憂い視線のその先に

雪村こはる

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初恋

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 いつかまどかが言っていた。
「偶然が何度か重なったらあまねくんと出会えたことは運命なんじゃないかって思えたんだよね」
 照れた顔で俯いた。

 その頃にはまだ律が必然的に2人を引き合わせたとは知らないまどかが運命を信じていた。
 偶然が重なったら運命かと思っただなんて……。

 律はふと千愛希に薦められたボールペンが入った仕事鞄を見つめた。あの時も今日だって偶然だった。
 偶然が重なったら運命だなんて馬鹿げてる。この世に偶然なんて……そんなにゴロゴロ落ちてないか。

 ふうっと息をついてふと思った。それから頭をぶんぶんと左右に振った。自分の中で認めたくないから、そう思わないようにしていたのか、そんなはずはないと知らないふりをしたのかはわからなかった。

 だけどやっぱり千愛希の顔を見れば、まどかを思い出す。それはきっと髪型や服装が似ているからだと律は思った。
 加えて2人とも目鼻立ちがハッキリした美人顔だ。化粧の仕方も似ていた。

 ぱっと千愛希を見て、まどかに似てると騒ぐほどではない。雰囲気や見た目がなんとなく似ているのだ。
 ただそれだけなら、まどかを真似た女性など数年前までいくらでもいた。長いストレートの髪に前髪は緩やかにカールして、片方は眉が見えている。
 眉の形は平行でハッキリした顔なのにキツく見えない。

 更に30代になって婚約者と破局したり、仕事に没頭していたりと境遇すら似ているような気がしたのだ。

 そこまできたらもうまどかを思い出さないなんて無理だった。反対にまどかを見かければ千愛希を思い出す。重ねて見たことは一度もない。しかし、関連付けて思い出してしまうのは無意識だった。




 そんな出会った頃のことを思い出し、律は穏やかな顔で、テーブルに置いたスマホの画面をそっと指先で撫でた。
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