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第2章 芋聖女と呼ばないで
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毒味という名の食事を終えたレティシアは、早々にアベルに連行された。
やってきたのは、村の畑だ。
芋は何とか撤去できたものの、芋に『恵み』を奪われたせいでぐったりしている。
「お前の神聖術であの芋は育ったんだろう? ならばその神聖術で、今度はもとあった野菜を救うんだ」
アベルはそう、さらりと言い放った。
もとよりレティシアが引き起こした事態。何の反論があろうか。
「よぅし、それなら昨日と同じように、魔力を目一杯注いであげて……」
そう言って、畑に手をかざそうとしたその時――
「待て」
魔力に溢れたレティシアの腕を、アベルが留めた。
「待ってって、どうして?」
「今のままでは、この腹立たしい花の二の舞になるぞ」
「じゃがいもの……?」
首を傾げるレティシアに、アベルは厳しい表情を向けた。
「そのまま全力で魔力を注げば、確かに残された作物に『恵み』が浸透するだろう」
「は、はい」
「そしてその『恵み』を受けた作物はみるみる潤い、かつての力を取り戻すだろうな」
「はい」
「それどころか、この花と芋のように、かつて以上に育ってしまうかもしれないな」
「……あ」
「それがこの領地すべての畑で起こるとどうなる? 様々な作物が根を縦横無尽に伸ばし、近隣の畑の根と競合し、絡み合い、再び『恵み』を奪い合うといった結果に……」
「わ、わかりました! 考えが足りず申し訳ございませんでした!」
「よろしい。ではもっと抑えて、畑一つ一つ、生長をほんの少し助けるだけにするんだ」
「“だけ”と言われましても……」
アベルはようやくレティシアの腕を解放した。だけどそうすると、レティシアにできることがなくなってしまう。
孤児院で畑に魔力を注いでいた時も、もう少し力を抑えていただけで、やっていたことは同じ。今のやり方を否定されてしまうと、もう打つ手がなくなってしまう。
「そんな顔をするな」
アベルの、ため息と共に静かな声が聞こえた。そこには呆れた様子や怒りの様子は聞こえなかった。
アベルはおもむろに畑の近くへ歩いて行き、水を汲んでいた桶を持ち上げた。
「よく見ろ。お前の力は、コレだ」
「はい?」
桶には水がなみなみ入っている。
それをアベルはそろりと傾けた。すると傾けた角度以上に、水は勢いよく流れ落ちていった。
「お前が今やろうとしていたことはこれだ。いきなり大量の水をぶちまけようとしていたんだ。だが、それでは畑全体に浸透しないし、作物にとっても害になることもある」
そう言うと、今度はひしゃくを手に取り、それを使って少しずつ水を撒き始めた。
「本来、『恵み』とは……神聖術とはこうあるべきなんだ。各地の聖木もこうやって『恵み』を分け与えるのが役割だ」
「は、はい! あの……アベル様はもしかして、神聖術の覚えがおありなんですか?」
「いや、ない。何故だ?」
「とても造詣が深いようなので……私、幼い頃から教育を受けてきましたけど、誰からもそんな指導を受けたことがありませんでした」
「そうだろうな。神聖術を扱える者など、数えるほどしかいない」
「だったら、アベル様はなぜ? これほどできるのなら、もっと名が知られていても良いはずなのに……」
「……俺のことはいい。それより今は、この畑だ。ここが終わればあちら。その向こうも、他にもたくさんあるぞ」
そう言うと、アベルはレティシアの隣に立った。呼吸の声すら聞こえるほど近くに立ち、レティシアと並んで畑を見つめた。
「俺の言う通りに、やってみろ」
やってきたのは、村の畑だ。
芋は何とか撤去できたものの、芋に『恵み』を奪われたせいでぐったりしている。
「お前の神聖術であの芋は育ったんだろう? ならばその神聖術で、今度はもとあった野菜を救うんだ」
アベルはそう、さらりと言い放った。
もとよりレティシアが引き起こした事態。何の反論があろうか。
「よぅし、それなら昨日と同じように、魔力を目一杯注いであげて……」
そう言って、畑に手をかざそうとしたその時――
「待て」
魔力に溢れたレティシアの腕を、アベルが留めた。
「待ってって、どうして?」
「今のままでは、この腹立たしい花の二の舞になるぞ」
「じゃがいもの……?」
首を傾げるレティシアに、アベルは厳しい表情を向けた。
「そのまま全力で魔力を注げば、確かに残された作物に『恵み』が浸透するだろう」
「は、はい」
「そしてその『恵み』を受けた作物はみるみる潤い、かつての力を取り戻すだろうな」
「はい」
「それどころか、この花と芋のように、かつて以上に育ってしまうかもしれないな」
「……あ」
「それがこの領地すべての畑で起こるとどうなる? 様々な作物が根を縦横無尽に伸ばし、近隣の畑の根と競合し、絡み合い、再び『恵み』を奪い合うといった結果に……」
「わ、わかりました! 考えが足りず申し訳ございませんでした!」
「よろしい。ではもっと抑えて、畑一つ一つ、生長をほんの少し助けるだけにするんだ」
「“だけ”と言われましても……」
アベルはようやくレティシアの腕を解放した。だけどそうすると、レティシアにできることがなくなってしまう。
孤児院で畑に魔力を注いでいた時も、もう少し力を抑えていただけで、やっていたことは同じ。今のやり方を否定されてしまうと、もう打つ手がなくなってしまう。
「そんな顔をするな」
アベルの、ため息と共に静かな声が聞こえた。そこには呆れた様子や怒りの様子は聞こえなかった。
アベルはおもむろに畑の近くへ歩いて行き、水を汲んでいた桶を持ち上げた。
「よく見ろ。お前の力は、コレだ」
「はい?」
桶には水がなみなみ入っている。
それをアベルはそろりと傾けた。すると傾けた角度以上に、水は勢いよく流れ落ちていった。
「お前が今やろうとしていたことはこれだ。いきなり大量の水をぶちまけようとしていたんだ。だが、それでは畑全体に浸透しないし、作物にとっても害になることもある」
そう言うと、今度はひしゃくを手に取り、それを使って少しずつ水を撒き始めた。
「本来、『恵み』とは……神聖術とはこうあるべきなんだ。各地の聖木もこうやって『恵み』を分け与えるのが役割だ」
「は、はい! あの……アベル様はもしかして、神聖術の覚えがおありなんですか?」
「いや、ない。何故だ?」
「とても造詣が深いようなので……私、幼い頃から教育を受けてきましたけど、誰からもそんな指導を受けたことがありませんでした」
「そうだろうな。神聖術を扱える者など、数えるほどしかいない」
「だったら、アベル様はなぜ? これほどできるのなら、もっと名が知られていても良いはずなのに……」
「……俺のことはいい。それより今は、この畑だ。ここが終わればあちら。その向こうも、他にもたくさんあるぞ」
そう言うと、アベルはレティシアの隣に立った。呼吸の声すら聞こえるほど近くに立ち、レティシアと並んで畑を見つめた。
「俺の言う通りに、やってみろ」
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