、璃央はスマホを開く。
水戸、サーニャさん、颯太くんの3人とは現地集合の約束をしている。
「あいつらも会場の近くにいるって。つかこんな人混みの中で見つけれるわけねーだろ」
「確かに。電話してみたほうが」
「だな……あっ、いた」
少し周りを見渡した璃央が目をとめた先。通路の端の方に、雑踏よりも頭ひとつ分背が高い水戸が見えた。さすが元バレー部の身長だ。
「やっぱ水戸って背ぇ高いな」
「こういう待ち合わせの時はあいつの背が役に立つ。いつもは見下ろしてきてムカつくけど」
人の間を縫って向かうと、3人の姿が見えてきて……
あれ? 1人知らない人がいる。茶髪で小柄な男の人だ。璃央が「はよー」とみんなにゆるく声をかけると、その男の人が手を振ってきた。
「璃央くん、和真くん! おはよー!」
「え、その声……サーニャさん!?」
「サーニャ・普通の姿だよ!」
「和真は見るの初めてか」
ポケ●ンのリージョンフォームみたいな言い方をして、サーニャさんはピースした。いつもより薄めのメイクみたいだけど、可愛さの中にかっこよさもある美少年。元が綺麗な顔をしてるんだと分かる。
「そ、その姿でもお綺麗で……」
「ありがとー!」
「は!? おい和真! オレは!」
「うんうん、沙羽ちゃんはどんな姿でも可愛いよね!綺麗だよね!」
「オレは!!」
「お、俺にとっては璃央がいちばんだって……」
憤慨する璃央をいつものようになだめると、颯太くんはやれやれと息をついた。
「イチャついてないで、とりあえず並ぼうぜ。戦はもう始まってっからな!」
オタクのイベントに慣れている颯太くんとサーニャさんが先導してくれた。1人だとあわあわしてただろうから助かる。並ぶ時間は長かったけど、どのサークルに行くか、どうやって手分けをするかとか、いかにも即売会らしい話をしていると開場時間まではあっという間だった。
それに、璃央もいるから変に緊張しないで済んだ。1軍陽キャで俺とは別世界の人で、大学離れてからもう関わることなんてないと思ってたのに。璃央の前でオタク話して、即売会にも来て……こんな日が来るなんて今でも夢みたいだ。1年前の俺に言ったらどれだけ驚くだろ。
会場入りして、ここからコスプレ組とは別行動になる。璃央の方を振り返ると、名残惜しそうに口をへの字に曲げていた。
「璃央も頑張って。コス楽しみにしてる」
「ん、お前のために頑張る」
「甘っ、すぐ甘くなるなこいつら」
「璃央くん行くよー」
璃央がサーニャさんに引っ張られていく。
「沙羽ちゃん! 暑いから熱中症に気をつけて!あと変な人にも気をつけて!」
「分かってるって。大晴くんこそ僕のおつかい、忘れないでね~」
「任せて!」
2人は人混みの中に見えなくなった。水戸とサーニャさん、仲良くなれてるみたいでよかった。知り合ってからはしょっちゅうコスイベについて行ったり、今日みたいに同人誌のおつかいをしてるらしい。
「んじゃ行くぞ木山くん! 狙った新刊全部ゲットすんぞ! おー!」
「おー!」
「おー!」
颯太くんに合わせて、俺と水戸も気合いを入れる。憧れの即売会。すでに人の多さと熱量と暑さで気圧されてるけど、頑張るぞ!
新刊のために! 璃央のめるちゃんコスのために!
そう、今日は即売会!
「璃央、目覚まし鳴った……」
「ん……うぅ……」
隣で眠る璃央の肩をゆする。璃央は夜型だから朝に弱くてなかなか起きない。寝顔がお姫様みたいに綺麗で見惚れてしまって、それを眺めながらソシャゲするのが毎朝の日課になってる。けど……
「璃央! 起きろ!」
今日は絶対に起こす! 今日は待ちに待った初めての即売会だから! 痛くない程度に肩を叩いていると、やっと瞼が開かれた。
「んあ……かずまぁ……」
半開きの目を擦り、ぼんやりしたまま俺を見つめている。カーテンから差し込む朝日に照らされて、絵画みたいに綺麗だ……
少しして、璃央はハッと覚醒して起き上がった。
「おはよ、璃央」
「はよぉ、ちゃんとオレを起こせたな」
「今日は絶対遅刻できないから」
「うっし、準備すっかあ」
8時の電車に乗るつもりだけど、こうして早く起きたのは璃央の準備に時間がかかるからだ。
本日璃央はなんと、サーニャさんとの合わせでめるちゃんのコスをしてくれるらしい! 前にビデオ通話越しに見たけど、実物は初めてだから俺の方が緊張してる。実際に見たら俺はどうなってしまうんだ。同人誌買うのも楽しみだけど、むしろそれより楽しみで……
顔を洗って洗面所から戻ってきた璃央は、まだ眠そうにあくびをしながらTシャツに着替えた。
床にあぐらをかいて座り、ローテーブルにメイク道具を並べている。サーニャさんから借りたものらしい。本格的なメイクは会場に入ってからやるけど、基礎は家でやっていくんだとか。慣れた手つきで顔に下地?を塗り始める。メイクのことはよく分からない。
「璃央ってメイクにも慣れてるんだな」
「いや、前までは基本的なことしか知らなかったぞ。モデルの時にされることはあっても自分でやったことなかったから、沙羽にコスプレ用のメイクのやり方特訓された。スパルタだぞ、あいつ」
「へ~……サーニャさん優しいのに、意外」
「それだけあいつはコスプレに情熱かけてる。そういうとこは素直に尊敬する」
それを飾らず言える璃央もすごいと思う。俺だって璃央のこと尊敬してるよ……恥ずかしくて言えないけど……
「んだよ、見惚れてんのか?」
「ちが……! くないけど……」
得意げにふふん、と笑った璃央は鏡に視線を戻した。
「好きなだけ見ればいいけど、お前も間に合うように準備しろよ」
「正論……」
準備も終わり、しっかりおにぎりを食べて、予定通り会場に向けて出発した。
お盆ということもあり空いていた電車は、会場が近づくにつれ人が増え、降りるころにはほぼ満員になっていた。電車から降りた人がぞろぞろと同じ方向に流れていく。それに沿って俺たちも歩くと、すぐに会場が見えてきた。ネットで何度も見た、あの逆三角形の建物。即売会にきたって感じがする……!
「こんな人多いもんなのか?」
「話にはよく聞くけど……俺も初めてくるからびっくりしてる」
「すでにあちーな。日差し強すぎ。メイク崩れそう」
じんわり汗ばんでてもかっこいいの、おかしいよなぁ……
「熱中症、気をつけてな。コスプレって暑そうだし」
「お前もひ弱なんだから気をつけろよ。……ん、颯太からだ」
メッセージの通知音が鳴り、璃央はスマホを開く。
水戸、サーニャさん、颯太くんの3人とは現地集合の約束をしている。
「あいつらも会場の近くにいるって。つかこんな人混みの中で見つけれるわけねーだろ」
「確かに。電話してみたほうが」
「だな……あっ、いた」
少し周りを見渡した璃央が目をとめた先。通路の端の方に、雑踏よりも頭ひとつ分背が高い水戸が見えた。さすが元バレー部の身長だ。
「やっぱ水戸って背ぇ高いな」
「こういう待ち合わせの時はあいつの背が役に立つ。いつもは見下ろしてきてムカつくけど」
人の間を縫って向かうと、3人の姿が見えてきて……
あれ? 1人知らない人がいる。茶髪で小柄な男の人だ。璃央が「はよー」とみんなにゆるく声をかけると、その男の人が手を振ってきた。
「璃央くん、和真くん! おはよー!」
「え、その声……サーニャさん!?」
「サーニャ・普通の姿だよ!」
「和真は見るの初めてか」
ポケ●ンのリージョンフォームみたいな言い方をして、サーニャさんはピースした。いつもより薄めのメイクみたいだけど、可愛さの中にかっこよさもある美少年。元が綺麗な顔をしてるんだと分かる。
「そ、その姿でもお綺麗で……」
「ありがとー!」
「は!? おい和真! オレは!」
「うんうん、沙羽ちゃんはどんな姿でも可愛いよね!綺麗だよね!」
「オレは!!」
「お、俺にとっては璃央がいちばんだって……」
憤慨する璃央をいつものようになだめると、颯太くんはやれやれと息をついた。
「イチャついてないで、とりあえず並ぼうぜ。戦はもう始まってっからな!」
オタクのイベントに慣れている颯太くんとサーニャさんが先導してくれた。1人だとあわあわしてただろうから助かる。並ぶ時間は長かったけど、どのサークルに行くか、どうやって手分けをするかとか、いかにも即売会らしい話をしていると開場時間まではあっという間だった。
それに、璃央もいるから変に緊張しないで済んだ。1軍陽キャで俺とは別世界の人で、大学離れてからもう関わることなんてないと思ってたのに。璃央の前でオタク話して、即売会にも来て……こんな日が来るなんて今でも夢みたいだ。1年前の俺に言ったらどれだけ驚くだろ。
会場入りして、ここからコスプレ組とは別行動になる。璃央の方を振り返ると、名残惜しそうに口をへの字に曲げていた。
「璃央も頑張って。コス楽しみにしてる」
「ん、お前のために頑張る」
「甘っ、すぐ甘くなるなこいつら」
「璃央くん行くよー」
璃央がサーニャさんに引っ張られていく。
「沙羽ちゃん! 暑いから熱中症に気をつけて!あと変な人にも気をつけて!」
「分かってるって。大晴くんこそ僕のおつかい、忘れないでね~」
「任せて!」
2人は人混みの中に見えなくなった。水戸とサーニャさん、仲良くなれてるみたいでよかった。知り合ってからはしょっちゅうコスイベについて行ったり、今日みたいに同人誌のおつかいをしてるらしい。
「んじゃ行くぞ木山くん! 狙った新刊全部ゲットすんぞ! おー!」
「おー!」
「おー!」
颯太くんに合わせて、俺と水戸も気合いを入れる。憧れの即売会。すでに人の多さと熱量と暑さで気圧されてるけど、頑張るぞ!
新刊のために! 璃央のめるちゃんコスのために!
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