憂い視線のその先に

雪村こはる

文字の大きさ
61 / 387
異性の友情は存在する

17

しおりを挟む
 千愛希の話す内容は、婚約者に対して恋愛感情がなかったことを示唆していた。それも律にとっては興味深かった。

 恋愛感情がなくとも千愛希は結婚を意識したりもするのか。それなら、当然恋人となることも可能なはず。

 元婚約者と自分とはなにが違うのだろうかと律は首を捻った。今後も自分と同じように仲の良い男友達ができて、相手から交際を迫られたら付き合うのだろうか。
 相手の男が他の男とは会うなと言ったら、自分との関係もそのまま終わりを告げるのだろうか。

 ふわふわとそんなことを考える。
 なんとなく、それは嫌だと思った。こんなにも居心地のいい相手はそうはいない。異性でありながら、知的好奇心を刺激してくれる相手にはきっともう巡り会えない。
 まどかとは違う、別の魅力を持つ女性。

「ねぇ、千愛希」

「ん?」

「俺、千愛希のことは人間として好きだよ」

 ついそう発言した時、千愛希は大きく笑った。美しい笑顔で白い歯を見せて。その笑顔は少しもまどかとは似ていなかった。

「私も律のこと好きだよ。律はね、私のこと否定しないから好き。考え方も好きだし、甘いものが嫌いなところも好き。あと、意外に友達思いなところも好き」

 無垢な笑顔でそう言われると、少しだけきゅっと心臓が小さく音を立てた。千愛希の好きは決して恋愛感情ではないけれど、本物の『好き』だった。
 容姿や経済力に寄ってきて、勝手に理想を押し付けた一時の恋愛感情とは違う。律のいいところも悪いところも知っていて、それでいて好きだと言ってくれる。

「その……人として好きだから、一緒にいることにした」

「うん? うん、一緒にいよう。律となら楽しいよ。こうやってお茶してさ、周くんやまどかさんも一緒に」

「そうじゃなくて」

「んー?」

「付き合おうかって言ってる」

 生まれて初めての告白は、上手くできなかった。これまでにないくらい顔を真っ赤にさせた律。そんな表情を千愛希が見たのも初めてだった。

「はぇ!?」

 だから千愛希は、喉の奥から変な声を出して驚いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...