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参章 飯綱山の狐使い
八
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今日、一言でも誰かと話しただろうか。放課後になった今、藍は思い返してみた。だが、虚しくなるだけだったので、やめた。
何度考えても、答えはゼロに近いからだ。
自分から強く訴えた時などは、気付いてもらえた。だがそうでない場合、藍はそこにいることすら気付かれないことが多かった。
藍は、ため息と共に諦めつつも、その言葉を口にした。
「さよなら」
そう言っても、誰も振り向きもしなかった。空しい気持ちを抱えたまま、藍は教室を後にした。
友達が多い方ではないし、仲の良い子が同じクラスにいないということだって今までにはあった。だがそれでもクラス中と険悪になるようなことはなかったし、まして全員から無視されるなど一度だってなかった。
(いないように扱われるって、こんなに悲しいんだ……)
今までテレビなどで見てきたいじめ問題に、初めて共感できた。
だが、同時に必ずしも共感できるわけでもなかった。今日のこれは、どこかおかしいとも感じていたのだ。
(だって皆、話しかけたら普通にしてくれた。どっちかというと、びっくりしてたような……)
藍はすぐ傍にいたのに、突然降って湧いたように現れた……そんな驚き方だった。いくら何でも、今日いきなりそんな変化が起こるはずがない。
「痛っ」
こうして、道行く人とぶつかる回数も、今日は驚くほど多かった。皆、藍に気づいていないかのようだった。昨日までは、ぶつかりかけたら譲り合うことが出来ていた。
今日からだ。こんな奇妙なことが起こり始めたのは。
(とにかく帰ろう)
このままここにいても、状況は変わらない。家に帰ってしまえば危険はないのだ。
ぶつかりそうになれば、ひとまず藍が気をつければいい。よし、と気合いを入れて、一歩歩み出す。
すると、いきなりその手を引かれて、歩みが止まった。
「おっと……な、なに?」
手を引かれた方を見ると、何やら真っ白いものが見えた。毛玉に見える。
猫か、犬か、どちらにしても大きい。
「……尻尾?」
真っ白な毛玉は、どうやら尻尾だった。ではその尻尾の持ち主は、と視線をずらすと、尻尾と同じくらい小さな姿が見えた。小さな、人の姿が。
「え……こ、こども?」
子供に、尻尾がついていた。その子は白髪というより、銀の髪を携えて、白いワンピースを着た女の子だった。
藍を見上げる瞳は金色に輝いており、そこに藍の驚く顔がそのまま映り込んでいた。
(か、可愛い……! だけど……)
可愛いが、どう見ても普通の人間ではない。これまで悪さされてきたあやかしたちと比べて考えれば危険は感じないが、それでも何があるかわからない。
だが太郎が言っていたことも思い出す。
『神聖な気は白いことが多いし、邪悪な気はだいたい黒い』
今、目の前にいる女の子は、全身真っ白だ。太郎の言っていたことに当てはめれば、少なくとも危険はなさそうだ。
「あの……迷子かな?」
女の子は、首を横に振った。
「私に……何か、用事がある?」
女の子は、今度は頷いた。
「そっか! ど、どうしたのかな? 私と会ったことある?」
尋ねると、女の子はニッコリと満面の笑みを見せて、答えた。
「『やまなみあい』さんを、さがしてました!」
何度考えても、答えはゼロに近いからだ。
自分から強く訴えた時などは、気付いてもらえた。だがそうでない場合、藍はそこにいることすら気付かれないことが多かった。
藍は、ため息と共に諦めつつも、その言葉を口にした。
「さよなら」
そう言っても、誰も振り向きもしなかった。空しい気持ちを抱えたまま、藍は教室を後にした。
友達が多い方ではないし、仲の良い子が同じクラスにいないということだって今までにはあった。だがそれでもクラス中と険悪になるようなことはなかったし、まして全員から無視されるなど一度だってなかった。
(いないように扱われるって、こんなに悲しいんだ……)
今までテレビなどで見てきたいじめ問題に、初めて共感できた。
だが、同時に必ずしも共感できるわけでもなかった。今日のこれは、どこかおかしいとも感じていたのだ。
(だって皆、話しかけたら普通にしてくれた。どっちかというと、びっくりしてたような……)
藍はすぐ傍にいたのに、突然降って湧いたように現れた……そんな驚き方だった。いくら何でも、今日いきなりそんな変化が起こるはずがない。
「痛っ」
こうして、道行く人とぶつかる回数も、今日は驚くほど多かった。皆、藍に気づいていないかのようだった。昨日までは、ぶつかりかけたら譲り合うことが出来ていた。
今日からだ。こんな奇妙なことが起こり始めたのは。
(とにかく帰ろう)
このままここにいても、状況は変わらない。家に帰ってしまえば危険はないのだ。
ぶつかりそうになれば、ひとまず藍が気をつければいい。よし、と気合いを入れて、一歩歩み出す。
すると、いきなりその手を引かれて、歩みが止まった。
「おっと……な、なに?」
手を引かれた方を見ると、何やら真っ白いものが見えた。毛玉に見える。
猫か、犬か、どちらにしても大きい。
「……尻尾?」
真っ白な毛玉は、どうやら尻尾だった。ではその尻尾の持ち主は、と視線をずらすと、尻尾と同じくらい小さな姿が見えた。小さな、人の姿が。
「え……こ、こども?」
子供に、尻尾がついていた。その子は白髪というより、銀の髪を携えて、白いワンピースを着た女の子だった。
藍を見上げる瞳は金色に輝いており、そこに藍の驚く顔がそのまま映り込んでいた。
(か、可愛い……! だけど……)
可愛いが、どう見ても普通の人間ではない。これまで悪さされてきたあやかしたちと比べて考えれば危険は感じないが、それでも何があるかわからない。
だが太郎が言っていたことも思い出す。
『神聖な気は白いことが多いし、邪悪な気はだいたい黒い』
今、目の前にいる女の子は、全身真っ白だ。太郎の言っていたことに当てはめれば、少なくとも危険はなさそうだ。
「あの……迷子かな?」
女の子は、首を横に振った。
「私に……何か、用事がある?」
女の子は、今度は頷いた。
「そっか! ど、どうしたのかな? 私と会ったことある?」
尋ねると、女の子はニッコリと満面の笑みを見せて、答えた。
「『やまなみあい』さんを、さがしてました!」
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