今日から学園奉仕部に所属することになりました

推理大好きっ子

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一枚目 学園奉仕部

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 一枚目 学園奉仕部

「――樫月。この点数はどういうことだ」
 
 真夏の暑い外とは打って変わって、クーラーがガンガンに効いている職員室。
 僕の正面にてボールペンをプルプルと固く握った女性は、震えた声でそう呟いた。
 透き通るほどに艶やかな黒髪に、大人の魅力を兼ね備えた整った顔立ち。
 僕は担任教師である市島先生に、ふと言葉を返す。

「どういうこととはどういうことでしょう」
「……樫月。私はお前を殺したくない。あまりイラつかせない解答で頼む」

 僕の言葉に返ってきたのは、ほとんど殺害予告のそんな言葉。
 ……仮にも担任が、生徒に向かって殺すって。
 すると先生は机上に置いてあった一枚の紙を手に取って、

「今回の小テストは5教科だったな。それで、お前は合計何点だったんだ?」 

 僕はその言葉と共に目の前に突き付けられた紙(僕の点数)を見て、
 先生の言葉にあまり苛立たせないように、爽やかに呟いた。

「合計80点ですね!」
「よし樫月。私は今からお前を殺す。必死に防げ」
「すみません許してください!! ゲームの誘惑に負けちゃったんです‼ わざとじゃないんです‼‼ 勉強しようと思ったらいつの間にか時間が無くなってたんです‼‼」
 
 先生の持っていたボールペンがバキッと音を鳴らして折れるのを皮切りに、僕は全身全霊の土下座を職員室の固い床で先生の前に繰り出した。教室の広い空間に僕の必死なそんな言葉が儚く響く。額が床にゴンッと音を立ててぶつかるが、そんなことは関係ない。

 僕は先生へ生きる為に本気で言葉を紡ぐ。

「先生! 考えてもみてください! 僕が勉強できないのは誰のせいだと思いますか⁉」

「お前のせいだろ」

「そうなんです! 僕のせいなんです! だから僕は悪くないんです‼」

「……お前は一旦文章の練り方から学び直せ」

 先生の極寒零度のような冷たい声音が僕の耳に響く。

 だって仕方がないじゃないか!! 今回のテストは期間の二日前にしか連絡してくれなかったんだ!! 僕のやる気をチャージする期間が一日、それで僕が勉強道具を鞄から取り出すのに一日、どう考えたって足りないじゃないか!!
 
 でも、そんなことをこの冷徹教師に言えるはずもなく、僕は悲しく口を紡ぐ。

 すると先生は、はあと一息、嘆息を吐きながら、

「……樫月、お前とはお前が入学した頃からの深い付き合いがあるから言うが、このままじゃお前、進級できないぞ」
「え?」

 僕はそんな言葉に、豆鉄砲を食らったような顔をして先生を見やる。
 今、この先生はなんて言った? 進級できない? ワッツ?
 すると、呆然とする僕に先生は続けて、

「それはそうだろうが。テストはあまりにも馬鹿。出席は完璧だが遅刻は多い。提出物もやっては来るが全ての解答が間違い。樫月……。高校の進級と言うのはな、そんなに簡単なものじゃないんだ。義務教育の中学とは違うんだ」

 先生の僕を諭すようなそんな言葉に、僕は先生の言葉が嘘ではないと確信する。
 え、ホントに? 本当に? リアリー?
 僕は慈悲を乞うような瞳で先生を見るが、どうやら本当らしい。
 何だか異様に優しい目を向けてきている。
 僕は唐突に告げられたそんな事実に、急に胸から恐怖が這い上がってきて、

「いや、いやいや。いやいやいや⁉ 不味いですよ先生‼ 僕、もし留年なんてしたら恐らく父に殺されますよ⁉ それはもう墨田川あたりが僕の墓場になってしまいますよ⁉ どうにかならないんですか⁉」

「……残念ながら、どうにも」
「辞めてくださいそんな苦虫を噛むような顔! 本当に終わりみたいじゃないですか‼」

 無念みたいな顔をする先生に僕は更に心が恐怖に染まるのを感じる。
 待ってくれ。待ってください。本当に待ってください!!

 もし実際に留年なんてことになったら僕は確実に父さんに殺されてしまう。先生だったらまだ言葉で紡げば何とかなるかもしれないけど、これが父さんだったら話は別だ。恐らく僕が言葉を発する前に始末されて一巻の終わりだろう。

 僕は父さんに打ち明けた所を想像して、絶望に浸っていると、

 すると先生は、そんな僕に向けて悪魔のように口角を吊り上げた。

「――だが、一つだけ。お前が留年から助かる方法がある」

 と、そんな言葉。
 僕はまるで絶望の中に現れた光に縋るようにして、先生を見やった。
 すると先生は、そんな僕に「それはな……」と付け足して、
 その整った口をゆっくりと僕に向かって開いた。

「樫月、学園奉仕部に入れ」
 








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